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おいでませ、わんこ集落


 光にとってサンダルクが簀巻き状態にされるのは初めての事ではあるが、この様な事態になったのは初めてではない。

 ステータス表記にどこも異常が無いのに体が動かず事が進む。実はこの状態にとても心当たりがあった。


(何かのイベントか。フラグは……さっきのボスだろうなぁ)


 イベント進行によるキャラクターへの強制干渉。

 有無を言わさず部屋に向かうパターンや足元に魔法陣が出てどこかに飛ばされるパターンもあった。

 しかしコボルトに担がれて強制的に移動させられるなど誰が予想できるだろうか。

 えっちらおっちらと声を合わせ運ぶコボルト宅急便に揺られつつ、どこかの場所に着くまで光は思考を巡らせる。

 

(イベントフラグは討伐かもっと別の条件か。と言うかほんとどこに向かっているんだ? コボルトとなるとサードリィ地方のはずだけど……)


 フィフティスの北東部に位置するサードリィ地方は森林地帯が多い。

 コボルトもコボルトーガもそこで見れるモンスターであり、それはある程度進んだプレイヤーならば誰もが知っている情報である。


 しかし何となくではあるが光は今いる場所が見知った場所ではないと感じていた。

 周囲を見れば相変わらずの森林光景だが、少なくとも『はじまりの森』の外は平野が広がっている。にもかかわらず先ほどから見える世界はずっと森林のみ。

 はじまりの森をずっと駆け抜けているはずもなし。

 そうなるとどこかのタイミングで別のフィールドに飛んだと考えるのが無難――


「ぶべらっ?!」


 視界が傾き眼前に迫る地面。受身を取ろうにも簀巻き状態では何も出来ずサンダルクは顔面から地面に盛大に突っ込んだ。

 ダメージ表記が無い以上これもイベントの一部と言うのは分かってはいるものの、実際視界を揺らされた光としてはたまったものではない。

 何とか顔をあげ身をよじりっては地面に座り周囲を見る。

 すると視界には先ほどサンダルクを運んだであろうコボルトが申し訳無さそうに項垂れていた。

 コボルトは二本の足で立っているとはいえ、地面に座ったサンダルクと目線が一緒ぐらいの大きさしかない。更に言えば見た目は本当に二足歩行の犬のぬいぐるみと言った風体である。

 そんな見た目わんこがしょげている状態を見ては光は怒る気にもなれず、とりあえず縛ってる紐を解いてもらう事にした。


(と言うかここどこ……?)


 ロープを解いたコボルトを見送ってからサンダルクはゆっくりと立ち上がり周囲を見渡す。

 森の一角を切り開いたかのような場所に人が入るには明らかに手狭な大きさの家屋。その家屋からこちらを覗き見るようにコボルトが顔を見せ、そして目を合わせた瞬間室内へと引っ込んでいく。


(う~ん……?)


 コボルト達の様子に光の気持ちをトレースしたサンダルクが律儀に首を傾げる。

 あんな可愛い見た目はしているがコボルトはれっきとした敵モンスターである。そしてそれなりに好戦的なモンスターだ。

 二足歩行のわんこが手に鈍器を構え集団で襲ってくるのがプレイヤーが知っているコボルトである。


 しかしロープを外してくれたコボルトも家屋に引っ込んだコボルトもどこか臆病な様子を見せている。

 外の襲ってくるモンスターとはまた別種なのかと考える光であったが、よくよく考えたらNPCではないかというプレイヤー的結論に行き着いた。

 NPCとモンスターの違いは一番の特徴としてはこちらと話が通ずるか否かである。

 喋るコボルトなんて光は聞いた事も無いが、NPCであればメタ視点ではあるがその辺も解消されるのではないかと推察した。

 そして光の読みは当たったらしく、先ほどサンダルクを簀巻きにした緑色のコボルトがやってくる。


「手荒な真似してごめんなさい。そしてコボルト族の村へようこそ!」


 少年のような声の緑色のコボルトがぺこりと頭を下げ、続いて半ば強制的ではあったものの歓迎の意を示す。

 そして何故ここにサンダルクを連行してきたのかの説明を始めた。


 それによると光の予想通り、このイベントのフラグは先ほどのコボルトーガ・Fに対する何かだったようだ。

 あれはコボルトーガの中でも特に凶暴なものらしく、コボルト達は普段以上に遭遇しないように気をつけていたらしい。

 だがそれも空しく毎回追いかけ回されていたのだが、今回は光の意思は無かったもののサンダルクが間に入りコボルトーガを退けるに至った。

 結果同胞のコボルトは助かり、そのお礼とここの(おさ)の命令で連れてきたのだそうだ。

 簀巻きにしたのはいち早く長の元まで連れて行こうとしてテンパった末の行動だったとのこと。


 短い手足で身振り手振り表現するコボルトに和みつつも、光はそれらを踏まえた上で今後の行動について確認を取ってみることにする。


「つまり、えっと……その長のところに行けば……?」


「うん! あそこが長様の家だよ!」


 まるでお手の芸の様にコボルトの手……前足?が指し示す先には他の家屋よりも二周り以上大きな家。

 非常に分かりやすく、いかにも人間(プレイヤー)が問題なく入れますよと言う造りだった。


「こっちこっち!」


 そして緑のコボルトは手招き……もとい尻尾まねきしながら長の家の方へと向かっていく。

 光の様なゲーマーの端くれとしてはイベントが進行する前に他の建屋やこの村の隅々まで調べてから向かいたかった。

 しかし残念ながらここはコンシューマーではなくMMORPG、それも最新技術の粋を使用したFRO/FDである。

 驚く事にここのNPCには『時間』の概念があった。それはつまり横道に逸れていたら『待たせた』と言う感情を抱くのだ。

 折角のクエストをNPCの機嫌を損ねて失敗するなんてことも実際に起こりえるのがこのゲーム、進行中の横道は基本しないが吉である。


(まぁ話通じるから逆に待たせるのもありなんだけどね)


 とは言えゲームはゲームである。

 現実(リアル)の都合上いかんともしがたい部分もあるのでそこは融通は効くようにはなっていた。NPCと対話が成立するこのゲームならではの特色だ。


 そして緑のコボルトの後を追いサンダルクは長の家の前までやってくる。


「長、連れてきたよ!」


『あぁ、入りなさい。お客人も一緒に』


 落ち着いた大人の女性の声が家の中から聞こえてくる。

 失礼します、とサンダルクが返しドアを開け中に入ると、そこにはコボルトの長であろう大きなコボルト――もとい精悍な目をした狼が来訪者を見つめていた。


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