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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第五章:女子と学園の秘密
60/74

60.「しませんけれど?」とおっしゃった、とある淑女


「――ですけれど、わたくしは『特別』といった言葉に、何の響きも持ちませんの。それでも貴方様がわたくしめに何らかの形で、お示しを付けるのであらば……その時は如何様にもしてくださいまし」


 あぁ、つくづく名家だとか本家だとか、そういう家柄の人たちとはウマが合わないみたいだ。


「は、はぁ……まぁ、僕はそこまでムキになったわけではなくてですね、だとしてもこの場にいない奴……女の子のことを言われると我慢が出来ないと言いますか、そんな感じでして」


「あらあら、ではその方とはすでに?」


「……何もないです、まだ」


 ――と言った、生産性の無い会話が終わらずに続いている。

 さかのぼること、リイサが帰ってからの翌日朝。


 さやめの居場所のヒントを聞き出すために、学園の中でレイケのことに詳しそうな人たちに話を聞きまくっていた時のことだった。


 後輩たちがいる棟には泉ちゃんがいたこともあり、それなりに慣れがあって迷うことも無くなっていた。

 しかし、一つ上の学年でもある先輩たちの棟には足を踏み入れたことが無かったことから、物は試しでレイケのことについて聞いてみたくなったことが原因でもある。


 それを助言してくれたのは彼だったけど。


「晴馬久しぶり!」

「たくみ? あ、あの、元気にしてた? 何と言えばいいのか……」

「あぁ、あのことなら完全に俺が悪かったわけだし、晴馬が気にすることじゃないよ。それに今は新しい人に会いに行っているから、気にならなくなった」


 たくみは、レアな保健室で紅葉くれはさんと色々あった。まぁ、俺もそうなりそうだったけど。

 そのせいでしばらく学園に来ていなかったのに、立ち直ったようで今は別の人に会いに行っているみたいだ。


「あ、あのさ、さやめとのことなんだけど……」

「晴馬が特別な存在ってやつのアレだろ? で、その手錠がまさにそれ」

「そっか、カイもそうだけどたくみも最初から知っていたんだよね? だけど、さやめの奴がどこかにいなくなっちゃったんだ。そう、手錠だよ……何で外せないのかなあ」


 手錠をかけられたままで学園に来ること自体がおかしな光景でもある。そうだとしても、家にこもっていても解決しないわけで、それなら恥をかいてでもさやめのことを聞き出せればいいと思った。


「特別注文の手錠……いや、特別な意味を持つ手錠ってことなのかな? その証拠か分からないけど、晴馬の手錠姿に誰一人として嘲笑も失笑もしていない。思うに、その手錠の紋様が関係してるんだろうね」


 たくみの言う通り、単なる痛い人間アピールにはならなくて、手錠姿の俺と手錠に何かの意味でも込められているかのように、学園の連中は気にする人がいなかった。


「何なんだよ、さやめって何者なんだよ」

「……レイケのことは俺もそうだけど、カイも含めて手出しも口出しも出来ない存在なんだ。調月つかつきはただでさえ力のある名だけど……レイケはもっとすごいらしい。その辺は俺も知らないんだ、ごめん」

「そ、そっか。学園の中で他に知ってそうな人はいないのかな? 先生には聞けないし……」

「それなら、先輩たちの棟に行ってみる? 一つ上の人たちは、それこそレイケになる前から学園にいるわけだし、何か聞けるかもしれないよ」

「え? 先輩? し、しかも女子しかいない棟のことだよね?」

「まぁ、男がいるのは俺らの学年だけなんだけどね。行く?」


 またしてもたくみの言葉に釣られたと言ったら悪いけど、行ったことの無い棟に行くことになるだなんて、思ってもみなかった。


 たくみとは保健室のことといい、どうにも女子がらみでいい目にあわないだけに、不安しか感じられなかった。


「ここからがお姉さんたちの建物だね。廊下とか歩いてもいいけど、先生も知らない人が多いし、ここはカフェにでも行ってみようか? そこなら滅多に来ない男に対しても警戒はしないと思うよ」


 学園に来てから数か月くらいは経った。それなのに、未だに未知なる部分が多すぎる。


「手錠男がカフェに行っても何も出来ないと思うんだけど……」

「晴馬のそれ、手首までは動かせるんだよね? 指先だけだと厳しいけど」

「……一日経ったら慣れたせいもあるけど、だいぶ動かせるようになったかな」


 リイサの体に触れた時は、思うように動かせなかった。ただ、この手錠はどういう作りなのかは分からないけど、時々緩まることがあって手首の位置を動かせた。


 まさかの遠隔操作でもされているかのようだった。特注品なのだとしたら、とんでもない奴だ。


「さすがに普通の休み時間にいないっぽい。運がいいかも!」

「たくみもさぼりになるけど、時間はいいの?」

「晴馬の付き添いってことにしてるから平気だよ。手錠の友人サポートは評価が上がるだろうからね」

「は、はは……それは何と言うか」

「何か飲み物貰ってくる。晴馬は適当に座ってていいよ」

「う、うん」


 そんな感じで本当に適当に、周りにどんな先輩女子がいたかなんて気にすることなく座った。


「学園がそこまで敬うほどの者ですの? レイケなんたらとかいう得体の知れない者というのは……」

「いいえ、そんなことはありませんけれど……ですけど、特別な男子に見初められれば、その位置は確固たるものとなることが約束されているのだとか」

「それは……恐ろしく下らないことですのね。わたくし、そんな者の為に学園に媚びを売りたくありませんわ」


 さやめのことを知っている、もしくは何かを聞ければいい……そう思っていただけなのに、さやめのいない所で良くないことを言われていることに腹が立った。


 いつも迷惑をかけられっぱなしな上、こんな手錠をかけられたままなのに感情を抑えることが出来なかった。


『い、いい加減にしてください! 先輩かどうか知りませんけど、さやめのことを悪く……しかもあいつが知らない所で言われている、それだけで我慢ならないんです!』


 いや、もう告れよ? と、色んな人に言われそうなくらいに怒りをぶちまけてしまった。


「貴方はどなたですの? それにそれは……どういうつもりで見せつけておいでですの?」

「え? て、手錠は気にしないでくれますか! お、俺……僕はあなたに注意をしてるんです!」

「その手錠、アールトの紋様……では、貴方様が『特別』なる殿方ということ……」


 勢いよく飛び出して声を張り上げたまでは良かった。明らかに普通のお姉さんじゃなさそうな、位の高そうな先輩方が俺のことを睨んでいる。


「す、すみません……言いすぎました。僕はあの、この場からいなくなりますから、どうか気にしないで下さ――え、あっ!?」


 素直に帰してくれるだなんて思ってはいなかったけど、手錠で自由の利かない両手のせいで上手く立ち去ることが出来ないどころか、バランスを崩して高貴そうな先輩さんにダイブするなんて予想外すぎた。


 どうしてよりにもよって、目の前に立ちはだかっているのか。


「……何の真似ですの? 手錠のせいにして、襲う気があってのこと?」

「い、いいいいえええ!」

「わたくし、手錠男にどうこうされる覚えもありませんし、ここではしたないこと……そんなことはしませんけれど?」


 さやめのことを聞きたかっただけなのに、どうしてこうも次から次へと女難に遭ってしまうのだろうか。


 何にしても、手錠の製造元を知ってそうな先輩っぽいので、そこに懸けるしかないかもしれない。


「は、はは……すみません」

お読みいただきありがとうございます。

さやめ本人が出て来ないエピソードは初めてかもしれないです。

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