62.レイケ・さやめの悩ましき日々SS 後編
わたしがこの国に来てから数年が経った。言葉の壁などに当たることはないまま、こっちでの暮らしや学校生活にも順応している。
それなのに出会いたくも無い女と出会い、勝手に近づかれた。
「あなたがレイケ? あたしと仲良くしてくれない?」
「何故?」
「何故って、レイケの近くにいれば男に不自由しないじゃん?」
「勝手に近づかれているだけであって何もない。ところであなたは誰? 友達でもないのにそうやって近づくのはやめて」
「真面目~! てか、ピュアなんだ。あたしはリイサ、よろしく!」
仲良くしたくない。するつもりもない……それなのに、身勝手過ぎる。
リイサはわたしと時を同じくしてこの国に留学に来ていた。彼女の場合は単なるステイであって、わたしの目的とはまるで意味が違う。
こんな女がはるくんに近付いたら、嫌な気持ちになることは確実だ。アールトにも声をかけておかないと。
わたしの領域……簡単に入って来て欲しくない。
「さて、サヤメ。君にレーケの名を授けてからどれくらいになる?」
「数年です」
「うん、その通り。サヤメではなく、レーケとして認知された。我が国の礎となった偉大なるレーケは、君の国に大きな貢献をした人物だ。アールト家は偉大な人物に敬意を払い、その名を誇りに持って名を使わせてもらっている」
「わたしに偉大な人物のような人間になれと、そうおっしゃるのですね?」
「Ja.」※ああ。
「そうなると学園のおいても最高になる必要がありますね」
「故郷に帰った時、サヤメはレイケと名乗り、偉大な人物として誰よりも特別な者として思われてみなさい。期待している! そして想い人に愛を告げて幸せになることだ!」
「……出来るでしょうか?」
調月というだけで、わたしは礼儀作法は完璧にこなさなければならない。それだけでも厳しいことをして来たのに、たかがはるくんの為だけにわたしは最高で特別な人物にならなければ駄目なんだ。
「そうだ、これをやろう。アールト紋様を施した手錠だ。これを君の愛する者に着け、ここへ連れて来なさい。その時こそ、レイケとその者との契りを結ばせてやろう」
「感謝いたします、主人様」
アールトの手錠をはるくんにかけて、逃げられないようにすればきっと彼は泣きついて、わたしから離れられなくなる。あはっ! 楽しみだなぁ。
わたしのはるくん、早く会いたい――大好きなはるくん。




