一年前の出来事 ~ソロプレイヤー~
ソロプレイヤーと呼ばれる人達がいる。
多人数推奨ゲームにおいて単独でプレイするプレイヤーの総称だ。
彼らは大別として三つに分類出来ると光は思っている。
まず一つ目は自らの意思を持ってソロプレイを行うプレイヤー。
どの様にしてそのプレイスタイルになったかはまちまちであるが、ソロプレイを一番楽しんでいるカテゴリーの人達だろう。
ロールプレイや縛りプレイなどを行った結果、一人で楽しむことになったプレイヤーもここに入る。
二つ目はリアルの時間の都合上ソロプレイにならざるを得なかったプレイヤー。
これは忙しくて時間が取れず少ししかプレイできない人、見知った仲間とログイン時間が合わない人等が該当する。
学生だったのが社会人に上がって時間が取れなくなったと言う人に割と多く見られるパターンだ。
他にも所帯を持ったなど、何らかの形でリアルの環境の変化に伴う人達が多い。
そして最後の三つ目は何らかの事情でソロプレイを強いられるプレイヤー。
例えば何か悪目立ちして炎上したが為に誰も近寄ってくれなかったり、上手く話せない為に人を避ける様になってしまったりだ。
つまるところ樹神 光はソロプレイヤーの道を選んだ。
このまま引退と言う考えも無かったわけではない。
半ばトラウマになりそうなぐらいの出来事ではあったが、それ以上にフィフティスに降り立ったときの感動が忘れられなかったのだ。
大好きだったあの世界の住人としての没入感は物凄かった。
仲間はいなくてもあの世界を楽しむことは出来る。むしろもっと見てみたい。
その想いから再びFRO/FDの世界へ行こうと決めた。
とは言うものの光は正直なところウッドロウをもう一度作ってプレイする気にはなれなかった。
どこかで彼らと鉢合わせでもしたら気まずい上に、また笑われでもしたら今度こそ立ち直れなくなるかもしれない。
そう考えた彼は愛着もあったウッドロウから心機一転、新たにキャラクターを作成する事を決める。
どうせならばとウッドロウと真逆のタイプで行くことにした。似たようなキャラクターだと万一にでも気づかれるかもしれないと怖かったためだ。
金髪碧眼で長髪の顔立ちから黒髪紅眼の短髪へ。
作っているうちにプレイスタイルも決める事にする。ウッドロウは魔法系キャラクターだったので、このキャラクターは前衛系にすることにした。
どうせソロをするのだ。一人で戦う以上近接戦をするのが一番だろうと言う考えでもあった。
性別も変える事は出来たが、これは男のままで決定。女キャラがソロをしていると他のプレイヤーが寄ってきそうだし、何よりこのゲームは声が変えれない。
可愛い女キャラクターから男の声が出るのは……まぁプレイスタイルとしてはありかもしれないが、光としては自分のキャラクターでそれはちょっと遠慮したかった。
そして大よそ出来上がったキャラクターは、なんとも中高生が好みそうなゲームやラノベの主人公っぽい青年のキャラクターになった。
この造詣に近しいキャラクターはあの世界にたくさんいそうだと思う反面、このキャラクターであれば逆に他に紛れて目立たないかもしれない。
これでいいかとキャラクリエイトを終えた光が視線を送った先には唯一空欄になっている箇所。
(名前、どうしようかな……)
樹の光だからウッドロウだったし、今までの流れで名前も逆にしてみることにする。
(光の逆だから闇、つまりはダーク。ただ樹の逆はなんだろう……風? でも風の逆は大地とかだよなぁ……雷あたりかな)
雷の闇と安直に入力し、キャラクター名の欄に『サンダーダーク』と文字が書かれる。
だがこれは無いわ、と光は即座に却下の判断を下した。
ならばと同じ文字が続いていたのでそこを纏めて今度は『サンダーク』と入力する。
先程よりはぐっと良くなったが、この名前はとても強い……と言うかなんかものすごくいかつそうなイメージだった。
光の頭の中で筋骨隆々の仮想サンダークが思い浮かび、このままでは筋力にステータスを振りかねない。
(もうちょっと弄るか……文字数はこのままがいいから……)
ポチポチとコンソールを再び操作し、キャラクター名の欄に『サンダルク』と表示される。
若干の違和感はあるものの、得てして最初につけた名前などこんなものであろう。
使っていくうちに違和感もなくなるか、と光は自身の中で結論付け、最後に完成のボタンを押す。
最終確認の画面が出てきたので念の為に今一度チェックを行ったが特に問題は無し。
最後に決定キーを押すとキャラメイクが終了し、ウッドロウの時と同様に周囲が光に包まれていった。
こうしてFRO/FDにおける新たな光の分身である『サンダルク』が誕生する。
幸か不幸か、彼の望み通りサンダルクはプレイヤーの誰とも会話をする事が無い程にソロプレイにどっぷりとはまることになった。
故にその存在は誰にも知られることも無く、FRO/FDにおいて無名のソロプレイヤーAとして過ごす事になる。
一年後の『サンダル事件』にてその名が轟くその時まで――。