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園長襲来


 ソレの存在に最初に気がついたのは武具屋の店主だった。

 カウンターにいる彼は客と異なり内側から外側を見るような形になっている。

 だからこそ普段と明らかに違う光景にすぐに気がついた。そしてまるで信じられない物を見たかの様に自身の目を二度ほど擦っては改めてそちらに目を向ける。

 もしこの光景をサンダルクが見れば、誰もいないのに仕草が細かいなぁと感心しただろう。


「あの、今回はこれ、を……?」


 そしてサンダルクがそれに気付かぬまま手にショートソードを二本抱えてカウンターへと持ってきた。

 しかし店主の顔を見て彼は怪訝な表情を浮かべる。客が商品を持ってカウンターまでやってきたのに、店主の視線は別の一点をさし続けていたからだ。

 一体何だろう、とサンダルクがその視線の先に顔を向けた次の瞬間だった。そのあまりの光景に反射的に体がのけ反りそうな程に驚き、思わず持っていた剣を落としてしまう。

 ガシャンと甲高い金属音が店に響いたにも関わらず、店主も、サンダルクも、そしてソレも誰も落としたことを気にも止めない。


 ソレは有り体に言ってしまえばサンダルク同様のプレイヤーだった。

 しかも女性キャラクターだ。

 ただし店の窓にこれでもかと言うぐらい顔と手を密着させ、どう考えてもまともじゃない目で何かを追っている。

 殺し殺されかあるとはいえ、基本明るいファンタジーの世界観であるこのゲームに似つかわしくない程の光景だった。十人いれば十人ともが『あれ、ホラゲーだったっけ?』と言っていたであろう。

 それほどまでにこの場にそぐわない雰囲気をそのキャラクターは出していた。


「あ、ご主人ー! どう、オイラカッコいい?」


 そんな雰囲気を出している女性とは対照的に、スイカ達が棚の陰から姿を見せサンダルクの下へ近づいてくる。どうやら件の人物には気がついてないようだ。

 見ればスイカの首元には、はためくような真っ赤なマフラー。緑色の毛に赤いマフラーのコントラストは、見る人が見れば昔の変身ヒーローを思い出させるだろう。


「あ、うん。カッコいい、かな?」


 しかしサンダルクは窓の人物が気になって仕方がない。しかもあろうことか今度は彼女の視線がサンダルクの方へと向けられている。

 正直あんな怖い人物などサンダルクは知らない。しかし現在自分は何故か正堂騎士団を潰したと言われてる身。

 身に覚えがないだけで恨まれてる可能性は十分にあるのだ。……本人としては頭の痛いところだが。


「もー、マスター。ちゃんと見て! 折角モモとミカン姉ぇが選んだのよ!」


 ぷんすこと言う擬音が聞こえそうなモモの様子に後押しされ、件の人を視界に入れないようにして改めてサンダルクはポーズを取り続けているスイカを見る。

 そもそもこのお店にマフラーなんてあったかな、と思いよく見てみると、それはマフラーではなく人間用のバンダナだった。

 スイカ達のサイズだとバンダナが丁度マフラーサイズになるようだ。


「うん。とても似合ってると思うよ。ミカンやモモも良く見つけたね。でも二人の分無さそうだけどいいの?」


「見てみたけど私達に合いそうなの見当たらなかったのよ」


「それでしたら前衛のスイカさんに何かと思いまして」


 ねー、と顔を見合わせるモモとミカンはまるで姉妹の様でとても微笑ましい。

 そしてスイカ自身も選んでもらったのが大層気に入ったのかとても上機嫌な様子であった。


「ん、じゃぁそれ購入しよっか。預けたお金から買ってきてね」


「「「はーい!」」」


 そして三匹が店主に話しかけると彼もようやくと言ったようで我に戻った。

 その様子に一安心したサンダルクは落ち着くために一度息を吐き、落とした剣を二本とも拾い上げる。

 そして再び先ほどの窓にチラリと視線だけ向けると、いつの間にか張り付いていた女性は姿を消していた。

 いや……


(何してんだろ……)


 よく見ると窓の向こうで先ほどの女性が誰かに注意を受けていた。

 身なりからして恐らくはプレイヤーと光は推察。とりあえず自らあの人と関わりあうことは無いと結論付け、一旦その事を頭の中から追いやる事にする。


「ご主人様、買ったよ! はい、おつり」


「あ、うん。ありがと。ちゃんと買えてたみたいで良かったよ」


 とりあえずNPC同士人のお店での買い物が出来た事に安堵し、サンダルクは自分の分のショートソードを二本購入。

 まさか一日に三本も買う事になるとはなぁと内心苦笑しつつ会計を済ませ、そのまま背中と腰に一本ずつ剣を身につける。

 すると不意に後ろから誰かにトントンと肩を叩かれた。


「…………」


 何となく嫌な予感はしていたが無視するわけにもいかず、ゆっくりとサンダルクが振り向く。するとそこには先ほど窓に張り付いていた女性の姿があった。

 ただし張り付いていた時と違い普通に立っている分にはただの一プレイヤーに見える。

 そしてそんな女性の後ろには先ほど表で女性を注意していた男性プレイヤーの姿。こちらが視線を向けた事に気付いたのか、ゴメンとばかりに片手を挙げ謝罪ポーズを取っていた。


「…………」


 そして女性は何も言わないままじっと視線を下に……正確にはサンダルクの足元にいるスイカ達に向けられていた。

 肩を叩き呼んだはずであるサンダルクの顔に見向きもしない。


「えと、何か……?」


 恐る恐るサンダルクが問いかけると、彼女は左腕をゆっくりと胸元付近まで挙げる。


「……【ブック】」


 困惑するサンダルクを余所に女性が探索者の本を出すと、まるで無駄を全て排したかのような滑らかな動きでそれを操作。

 程なくしてその操作によって現れたシステムメッセージが光の視界に現れた。


『プレイヤーネーム"フリーダ"さんからフレンド申請がありました。承認しますか?』


「…………え?」


 一体何故、と彼女――フリーダに目を向けるも、当の本人は未だサンダルクに見向きもせずその足元を凝視している。

 その視線の先には先の買い物について話し合うスイカ達の姿。

 そしてフリーダの視線に気がついたのか、スイカ達は話を中断し何だろうとばかりに小首を傾げながら彼女を見上げる。


「ごはっ!」


 その瞬間あまり女性が発してはいけないような声と共に鼻血を吹き出し仰け反るフリーダ。

 突然の出来事に目の前にいたサンダルクはもちろん、その場にいた全員が驚き彼女から一歩距離を置く。

 スイカ達に至っては三匹ともサンダルクの背中にへばり付く程だった。


「かっ、かわ……!!」


 そして当の本人は手で鼻を押さえ上を向き何やらぷるぷると体を小刻みに動かしていた。

 はっきり言ってものすごく不気味な光景だった。人付き合いが苦手な光は思わずログアウトボタンに手を伸ばしかけた程である。


「あー、園長。皆ドン引きしてますから今日のところは行きますよ」


「ま、待って……せめてスクショ……!」


「フレコは送ったんでしょ? ならまた今度にしましょう。それでは皆さん、お騒がせしました」


 フリーダとは打って変わり理知的な男性プレイヤーはそう言うと一礼し彼女を連れ店を出て行った。

 店舗の外から女性の叫ぶ声が聞こえてくるが、それも徐々に小さくなりついには店内に静寂が訪れる。


「マスター、あの人知り合い?」


「ううん、全然知らない人……」


 一体何だったんだろうと思うも答えが出るはずも無く、サンダルク達は入り口のドアをしばらく見続けているのだった。



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