それぞれの手紙
ヨッツと言うプレイヤーから運ばれてきた手紙を要約するとこうだった。
まず彼、そしてサンダルクがフレンド登録したフリーダは同じクランの人である。そして彼らのクランはどうやらテイマーと呼ばれる人達が集まっているクランらしい。
そしてヨッツがフィフティスの街中にいる時にたまたまスイカ達を抱えたサンダルクが横切り、掲示板にその話題を出したところフリーダが動いた。
後は武具屋での通りだ。無類の動物好きでもあるフリーダが暴走気味だったが、要約すればスイカ達の物珍しさや可愛さに惹かれての事だったので許してあげて欲しいとのこと。
そして良ければ色々話が聞きたいので遊びに来ないかと書かれていた。もちろんその分あちらもサンダルクらに対して有益になることは極力協力してくれるそうだ。
尚フリーダからの大量のメールはスイカらに対するラブコールが九割、残りが催促だから見ないで良いと追伸に申し訳無さそうに書いてあった。
今は一応落ち着かせたのでフレンドメールは届くことはないが、また発作が起こりかねないのでアクションを起こすなら早めにと中々怖い事も記載してある。
「ご主人、あの人のとこ行くのか? オイラちょっと怖い気がするんだけど……」
「んー……危害は加えないと思うよ。多分……」
ただテイマークランで無類の動物好きらしい彼女によってどうなるかは何となく想像できる。
危害は無いだろうけど色々とモフられそうは気はした。
「まぁいつかは行かないといけないから、ね」
さもなくば待ってるのは向こうからの突撃になりかねないだろう。
我慢に我慢を重ねたフリーダと、現状幾分か空気が抜けているフリーダならどちらがマシなのかは言うまでもない。
「とりあえずフリーダさんに手紙出しておくね」
ヨッツにメールバードでも良かったのだが、あまり掛からないとは言え現状での出費はなるべく避けたい。
それにフリーダなら送った瞬間すぐに返事が来るだろうと光は考えたからだ。
だがちょっと待て、とある事が光の頭に浮かび、その手紙を書く事に待ったをかける。
「マスター、どうしたの。書かないの?」
「あ、うん。書くよ。ちょっと待ってね」
探索者の本を操作し宛て先をフリーダからファルナへ変更。
特に用事があるわけでは無いのだが、スイカに連れられてコボルトの村に行ったため彼女とはまともに挨拶すらしていない。
何となく心配してるのではないか、と言う考えに加え、彼女のお陰で【重桜無刃】の最初のロックが外れたこともある。
その為、何となくではあるが最初のフレンドメールは彼女に送るべきだと光は思ったのだ。
(……まぁ当たり障りの無い文章がいいよね)
普通なら『また今度機会があったら一緒に遊ぼう』なんて書くのだろうが、生憎と光は色々と問題を抱えている身。
それに彼女の性格ならお誘いメールなんて山ほど来てそうだし、全てに対応してしまいそうな雰囲気すらあるので言わないほうが無難だろうと結論付ける。
なので手紙の中身は現状こちらは大丈夫だと言うことと、わざわざ自分を探してくれてありがとうと言う謝意だけを添え、光は初めてのフレンドメールを送信した。
(んでこっちはと……)
一応少しだけフリーダのメールを開けたが、そのどれもがヨッツが言ってたような内容だった。
とりあえずフリーダに宛てこちらもメールを送信。
内容としてはスイカ達との戦闘の連携がうまく取れないため、何かコツみたいなものは無いか良かったら教えて欲しいと言うことをしたためた。
テイマー系クランならば魔物との連携は他のプレイヤーよりはずっと高い。スイカ達はNPCであちらはテイムモンスターと言う差はあるが、何かしら有益な情報は望めるはずである。
そして予想通りフリーダから返信メールが届くのに一分も掛からなかった。
◇
「ただいー……あら、ご機嫌ね」
自身が買ったフィフティスのとある建屋の一室に戻ったサミーは、部屋に入るなり上機嫌な友人のファルナを目撃する。
備え付けの椅子に腰掛け、テーブルの上に探索者の本を開きペンを走らせている見慣れた光景。
人当たりの良い彼女の元には普段から何通ものメールが届き、そしてそのメール一通一通にしっかりと返事を送るのはもはや日課になっていた。
「あ、おかえりなさい。……あれ、何かあったの?」
「え? あー……ほら、うちの愚弟共がまた武具作ってくれって言ってきてね」
「ショウゴさんとジェシルさんが?」
そうよー、とやや疲れた声を出しながらサミーはファルナとテーブルを挟んだ向かいの椅子に腰を掛ける。
「結構良い装備作ったのにまたせびりに来るから拳骨でも落としてやろうかと思ったんだけどさ。なんか二人とも『強く無くて良いから身の丈のあった自分が強くなれる武具が良い』って言い出してさ」
「そうなんだ」
「前に作ったときに調子乗ってたから失敗したかなぁって思ってたんだけど、何かあったのかしらね。普段なら貴女連れて出かけそうなのに、二人でそのまま行っちゃうし」
何かあったと言う部分にファルナは心当たりはあった。
恐らくではあるがあの強大な魔物を前に成す術もなくやられてしまったことだろう。結局あの後サンダルクが撃退しファルナは助かったのだが、その事を聞いた二人は驚きそして神妙な面持ちをしていたのを覚えている。
「んー……男子三日会わざればなんとやらって言うしね。でも良い傾向なら大丈夫じゃない?」
「そうなんだけどあの二人だからねぇ。いきなり良い子になったってわけじゃないけど、何か不気味と言うか……」
ファルナとしてもリアルの二人も知っている為友人の言葉には苦笑をもらすしかない。
「で、そっちはどうしたのよ。普段より上機嫌みたいだけど」
「あ、そうなの! あのね、前言ってた探してた人に偶然会えたの」
その瞬間、サミーの疲れた顔が鋭い視線を帯びた表情に変わる。
友人の変わり様に若干たじろぎつつも、ファルナはその時の様子を丁寧に彼女に話した。
はじめは怖い程に圧を放っていたサミーだったが、ファルナが真摯に話していくにつれて次第にそのなりは潜めていく。
「つまりうちの愚弟と『はじまりの森』でたまたま出会って、フレンドコード渡して、そしてその人から手紙が来たってこと?」
「うん!」
「……? 『はじまりの森』にその人がいたの?」
「うん、ショウゴさんやジェシルさんも一緒に話したから間違いないよ」
その言葉を聞きサリーは思わず怪訝な表情を浮べてしまう。
ファルナから前に見たときはその人物の名前は赤かったと聞いている。つまりプレイヤーキラーと言う事だ。
しかし『はじまりの森』は国の管轄化にあるため、出入り口にはNPCの門番がいる。とても赤い名前の人物が出入りできる場所では無い。
(う~ん……?)
「難しい顔してるね。あ、コーヒー飲む?」
「……そうね、いただくわ」
ファルナに淹れてもらったコーヒーを口に含み考えをまとめるサミーだったが、いまひとつ人物像が掴めない。
まぁ別にプレイヤーキラーでも性格がまともな人も中にはいるか、と割り切ろうとしたとき、ふとまだその人の名前すら聞いていなかった事に気付く。
「ねぇ、今書いてるその手紙ってその人への返事よね」
「そうだよー。あ、そう言えば名前赤じゃなかったよ。私達みたいに白かったけど見間違えたのかな」
「(禊でも済ませたのかしらね。)そうなんだ。それで結局なんて名前の人だったの?」
「サンダルクさんだよ。折角だし機会あった熱い!?」
その名に思わず口に含んだコーヒーを盛大に噴出すサミー。
レベルが上がったキャラクターの恩恵か、まるでマンガのように噴出されたコーヒーは対面にいたファルナに降り注ぐ。
「げほっ!! えほっ……! え、何。サンダルク……?」
「うぅ……そうだけど何するの……」
物凄い恨みがましい視線をファルナから送られるサミーだったが当人はそれどころではない。
何せもしファルナの言ってるサンダルクがあのサンダルクだとしたら……。
それはつまるところ、クラン潰しのキャラクターが初心者しかいないダンジョンに何らかの形で侵入できてしまっていると言う事になるのだから。




