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フィフティスでのひととき


 相変わらず一周年記念で盛り上がっているフィフティスの街。

 街門を潜りぬけたサンダルク達は大通りからすぐに裏通りの方へと歩を進めた。

 裏と言っても薄暗いようなイメージはなく、どちらかと言えば住宅が目立つ通りである。

 大通りが旅人や商人、探索者向けの店が多いのに対し、こちらは食料店や生活雑貨など住人向けのお店が並んでいた。

 

 スイカ達を連れその街並みを眺めながらゆっくりと歩く。

 通りから見える雑貨店のショーウィンドウをモモとミカンが物珍しげに覗いたり、美味しいそうな匂いのする料理店からスイカを引き剥がしたりと中々目を離せないサンダルクだったが、今まで一人でやっていたためこの様に賑やかなのは初めてであった。

 もし一年前の一件で少し何かが違えば、周囲にいるのはかつての仲間だったかもしれない。

 そんなことを考えつつ街中を歩いていたら程よい時間になったため、フリーダに指定された店に向かう事にした。


「主様、ここですか?」


「多分……」


 地図に書かれた場所、店名も二度チェックしたので間違えようはない。

 そこは大通りに面したオープンテラスの喫茶店だった。決してドレスコードが必要そうな店構えではなく、至ってこの街と世界観に合わせたお洒落なお店である。


(……えぇ、ここ入るの?)


 口には出さなかったが、思わず光は心の中で愚痴をこぼす。

 彼が問題にしているのは客層だった。店内にいる客はプレイヤー、NPC問わず殆どの客が若い女性だ。

 男性もいるにはいたが、必ず連れに女性が一緒にいる組み合わせである。

 思わず二の足を踏みそうになる光だったが、店の入り口の前に何時までも立ってる訳にもいかず意を決しドアを開ける。

 若干周囲から奇異の目に晒されながらスイカ達と一緒に店の中へ入ると、NPCのウェイターがサンダルクたちを出迎えた。


「いらっしゃいませ、サンダルク様ですね。フリーダ様から伺っております。どうぞこちらへ」


 サンダルクの名前が出たとき店内の何人か――恐らくプレイヤーであろう人々から光は一斉に視線を向けられる。

 敵意のようなものはなく、どちらかと言えば有名人を見たかのような奇異の視線。

 だがそれ以上は何も無かった。若干居た堪れない気持ちになりつつもウェイターの後を追いそのまま席へと案内される。


「おー、街並みが良く見えるな!」


 案内されたのはスイカが言うようにオープンテラスの一番外側の席だった。

 普通に考えれば街並みを眺めつつ優雅な一時を、と言った場所なのだろう。

 だが喋るコボルトに加えサンダルクの頭の上に浮かぶプレイヤーネームが、この見晴らしの良い席を見世物状態へと変えてしまっていた。

 それに気づいていないのは上機嫌なスイカ達のみである。


(視線が痛い……でもまぁそりゃ見るよなぁ。自分だってあっちの立場なら多分見るだろうし)


 流石にサンダルクとしても騒ぎ立てるようなことは出来るはずも無く、早くフリーダ達が来ないものかと祈るばかりであった。

 周囲をキョロキョロと眺めるスイカ達だったが、ウェイターが料理を持ってくるとその動きもピタリと止まる。

 今にも料理に飛び掛りかねない目をしていたが、流石に長からの躾が行き届いているのか何とか程度ではあったがしっかりと我慢していた。


「あの、主様は何も頼んでいませんが……」


 そしてこの中で一番理知的なミカンがウェイターに疑問を投げかける。

 目の前に置かれたのはスイカ達が好きそうな肉料理とサンダルク用と思しき軽食や菓子類の数々。

 どれもがとても美味しそうだったが、彼女が言うようにサンダルクはおろかこの場にいる誰一人として注文はしていない。

 むしろ光は昨日の買い物で再びお財布事情が寂しくなっているのでこんなにも注文ができない状態だ。

 しかしウェイターはにこりと笑みを浮べると大丈夫ですよと告げる。


「フリーダ様より既に御代は頂いております。ですのでご遠慮なさらずどうぞお召し上がり下さい」


「そ、そうですか。そう言うことでしたら……」


 ちらりとサンダルクの顔色を窺うミカンの目は『主様、よろしいでしょうか』と存分に語っていた。

 理知的とは言えミカンもコボルト。目の前の美味しそうな料理に自制心を保つのも中々厳しいのだろう。

 スイカとモモに至ってはそろそろヨダレが落ちそうである。


「ん」


「「「いただきます!」」」


 サンダルクが頷くや否や、三匹は揃って料理に齧り付く。

 その様子にウェイターと一緒にサンダルクも苦笑をもらすと、彼も目の前の料理を頂く事にした。


(でも借りが一つ出来ちゃったなぁ……)


 中級者以上のプレイヤーならばここの支払いなんてそこまで大したことでは無いことを光は知っている。

 それでもどこかで返さなきゃな、と思いながらサンダルクがお菓子を摘んでいると、不意に視界の中にある人物がいる事に気が付いた。

 見つけたのはたまたまであったが、道を挟んだ向かい側の建物の二階。その部屋の一室にフリーダの姿を見つけたのだ。

 しかも彼女は窓を開け『探索者の本』を持ち、筒状の何かを本の表紙に取り付けこちらに向けていた。


(……あれってスクショの解像度とか倍率上げるやつだったよね)


 スクリーンショット自体は探索者の本の機能で誰にでも可能なのだが、更により良い写真を収めるには別の道具が必要となってくる。

 現在フリーダが持っているアイテムもその一つだ。扱いとしては現実世界の望遠レンズの様な物である。


 そして光は気づいてしまった。

 そもそも昨日あれほどスイカ達と会うのを焦がれていたフリーダが待ち合わせに遅れること自体がおかしいのだ。

 そこには必ず何か理由があり、そしてその理由が今の彼女の姿なのだろう。

 つまりわざと遅らせ美味しそうに料理を食べているスイカ達を撮っていると言うわけだ。料理に関してはそのお礼も兼ねているのかもしれない。


(……まぁいいか)


 晒し者状態は早く脱したい光だったが、目の前で幸せそうな顔をして料理を食べる三匹を見てはしばらく好きにさせておく事にした。

 そもそもサンダルクの今の所持金ではスイカ達には贅沢はさせてあげられないのだ。

 それを取り上げるような事をすれば落胆するのは目に見えている。ならば向こうの好意には遠慮なく甘えておいた方が良いと光は判断。

 それに邪魔をしたらフリーダが何をするか分かったものでは無い。

 彼女の気が済むまでさせておき、お互い良い雰囲気のまま教えを請うのが一番――


「う!?」


 瞬間、光の視界が反転する。

 続く椅子が転がる音とサンダルクが床に倒れる音、そして少量のダメージ表記から『椅子から落ちた』と言うことだけは分かった。

 しかし何故、と言う疑問が浮かぶも、すぐさまその答えが返ってくる。


「よぉ、探したぜ」


 倒れ伏したまま見上げた視線の先。

 そこには見知らぬ男性プレイヤー達が倒れたサンダルクを見下ろしていた。


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