68.何故かやる気を出して「行くぞ!」と引っ張るお嬢 渡航編①
「全くしょうがない男だ。しかし、惚れた以上はわたしもお前を見捨てはしない!」
「は、はは、それはどうも……って、俺をどうするつもりが?」
「決まっている! 行くぞ!」
「ど、どこに?」
「異国だ! 晴馬のその両手の不自由さを自由に出来るのは、レイケだけなのだろう? ならば行くしかないでは無いか!」
「どうやって……外国はその辺の電車とかでは行けないんだよ? 円華は知ってるの?」
「~~ば、馬鹿にし過ぎでは無いのか! 全く、確かにわたしは時代劇かぶれだ。だ、だが、伊達に令嬢と呼ばれているわけでは無いのだぞ? 社交界といった場にも出たことくらいあるのだ。晴馬こそ知らないのではないのか?」
円華のことだから、てっきり日本から出たことが無いとばかり思っていたけど、それは俺の偏見だった。
お嬢と呼んでいた円華は、正真正銘のお嬢様で、碓氷家の令嬢なのだと今さらながら実感出来た。
「……え? ど、どこに?」
自由の利かない手錠な自分は、逆らうことの出来ないペットと化している。それだけに、服の袖を引っ張られたりすれば、為すがままにされるだけだ。
「行くと言ったぞ? まずは我が碓氷の黒に乗れ! 空港まで行く。手続きなどが心配なら、わたしが全て責任を持ってやる!」
「せ、責任……」
「あぁ、そうだ! レイケにどうにかしてもらうのもわたしが責任を持つ。異国にたどり着いても、晴馬はわたしが守ってやるぞ!」
手錠男というだけで空港で止められそうな気がするけど、それも碓氷家の力なら問題ないのかな。
散々円華をないがしろにしていた気がしていただけに、それなのにさやめの所に連れて行ってもらえるなんて、円華は直接対決でもするつもりがあるのか。
「あ、あのさ、円華は俺の彼女で合ってる……のかな?」
「ふっ……その言葉、そのまま晴馬に返してやるぞ! レイケばかり気にするお前のことを気付いていないとでも思っていたのか? そしてわたしは晴馬が思うよりも強いんだ。負けるわけには行かないぞ」
「そ、そうなんだ。それなら……うん」
しばらく会えていないさやめと、俺のことを助けてくれる円華。
二人を会わせるのは怖いけど、手錠は何とかしたい。
俺を放っておいて外国に行ったきりのさやめにはきっちりと説教をしてやりたい。
「……晴馬」
「うん?」
「晴馬の心に残れるように、わたしは負けないからな」
「の、残ってるからね?」
「世辞を抜かすな。晴馬は初めからレイケのことしか考えていないでは無いか」
「い、いや……」
「晴馬の答えが出ていたとしても、わたしはわたしに嘘はつきたくないぞ。晴馬を好いているんだ」
「――俺も円華を好……」
「その答えは自由を得られてから聞くとする。今は聞かない……聞かないでおく」
「う、うん」




