コボルトの依頼
「よく来ましたね。私がコボルト族の長です」
(コボル……ト?)
サンダルクの前にいるコボルトの長と名乗ったのは体長二メートルはあるかという狼だった。
同じ犬系だし獣のモンスターと頭は分かっているが理解が追いつかず、光は思わずフリーズしてしまう。
「ふふ、他の子と私が違うので驚いているようですね」
「え、いや、その……」
NPCにも関わらずプレイヤーの心を読んだかのような対応に光が困惑していると、長はゆっくりとこの場へ呼んだ理由を話し始める。
「貴方をお呼びしたのはあの乱暴者のコボルトーガに一矢報いた者……いえ、私達の代わりに倒した者だからです」
「あー……あの、別にコボルトらの為ではなくて……」
「分かっていますよ。過程は違えど結果は私達の為になった。そんな貴方に私から一つお願いがあるのです」
「お願い……?」
サンダルクが長に問い返すのと並行し、光は長の言葉からプレイヤーとして思考をめぐらせていた。
(予想通りフラグはコボルトーガに対する何か。長の会話から察するにあれに一矢報いて生存が最低条件、俺は倒したからそこから少し分岐したか……?)
しかしこの様なイベントの話はネット上でも今まで聞いたことが無いので真偽は不明。
そもそも倒した際に称号として【初撃・二種撃破者】をサンダルクが得ていた事を思い出す。この称号の頭の【初撃】はFRO/FDにおいてボスを最初に倒したプレイヤーである事を表している。
つまりイベントが進行中である現在において、少なくともコボルトーガ・Fを倒した状態なのはサンダルクだけ。
未知を行くことを生業とする探索者としては未踏を進むのはありなのだろうけど、プレイヤーとしての光としては手探り状態。
失敗したく無いと言う感情からどうしても慎重にならざるを得なくなっていた。
「はい。我々コボルトが外の世界でコボルトーガに虐げられているのはご存知ですか?」
「まぁ……」
しかしその反面、誰もしたことのないであろうクエストにワクワクするのがプレイヤーと言うもの。
であるならばここでの光の選択は『可能な限り長の望みを聞く』以外にありえない。
その道を踏み外さないよう慎重に事を進めていく。
「正確には外のコボルトは私達と袂を分かった子達です。ここに来るまで村の中をご覧になったでしょうが、残った子達は大人しい子達ばかり。外に出た子達はこの村の子達が臆病者に見えてしまったのでしょうね、血気盛んな子が多かったですし」
(あぁ、だから普通のコボルトはプレイヤー襲うわけか……)
「ですがその子達がヤンチャしたためか、種族としてコボルトーガに目を付けられる事になってしまいました。向こうからすればここにいる子達も外に出て行った子達も同じコボルト、見分けが付かないためどうしても因縁をつけられてしまいます」
「それは……その、何と言えばいいか……」
流石にご愁傷様ですと言える筈も無くまごついているサンダルクに長は苦笑で返す。
光もこのゲームをやって一年は経つが、こういう人の感情の機微をNPCはどうやって読んでいるのだろうかと毎回感心してしまう程の出来だ。
「いいのですよ。そこで本題なのですが、貴方にはこの村の子達を強くする手助けをしてもらいたいのです」
「手助け……?」
「えぇ。弱き身でありながらあのコボルトーガに立ち向かい打ち倒した貴方だからこそお願いしたいのです」
長の言葉を聞きつつ光は脳内で情報をまとめていく。
向こうの願いとしては戦力増強だ。強くすると一口に言っても鍛えるとかアイテムを集めるなど様々な手段が想定される。
それにちょっとだけ気がかりな事もあった。
「長様、具体的に自分は、その、何を……?」
「具体的には供回りとしてこの村の子を預けますので貴方の旅への同行をお願いしたいと思っております。その旅で得た知識や経験、技術をその子らから村に残った子に伝えることで強くなればと考えてます」
(つまり特にあれしろこれしろみたいな事は無く、旅に連れて行き折を見てここに戻らせれば良いってことか)
話を聞いた光は頭の中でメリットデメリットを手早く計算し始める。
デメリットお世話するコボルトが一匹増え、周期はわからないがここに戻る必要が出てくる。
メリットは誰も知らないクエストが行える上に、これでついに一人旅……もとい独り旅が無くなる。
光だって好き好んでソロプレイヤーになったわけではない。テイマー系のスキルを取ろうとした事も一度や二度ではない。
ただテイマー系スキルは色々と前提がある上にソロ仕様スキルと構成が悪く泣く泣く諦めていた。
それにモンスターテイム用のアイテムを効率良く手に入れるのにプレイヤー間とのやり取りがあったので、どちらにせよ諦めざるを得なかった。
そして導き出される結論は断わるなんてとんでもないである。
ただ二つほど、光には気になることがあった。
頭の中でしっかりと言葉をまとめ、原稿を読むかのようにゆっくりとその疑問を投げかける。
「その、外の世界には自分よりもっと強い人がいます。それに昔、コボルト倒した事だって……」
光が気になっていた点は二つ。
一つは強い探索者を求めるのであれば今の自分より強い人間はたくさんいると言うこと。それこそレベルがMAXになっているプレイヤーだっている。
もう一つはコボルトを何度も倒しているのは同じコボルト族としてはどうかと言うことだ。少なくとも同族に対し戦っている以上、あまり良い感情は持てるとは思えないのでは無いかと言う懸念を抱いていた。
しかし光の懸念を意に介さぬかのように長は回答を紡ぐ。
「確かにもっと強い方はいるでしょう。しかし私達が求めているのは強さよりも強くなった際のその過程です。その方々に着いていったところで果たして私達が求めるものがあるか、と言う疑問が残るのです」
その回答に何となくではあるが光も彼らの望むものが見えてきた気がした。
NPCがパワーレベリングの概念を知っているかは不明だが、低レベルの引き上げの一番簡単な方法は高レベルに着いていくことである。
ただしその場合一足飛びどころか三足ぐらい飛んでレベルは上がるが、変わりに強くなる過程が殆んど無い。
着いて来るコボルトが学んだ経験や過程を村に広めるのが目的ならば、欲しい人材は共に歩むことが出来る者……つまりサンダルクみたいな低レベル帯に着いていくと言う事になる。
「そしてコボルトを倒した、と言うことですがそれはこちらからも言えること。袂を分かったとは言え同じコボルト族が人を襲っているのも事実です。ですから貴方が気を病む必要はありませんよ」
「……ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ色々と気を使わせてしまいすみません。それでお返事の方は……」
「はい。自分で宜しければ」
お願いします、と言う代わりにサンダルクは長に向かい頭を下げる。
「お願いするのはこちらなのですけどね。では供回りとなる子達を紹介します。入りなさい」
(……え、達?)
困惑顔のままサンダルクが頭を上げるとニコリと柔らかな笑みを浮べる長の顔。
そして入り口の方に向かい長が声をかけると、今まで閉じられてたドアが開かれ小さな三つの影が姿を現す。
「コボルトファイター、参上!」
「コボルトクレリック、到着致しました」
「コボルトマジシャン、来たよー!」
そこには全員色違いの三匹のコボルトがまるで戦隊モノの登場シーンのように並び立っていた。




