表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第一章:消えた思い出の子
9/74

9.「付き添うのが当然じゃ」と、小さな女の子は呟いた。


 翌朝になり目が覚めると、改めて自分の部屋が改造されまくった痕跡が目に見えて分かってしまう。壁だったところはくり貫かれ、天井はさやめの趣味なのか変な模様が描かれまくりだった。


 隣にいるであろうさやめに朝の挨拶ぐらいはしておこう。


「さやめ、おは――んんん? 静かすぎる……いないんだな? いないよね? さやめ?」


 何を独り言を呟いているのか。自分で自分のことが心配になってしまった。さやめは朝から顔を合わせる気が無いのか、実は多忙の身なのかは分からないけど人の気配は無いみたいだった。


 本来はこれが普通だったはずで、誰かがいるわけが無かったのにどうしてこうなったのだろうと朝から気が重たくなってしまう。遅刻するわけにもいかないので、急いで支度をした。


「うす、晴馬。元気か?」


「たくみだっけ? おはよ」


「だよ。昨日は悪かったな。昼のことはカイから聞いたよ。後輩が出来て、兄と呼ばせているんだろ? 初日からすごいな、晴馬って!」


「それ違うから! よく分かんないけど、勝手に呼んで来ただけで俺が呼ばせたわけじゃないよ。たくみは学園の女子に詳しいんだよね?」


「誰のことを聞きたい? お嬢でもいいし、美織センセーでもいいよ。それか、あの子……まだ会って無さそうかな?」


 何故そこでお姉さん先生が出てくるのだろうか。そしてさやめは流石にリスト外らしい。お嬢というのは片言で和風の女子だろう。それよりもあの子とは誰のことだろうか。まだまだ出て来る……というより、学園の女子はみんな何かしらの特徴があるかもしれない。


「あの子って?」


「ああ、うん。学園の中を歩いてればあの子から会いに来るよ。晴馬は外から来たわけだし、それだけで注目を集めてるから、学園中の女子が目を付けているのは確かだね」


「ええっ? でも俺は格好いい奴じゃないし……学園外から来ただけでどうしてそんなことに?」


「それは自分で見つけてみればいいと思うよ。まぁ、レイケに選ばれたってのがいいヒントなんだけどな」


 またさやめか。選ばれたって何が何? って聞いても誰も教えてくれないし、学園中の人間が俺という無害な奴を騙そうとしているんじゃないのかな。


「とりあえず教室に行こうぜ。それともまだ時間もあるし、学園の中を歩く?」


「案内を頼みたいかな。男子トイレの場所くらいしか覚えてないし、教室移動とかもいつも一緒に行けるわけじゃないだろうし、一人で動けるようになりたいからね」


「おっけ。まだ二日目だし、しばらくは俺とカイで晴馬を助けるよ。どこから行く?」


「それじゃあ、施設っぽい教室……かな?」


「実習室とか、調理室とかなら案内しやすいな。まずは調理室に行こうぜ」


「うん、よろしく」


 学園都市の中にあって、あらゆる物が揃う学園の中。この中を歩き回らないことには、いつまでも人の助けが必要になるし、何よりさやめにバカにされそうな気がしてしゃくに思っていた。


 何も知らない俺を見下す妹を、時間をかけずに見返してやりたい。


「覚えられるか? 晴馬」


「か、角を何回くらい曲がったっけ? そしてここは何階?」


「3階の二棟目だな。角は俺も数えてないぞ。ちなみにここは中等部の建物に近いぞ。間違うなよ?」


 早くも挫折しそうだった。普段の教室こそはすぐに覚えられたのに対し、移動教室や実習授業の時は、建物が違っていたりするのでこれは想像以上にしんどそうだ。


「晴馬、そろそろ戻ろうぜ」


「もうそんな時間?」


「朝って早いよな」


「……たくみ、あのさ、ト、トイレに行ってきていい?」


「行っていいよ。というか、晴馬一人だけで教室に戻って来れるか?」


「多分大丈夫だと思う。来た道を戻ればいいだけだし」


「お、そうか? じゃあ俺は先に行くよ。まだ授業が始まるまでは余裕があるし、急がなくていいよ。そんじゃあ、またな!」


 後悔をしまくりだった。どうして待っててほしいという言葉を出さなかったのだろう。トイレから出た俺は廊下の窓から見える自分の教室に、どうしても近づくことの出来ない道迷いをしていた。


「うぅっ……何で? 下に降りて角を何度か曲がっていけばたどり着くはずなのに……」


 思わず声に出していた自分だったが、視線を浴びまくるだけで誰も声をかけてくれなかった。転入者には優しくしてくれてもいいのに、何故かこういう時には誰も近寄ってもくれなくて途方に暮れそうだった。


「お前、泣くのか?」


 んんん? 女の子の声がする。それも明らかに子供の声っぽい。どこからだろうか?


「可哀想な奴じゃな。誰にも助けてもらえない存在とは……お前、外の人間か?」


「か、可哀想だと思うなら助けて欲しい。誰かは知らないけど」


 辺りを見渡しても、目を逸らすことのない複数の女子たちが俺を見ているだけで、声をかけてきたようには思えなかった。そうだとするとどこから声をかけてきているのか、さっぱりだった。


 グイグイッ――


「んんっ?」


「下じゃ。お前の下を見ろ」


 声のする足元を見ると、小さな女の子が立っていて服の袖を引っ張っていた。この子はどう見ても中等部の子のような気がする。それなのに、教室から顔を出している他の女子たちは声もかけて来ていない。


「心配してくれてるんだよね。ありがとうね。でも大丈夫だよ? お兄さんは高等部だから、キミこそ早く自分の教室に戻った方がいいよ」


「莫迦め。お前が何も知らぬことは見ていて分かったぞ。黙ってもなかについて参れ」


「もなか? き、キミのお名前かな? 俺は晴馬だよ。無理しなくていいからね? 時間をかけて自分の教室に戻るからさ」


「黙って来い! もなかは哀れなお前を救うのが役目じゃ。早くしろ」


「わ、分かったよ。もなかちゃん」


 小さすぎる女の子はこれまた古風な言葉遣いで、俺を教室に案内してくれるらしい。どう見ても中等部の女の子なのに、迷うことなく教室へと進んでいる。何だかその姿が微笑ましくて、教室の前に着いた時には思わず頭を撫でていた。


「な、何をするか! 戯けが!」


「な、何って良いことをしてくれたからお礼を……」


「明空晴馬。お前はもなかが正しき道と心へ導くことを決めたぞ。大人しく教室の中へ進め!」


「何で俺の名前をフルネームで? もなかちゃんは一体、どこの?」


「もなかは――」


「お、晴馬! 遅かったな。やっぱり迷ってたんだな。だけど、もなかさんに救われたわけか。良かったな、晴馬」


 教室の中へ入ろうとすると、たくみが様子を窺うようにして声をかけてきた。たくみがもなかちゃんをさん付けとか、もうこの時点で嫌すぎる予感しかしない。


「こ、こここの女の子はどなた?」


「ん? 知らなかったのか? もなかさんはウチのクラスの担任兼特待生だよ。レイケと同じくらいすごいって言えば分かりやすいか?」


「美織センセーは担任じゃないの?」


「それは誤解だな。美織センセーは先生だけど担任じゃない。たまに遊びに来るお姉さん先生であって……後はもなかさんが教えてくれるぞ。俺は先に戻っておくよ。迂闊なことはやめとけよ?」


 お姉さん先生はただのお姉さんだった。そして本題は、この小さすぎる女の子が本当の担任で、なおかつ特待生であることだ。


「えーと、もなか先生?」


妙義みょうぎもなかじゃ。担任であり、生徒であり、飛び級の特待生でもあるがの。じゃから、明空がもなかをちゃん付で呼ぶのはあながち間違いでないのじゃ。特別に許すぞ。構わずちゃん付で呼べ」


「そ、そういうわけには」


「いいや、呼べったら呼べ! そうじゃないとここで泣くぞ」


 ここで小さな女の子を泣かせたらいよいよをもって終了じゃないか。年下なのは間違いじゃなかったけど、まさか担任とかおかしすぎるよ。


「も、もなかちゃん」


「もなかに付き添われて良かったの。明空は心配過ぎる。これからも、もなかが付き添うぞ」


「い、いや、そんな……どうしてそんなことまで」


「当然じゃ。お前は可哀想な男子じゃから、もなかが付き添わねば生きて行けないじゃろ」


「ロリ馬、早く教室入れ、バカ」


 誰がロリ馬だ、誰が! くそう、さやめの奴め。助けないで黙って見ていたに違いない。さやめだけでも面倒なのに、どうしてこんな小さな子……担任にして同級生にして飛び級? 勘弁してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ