71.「まぁまぁ面白いね」と意地悪く微笑む女の子
何でコイツは、日本から離れたところでも変わらずにいられるんだよ。
「あれあれぇ? もしかしてシカトかな? 手錠したままで、人の言うことに耳を貸さないとか、そんな偉そうな行動が取れるはずがないんだけどなぁ」
「何だよ? 知ってて近付いてきたんだろ! そ、そんなことより、早く外せよ! さやめ!」
「ここじゃ無理なんだけど? 街中で手錠を外すなんて、ねえ? せっかく彼女を連れて来ているんだから、刀で斬ってもらえば? 出来るでしょ?」
「で、出来るはずがなかろう! 好きな晴馬に会えたのだから、意地を張らずに素直に接すればよいのではないのか?」
「あはっ! その言葉、まぁまぁ面白いかもね? 笑えないけど」
何のために来たのかといえば、手錠を外してもらうことが目的なのは間違いない。
だけどさやめには、もう隠したままで過ごすのは駄目なんだ、そう思っていたら自分も素を出していた。
「お、俺はさやめに会いに来た。どうすればいい? どうすれば俺の手錠は外してもらえるの? ぼ、僕はさやめちゃんに会いたくて、会いに来たのに……どうしてだよ!」
「は、はるくん……?」
「僕はずっと忘れていた! だけど、さやちゃんだって僕をずっとずっと、離して来たじゃないか! どうしてだよ……もう僕はさやちゃんと離れたくないよ」
もうこれで円華は僕から離れて行くんだ……これが僕の、素で弱い晴馬なんだと見られたのだから。
「それ、その姿が晴馬なのだな……そ、そうか……わたしはやはり、わたくしではその晴馬を引き出せなかったのか。勝負はすでに決していたというのに、わたくしは晴馬に甘えていたんだ」
「おじょ……」
「晴馬は素直になれ。その晴馬でもわたくしは好きだぞ。でも、わたくしではもう――」
「あっ! ま、円華! ま、待っ――」
「晴馬はレイケへ進め! わたくしは、その辺を見て回ってくるだけだ! ま、またな!」
「う、うん……ごめん」
これも僕がハッキリさせなかったせいなのかもしれない。
彼女として付き合うことになり、付き合っていてもさやめは僕を、僕のことをずっと……
「はるくん、アールト様の屋敷について来て」
「アールト? さ、さやちゃん、僕は……」
「ずっと辛い思いをさせてたね、ごめん。はるくんの泣きそうな声で、さやもきちんとする」
「え、う、うん」
手錠をかけられたまま、さやめは僕を引っ張って進んでいく。
幼き頃もこうして、手を引っ張られながらどこでも一緒に歩いていた気がする。
「……はるくんは、もうすぐ自由になれるからね? そうしたら、さやのことも決めてね」
「自由に……ぼ、僕は、ここに来た僕はもう――」
「うん、お屋敷の中で聞かせて欲しいの。だから、ついて来てね?」
「分かったよ、さやちゃん」




