69.「抱きしめてくれ」と頼むお嬢と胸キュン 渡航編②
「あ、あのさ、俺、すごい睨まれてんだけど……」
「それはそうだろうな。その手錠だけを見れば、国際手配だと思われるからな。だが晴馬はわたしが認めるくらいに、優しい男だ。手錠だけで判断などさせないから安心しろ!」
「国際手配って……」
「ふふ、滑稽な姿の晴馬も中々にいいぞ。守り甲斐があるというもの」
いいのか悪いのか、円華にとってはさやめに勝負を挑むための旅でもあるし、俺の返事をハッキリさせるためでもあるのに、彼女の横顔は何とも晴れ晴れとした凛々しさがある。
それにしても、ずっとさやめに会えていない気がする。
寂しいという気持ちよりも、まずは手錠をどうにかしろという気持ちしかない。
こんなひどいことをしておきながら、自分だけ外国にいなくなるなんてあんまりだ。
「――ま、晴馬」
「え、わっ!?」
「頼む、わたしを思いきり抱き締めてくれないか?」
「こ、ここで? 搭乗ゲートは当然だけど、人が沢山いるよ?」
「た、頼む! わ、わたしは意気込んで来たけど、空の上が苦手なんだ……だ、だが、晴馬に触れてもらえば、この先如何なることが起きようとも、平気になる気がするんだ」
勢いよく空港に連れて来た円華だったのに、実は飛行機が苦手だとか、この子こそ守ってあげたくなる。
「えーと……そ、それじゃあ」
「こ、来いっ! 思いきりだぞ? ぎゅっとだぞ?」
「う、うん」
本当に愛しい彼女だ。胸がこんなにも温まるのは、恐らく円華くらいだろう。
周りには大勢の人がいる。それでも、まさか搭乗する直前で抱きしめるとか、不思議なことでないにしても可愛すぎる。
華奢な腰に両手を回して、キス……はしないまでも、円華の首の後ろに顔をつけると彼女は嬉しそうに笑っていた。
「……ふふっ、彼氏。晴馬がわたしの彼氏か。あぁ、いいな……この温もりと優しさは晴馬だからこそなんだ」
「ま、円華? ど、どうし――」
「しっ……このまま、黙って抱きしめて」
「わ、分かったよ」
時間にすれば数分のことだったのに、彼女は何かの思い出を噛みしめるかのように、抱きしめていた。
「よし、いいぞ。行くか、晴馬!」
「へ? あ、うん」
「わたしは分かっているんだ。それでもな、晴馬。セップクする覚悟を持てば、その結果がどうであれ悔いは残らないのだ。そう思うだろう?」
「セ、セップク……懐かしい響きだね」
「ああ、晴馬、大好きだぞ」
「え?」
まさか……いやいや、まさか円華の覚悟は、そういうことなのか。
それでも俺はそうなって欲しくないとさえ思っているのに、この期に及んでいるのは俺だけなのかな。




