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二つの月

作者: ITTO

この世界に希望があるとしたらそれは君の事だろう。

少しだけ優しくなる事できっと世界は変わってくる。これが祖父が私に残した遺言でした。


照り返す日差しが眩しくて目を閉じた。


蝉が泣く声、子供たちの無邪気な笑い声、公園で愛を育む人もいる。

それなのに私はいつまで経っても一人でいた。

原因は外見が人より劣っているからだろう。

小中高と仇名は団子、私は食べ物と同義であると言われた。


そんな私を不憫に思ったのか祖父は可愛がってくれた。


そんな祖父も今はいない。私を必要としてくれる人はこの世にはいないんだと諦めていた。


そんな時彼は現れた。

爽やかな笑顔でこちらに手を振っている。

後ろを確認しても誰もいない・・・どうやら私に手を振っているらしい。

近づいてきた彼は私に向かって「久しぶり。元気だった?」と話しかけてきた。

私は誰だか分からず思わず聞き返した。

「どなたですか?」

彼は不思議そうな顔をしている。

何かを察してかニコニコしながらクイズを出してきた。

「三択問題です。1親戚、2恋人、3友人・・・どれでしょう?」


2も3もないので1しか選択肢がない。

「1で・・・。」


「正解は・・・・2番恋人でした!」


あからさまな嘘をついてきた。きっと宗教の勧誘かナンパだろう。しかし油断していると壺を買わされる。

しかし、私にこんな機会はもう二度と無いだろうから少しだけ話を聞いて意地悪をしてみる事にした。


「じゃあ私のあだ名は?」

「団子」

いやいや偶々かもしれない。私は団子鼻で体系も団子の様だから、きっと外見から推測したのだろう。

「じゃあ、私たちの出会いは?」

すると笑いながら『パン』という。

なんのことかわからず聞き返す「パン?」

「そうパン!!」

パン?何の事やら分からない。しかし何故だか憎めない感じの青年だ。

「全然変わってなくて安心した。本当にありがとう。それから、これ先の二つ目の交差点で事故が起こるから気を付けて。」そう言うと青年は雑踏の中に消えていった。


「なんだったのかしら?」


生まれてこの方彼氏なんて出来たことも無ければ男子と話したことも数える位の私にはあまりに突然の出来事で呆けて歩いていた。

すると目の前で暴走した車が次々と人を撥ねていく。隣の女子高生は悲鳴をあげている。

辺りが騒然とする中、私は先ほどの青年の言葉を思い出した。

振り返ると野次馬の波に呑まれ彼に会う事は叶わないと悟った。


家に帰ると仏壇に手を合わせる。

おじいちゃん、今日不思議な事がありました。いったい彼は何者だったのでしょうか?



それから数年の月日が経ち、私もあの日の出来事を忘れていた。

あれから彼氏も出来て仕事も任され色々順調だけど忙しすぎて彼氏の誕生日を忘れていた。

仕事の帰り道、ふと空を見上げると月が綺麗だった。

最近は下ばかり見ていたからな・・・。

スマホを取り出し写真を撮り彼氏に送った。


綺麗な月だよ~。


既読はつかなかった。


確かに誕生日を忘れる彼女なんて最低だよ。でも既読スルーは酷いんじゃ・・・。


日が変わろうとした時返事が来た。


『綺麗だね~。二つの月が重なる時なんて100年振りらしいよ?』


酔っているのかしら?月が二つ?


翌朝テレビのニュースで大々的に月の話をしている。

アナウンサーは興奮しながら話している。

「100年に1度の事なので次は見れないかもしれませんからね!!」


あれ?月は一つでしょ?いつから二つになったの?

携帯に電話しても彼氏は出ない。

時計を見ると出社の時間が迫っている。「あっ!!遅刻!!」

慌てて部屋を飛び出す。

汗だくになりながら出社すると誰も来ていなかった。


「あれ?みんなは?え?もしかして休みだった?」


暫くするとサイレンが聞こえてきた。

【イレギュラーが発生しました。職員は直ちに排除に向かってください。】

【イレギュラーが発生しました。職員は直ちに排除に向かってください。】

え?なにこれ?

【イレギュラーが発生しました。職員は直ちに排除に向かってください。】

【イレギュラーが発生しました。職員は直ちに排除に向かってください。】


突然視界が無くなった。

暗闇でサイレンの音だけが鳴り響く。

手探りで机を探すもどれだけ手を伸ばしても何にもぶつからない。

急に手を引かれる。

「信じて付いて来て。」

どこかで聞いたことのある声だった。


「ゴメン。こんな事になって。」


【イレギュラーが発生しました。職員は直ちに排除に向かってください。】

【イレギュラーが発生しました。職員は直ちに排除に向かってください。】


「これで今度は大丈夫なはずだから。」


何か箱の様な物の中に入れられる。プシューッ音が聞こえた。


「ごめん。次こそは必ず君が生き延びる未来に・・・」


彼女の入った箱にはこう書かれていた『バーチャル彼女』


「容疑者確保!!」


サイレンが止まった。





「続いてのニュースの話題です。」

「昨日、連続バーチャル彼女窃盗犯が捕まりましたね。」

「ええ。脳を移植してたらしいですね。」

「このストーカーに殺害された女性の脳らしいですよ?」

「とんだサイコやろーですね。」

「死して尚ストーキングされるとは恐ろしい事件です。」


テレビのCMでは毎日流れている。

この世界に希望があるとしたらそれは君の事だろう。

少しだけ優しくなる事できっと世界は変わってくる。

君の理想をここに・・・バーチャル彼女

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