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はじめてのまち


 意外な事にモモは【転移魔法(ポータル)】を扱える魔法使いだった。

 ファストトラベルと呼ばれる一瞬で目的地に着く手法だが、実はこのゲームでは殆ど無い。

 光はプレイヤーとしての視点で見た場合ならば、運営がこの広大な世界を見て欲しいと言うことなんだろうなぁと言う事は何となく理解していた。


 そしてモモの【転移魔法】で出た先は『はじまりの森』の外周部に当たる木々に囲まれた場所であった。

 サンダルクが詳しく聞いたところコボルトの村は隠れ里みたいなものであり、出入りの際は今回のように転移魔法を使うらしい。

 実際スイカに簀巻きにされて運ばれたときも、途中でモモの【転移魔法】を用いたのだそうだ。


「モモはすごいね」


「ふふーん! もっとモモの事褒めてもいいのよ!」


 素直な賞賛の声を送ると得意気な顔をするモモ。

 魔法使いルックの犬が踏ん反り返るというレアな光景を目にしつつ、【転移魔法】について光はもう少し詳しく聞いてみることにした。

 それによると現状のモモのMPではそうお手軽に出せるものではなく、連続で使用した場合は二回が限度。休憩を挟みMPを回復させながらであれば問題なく使えるとのことだった。

 また転移先は現在は『コボルトの村』と『はじまりの森外周部』が固定で設定されており、空きが一つある状態。ただしレベルが上がればもう少し空きは増やせるらしい。


(となると帰る場合やいざと言う時の撤退を考慮すると【転移魔法】一回分のMPは残しておいて貰うのがベストか)


 その場合は他の魔法を使う際に制限が掛かる。

 しかし一長一短だと感じつつも安全面を考慮すれば【転移魔法】一回分のMPを温存させておくのは必須だと光は感じていた。


「ご主人ー、早く街に行こうよー」


「あ、うん。でもちょっとその前に寄り道させて。お金とか貰わないといけないからね」


 『はじまりの森』のギルドに寄って受けていた討伐や採取の報酬を貰わないといけない。

 何せサンダルクは武具を新調した上で森に挑んだため結構金欠状態であった。その上ショートソードがへし折られているので報酬を貰わねば完全に赤字一直線である。


「とりあえず皆は俺から離れないようにね。人も結構いるから」


 スイカ達に注意を促しつつ一行は『はじまりの森』のギルドへと向かって行った。



 ――初心者掲示板に『はじまりの森のギルドに犬まみれの男が出た』と言う言葉(ワード)が出回るまであと五分。



 ◇



(こっちもすんなり通れた……拍子抜けだけど変に絡まれるよりは良いか)


 『はじまりの森』のギルドで報酬を貰ったサンダルク達はフィフティスへと戻ってきていた。

 正確に言えばギルド内で予想した通りコボルトを連れたプレイヤーと言うことで注目を浴びたため、何かを聞かれる前にそそくさと逃げてきたと言うのが正しい。

 街の門番もテイムモンスターと思われたのかスイカ達が止められることも無く、一人と三匹は無事街の中に入る事が出来た。


「うわぁ……!」


「兄貴、圧倒されちゃうね……」


「人間ってすごいんですね。こんな大きな建物を作るなんて……」


 そして現在、スイカ達は初めて訪れた人間の街に感動しているようだった。

 フィフティスはこの世界の首都と言えるほどの大都市であり、建物も街の通路もその規模に違わず綺麗に整備されている。

 彼らにすればまさに豪華絢爛と言うべきものなのだろう。首が痛くならないのかな、と光が心配になりそうなほどに上を向き感嘆の言葉を三匹は漏らしていた。

 そしてこの光景、実は一年前の光と同じ反応だ。当時の事を思いだしては思わず感慨に浸ってしまう。


「街のお散歩、後でする?」


「「「する!!」」」


 何となしに聞いてみたら即答だった。コボルトは犬系の魔物だから散歩というワードに弱いのかもしれない。


「でもとりあえず予定通りまずは武具屋ね。それから道具屋。後は見ての通り人が多いから……」


「分かってるって。皆、フォーメーションだ!」


 スイカがミカンとモモに合図を送ると三匹がサンダルクに群がりそのまま体をよじ登っていく。

 そしてスイカは肩車状態に、そしてモモとミカンはサンダルクが抱え上げるように片手に一匹ずつ持ち上げる格好となった。

 フィフティスのような人が多い場所で迷子にならない為の苦肉の策だ。特にスイカ達は身長が低いので、はぐれてしまうと見つける事が困難になってしまう。

 なお現在の見た目について光は考えないことにした。


「ご主人、ごー!」


「主人に対する態度じゃないよね……」


 ぺしぺしと頭を叩かれつつ犬まみれの男は一路武具屋を目指していく。



 ――テイマー系掲示板に『喋るコボルトを連れた男を見た』と書かれお祭り状態に入るまであと三分。



 ◇



 サンダルク一行が武具屋に入るもやはりNPC店舗には悲しいかな誰もいなかった。

 それでも客が来てくれた事が嬉しいのか、店主が笑顔を浮かべいらっしゃいと言ってくれる。

 だがそれも一瞬のこと。現れた客が頭と両手に色違いのコボルトを乗せているのだから、その笑顔がなんとも言えない困惑顔に変わるのは仕方の無いことだ。

 しかしそこは商魂逞しい商売人か、はたまた同じNPCとしてのシンパシーからか。

 モンスターを狩る武具を売る人物が当のモンスターを目の当たりにしても、特に何かを言い出すことは無かった。


「ほら、皆降りて」


 もう担ぐ必要は無いと思いサンダルクがそう言いしゃがむと、三匹は言われた通り店の床へ降り立つ。


「おぉ……武器がいっぱい……」


「危ないものもあるからあまり触っちゃ駄目だからね」


 そもそもここは人間の武具屋であり、残念ながら体が小さなコボルトが扱えるようなサイズはない。

 ナイフですらスイカ達にとっては片手剣レベルの大きさだ。しかも持ち手である柄は人間に合わせているので彼らが扱うには少々難しいのは目に見えている。


「とりあえず……ミカン、ちょっといい?」


「はい、なんでしょうか?」


 手招きしミカンを呼び寄せて必要なことを尋ねる。話の内容は『コボルトは買い物システムを理解しているか』だ。

 いきなり店の物を取ったり壊しでもしたら目も当てられない。弁償とて痛いところだが、監督不行届で折角戻ったカルマ値を増やされるのは光としては勘弁願いたいところであった。

 しかしそんな懸念はすぐに杞憂でしか無かったと告げられる。


「大丈夫ですよ。村でもお店はありましたので」


 ミカンは笑顔のままその辺りについて丁寧にサンダルクに説明し始める。

 コボルトの村にはちゃんとお店があり、そして買い物システム自体もある。

 光がそれを知らなかったのは、村人である他のコボルトが見慣れぬ人間を見て怯えて開店休業状態だったからだ。


「それでも人間の街でのお買い物は初めてです。主様、教えていただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、うん。あまり変わらないと思うけど……」


 その後ミカンと知識の共有とすり合わせを行ったところ特に問題は見受けれなかった。

 とりあえず今後の事を考え、サンダルクはミカンに幾ばくかのお金を預け何か買えそうな物があれば買い物を実践するように指示を出す。

 そしてミカン伝いにその事を聞いたスイカとモモは彼女を引っ張り店の奥へと駆け出して行った。


 その様子に苦笑を漏らしながら三匹を見送ると、サンダルクは改めて自分の武器を探し始めることにした。



 ――武具屋の窓に見ず知らずの女性プレイヤーが貼り付くまであと三十秒。



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