表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

重桜無刃


 襲い来るコボルトーガの大上段からの振り下ろしに対し、サンダルクはマニュアルカウンターで大太刀を切り上げの軌道を以って迎撃を行う。

 先ほどまでならばカウンターを合わせたところで武器は叩き折られそのままダメージ、下手をしなくても死亡判定を食らっていただろう。

 だが今は、今ならばそれはもう起こりえない。


(悪いけど武器の性能差でごり押しさせてもらう!)


 十手【重桜無刃(じゅうおうむじん)】。

 それはサンダルクのレベルが下がる前、一年間ソロプレイの果てに辿り着いた特殊なダンジョンで手に入れた伝説級武具の一つ。

 強力な能力の反面、様々な制約や条件を課せられる代物だ。

 そして【重桜無刃】の能力は一言で言ってしまえば『全てを斬る』である。

 それだけ聞けば魅力的な能力だが、使うための条件や持ってるだけで課せられる制約が光をして『欠陥品』と断言できるほどのある種呪いの武器。

 売れも捨ても出来ないが故に手元に残ったサンダルクの成果の結晶が、キャラクター再作成を踏みとどまらせる一因でもあった。

 後はゲーマーとしてワンオフの武器を持っていると言う事実を手放したくなかったという打算もある。



 そんな苦労の末に手に入れた真紅の大太刀と鈍色の大剣が交差。甲高い金属音を響かせる――ことなく、まるですり抜けたかのように二つの武器が振りぬかれる。

 しかしその結果は明白にて正反対。

 次の瞬間大剣は刃の中ほどから真っ二つに両断され、対する大太刀は何の変化も……それこそ刃こぼれ一つ存在しない。


「グオ……?」


 まるで信じられないものでも見るかのようにコボルトーガが両断された己の獲物を見つめる。そしてその隙を逃す光ではなかった。

 振り抜いた大太刀を切り返し、重力に従いそのまま振り下ろす。

 その斬撃の軌道上にあるのはコボルトーガの逞しい右腕。だがこの武器においては逞しかろうが例え金属で出来ていようが関係ない。

 【重桜無刃】の前ではあらゆる物が等しく両断される。


「グオオオオオオ!!」


 故に切り裂く音も無く断つ感触も皆無。

 【重桜無刃】によって断たれた右腕が宙に舞い、ポリゴン爆発よろしく粉々に砕け散る。


(流石に自己治癒では生えないよな……)


 あの能力は徐々に治るものであって一気に回復するものではないと言うのは分かっている。だが一度気にすると不安になってくるのが光と言う人間だ。

 一気に回復する手段である大剣は真っ先にへし折ったが、可能性がある以上このまま一気に畳み掛けることを決める。


 しかし油断はしない。あくまで圧倒的に勝っているのは武器であってそれ以外は全て負けているのだ。

 武器と右腕が無くなった所で基本スペックが下がるわけではない。

 残った左腕が直撃しただけで吹き飛ぶと言う事実は何一つ変わっていない。


(だからこのまま外側から削り殺す!)


 コボルトーガのモーションに合わせ迎撃を開始。

 左足の蹴りに対し刃先で足の甲を裂き、バランスを崩した背中にそのままもう一閃。

 背筋の動きを見て左腕の裏拳をしゃがんで回避しそのままわき腹へ大太刀を横に振るう。

 ゲームシステムの【スキル】に依存しない経験からの観察眼。それらが十全に機能し、サンダルクが武器を振るうたびコボルトーガが血を撒き散らす。

 だが……


(やっぱタフだ……)


 当たりが浅いということもあるだろう。しかしそれを差し引いてもサンダルクは確実にコボルトーガを追い詰めている。

 それにもかかわらず未だ倒れない。

 サンダルクが与えたダメージはコボルトーガの自己治癒能力を上回っているが、現状は三歩進んだら二歩下げられているようなものだ。

 状況を打開するためには何かしら決定打が必要。つまり更に踏み込む必要があった。


(あー……ほんと【スキル】使いたいなぁっと!)


 以前使ってた有効そうな【スキル】の数々を思い浮かべ光は内心で不満を盛大に吐き出す。

 それらがあればもっと楽に戦えたのにと無い物ねだりをしたところで、サンダルクがコボルトーガに向け走り出した。

 斬り飛ばした右腕側から回り込み、しかしコボルトーガはその場で回転することでこれに対応。

 AGIの差から円状に動くサンダルクの速度では最短距離のその動きよりも遅い。

 だがそれでも構わず大太刀を振るうもそれは易々と避けられ、反対にコボルトーガの反撃を許してしまう。


「ッ!」


 左腕の正拳突きを寸ででかわすも拳圧が髪を掠める。

 転がるようにしてその場を離脱。同じ様に二度、三度と武器を振るうもそのことごとくが空を切った。

 そして四度目の攻撃。


「あぁ……」


 ファルナの諦めとも取れる声。

 彼女の視線の先ではバットのスイングの様な大振りを盛大に外しバランスを崩すサンダルクの姿があった。

 それを見たコボルトーガの獣の顔が笑みを浮べ、同時に獲物をしとめようと一気に間合いを詰める。

 丸太の様な左腕を振り上げ、虫を叩き潰すかのごとくその手を振り下ろし――


「がっ?!」


 直後、その頭に倒れてきた木の幹が直撃する。

 わざと崩した体を捻ったサンダルクが横に飛んだ直後、木に押しつぶされるような形でコボルトーガが地面に倒れ付す。

 さすがのボスモンスターとはいえ意識外からの不意打ち、そして重量のある森の木の直撃は相応のダメージ判定があったらしい。

 そしてそれ以上にあの巨体が地面に伏した。つまり……


一撃(クリティカル)圏内だ」


 ようやく頭が刃が届く位置まで下がった。

 しかも運も味方し、地面と木に挟まれて身動きが取れていない絶好のチャンスだ。

 ボスモンスターが動けないこの好機を逃す程光は甘くない。


 即座に駆け出し【重桜無刃】を振りかざしては押さえ込んでいる樹木ごとコボルトーガの首を両断する。

 直後、爆発こそしなかったものの派手なエフェクトを撒き散らしコボルトーガはその姿を消していった。



Tips ~【重桜無刃】~


光が一年間のソロプレイの果てに手に入れた十手状の武器。

『それを捨てるなんてとんでもない』とシステムから言われる代物のため、イベントアイテムを除き唯一彼の手元に残った。


どの様な武器かは知っていたものの、制限解除が出来なかったためインベントリの中にずっと入れられていたがこの度めでたく最初の封印が解除された。


第一封印解除条件:プレイヤー一人からフレンド申請を貰い承諾する。



なおこれを手に入れ説明を見終えたサンダルクの第一声は『何この欠陥品』である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ