58.「好きにしていいよ」などと言い放つ自称姉さん
手錠にかけられたままで何かされるなら、さやめの方がまだ抵抗も含めてマシだった。そう思ってしまうくらいに、この場にいるリイサは危険な行動に出そうだからだ。
「ちょっ!? な、何をしようとしてるの? だ、駄目だよ」
「フフ……駄目なのはキミの方。キミはわたしをお姉さんとして見ていたいんだよね? たとえ妹だとしても、それでもお姉さん扱いで近づきたい……違う?」
「え、それは……初めて会った時はそう見えただけで、だから……」
円華の屋敷から一人で帰れていれば、リイサに慰められることなく出会えていなかったかもしれない。そう考えると、どうして出会ってしまうようなことをしたのか。
「泣いていたんだよね? 本当に可愛いなぁ……そっか、それなら――」
「へっ!? いや、どうして身に付けているものを外しているの? そ、それよりも手錠をどうにかして欲しいんだけど……」
手錠のまま自分のベッドに仰向けになっているだけならまだしも、指先だけが自由に動かせることに何の意味があるというのか。
そんな状態をいいことに、リイサは自分の洋服に付けていたアクセサリーを次々と外し始め、身軽になろうとしている。残っているのは派手めな洋服だけだ。
「ん? どうしたのかな? 早く中身が見たい感じ?」
「な、中身って……」
「もち、キミが待ち望んでいる中身のコト! どっちから触れたい? いいよ、好きに選んでも! 晴馬くんは可愛いし、弟みたいだからわたしのことを好きにしていいよ?」
「で、でも、手錠にかけられたままだし、こんな状態では何も出来ない……って、あ」
「あぁ、そうだよねぇ。指先だけで色んな所を触れられないってのは空しくもなるかぁ。ただ見るだけってのも悶々とさせるだけだし、手錠は厄介だね」
「え、外せないの?」
「うん、ごめんね?」
どうやらベッドに寝かせるためのハッタリだったようだ。それじゃあやはり、どこかにいなくなったさやめだけしか外せないということか。
「せめてもの償い……はい、動かしていいよ?」
「わわわっ!?」
「――く、くすぐったいけど、もっとゆっくり動かしてみてくれるかな?」
「こ、こうかな?」
「……ん――ん、んん……」
指先だけの感覚ではリイサの膨らみを確かめることは出来ない。反発力のあるたわわな部分は、俺の指先を押し返して来る。ただそれだけのことしか出来ない。
「フフフ……可愛い晴馬くん、手錠が外された時にはもっと好きにしていいからね」
「そ、それはさすがに……」
「Wij zijn voor elkaar bestemd.」
「え? な、何て言ったの?」
「私たちはね、結ばれる運命なんだ……って意味なの。単純に指先だけで満足なんてしたくないし、させたくないな」
「運命……」
「そ。とりあえず腰だけ浮かせてくれるかな?」
「え? 腰を? それくらいなら少しは……あ、まっ……」
寝ているだけの自分にとって、相手が放つ言葉はどういうわけか絶対に逆らってはいけないような、そんな気分になってしまっただけに、素直に腰を浮かせてしまった。
「まっ、待って待って! そ、それは駄目だってば! こんなところをさやめにでも見られたりしたら……」
「レイケならもう国内にいないよ。その手錠はレイケの主人から貰ったものらしいし、それをどうにかするために話し合いにでも行ったんじゃないかな。だから見られてもいいんだよ? もちろん、わたしにだけ」
「で、でででも」
「ふーん? 意外と耐えているんだね。普段からレイケにイイコトをされているのかな?」
「な、何のことか分からないけど、さやめとはリイサが思っているようなことはしてないよ」
「そうなんだ? じゃあ、少しだけ進めたってわけか。それならこれくらいでやめとこうかな。つづりがしたことよりも進んだみたいだし、今はいいや」
何て危ない行為なんだろうか。危うく下着を全て脱がされるところだった。一番危ない行動を取るのは、リイサということを知っただけでもいいと思うことにする。
「え、えと、俺を起こしてくれないかな?」
「んー? あぁ、そうだね。でもさ、レイケは帰って来ないわけだし、このまま一緒に添い寝してても誰も文句は言わないんだよねー。そうしとく?」
「そ、それくらいなら……」
横に寝られるだけなら下手なことはして来ないだろうし、確かに誰も文句は言わない。
「うんうん、可愛いこと言うね。それじゃあ、えいっ!」
「いっ!? え、あの……どうして目隠しを?」
「わたしも恥ずかしいの。だから晴馬くんに見られると照れちゃうんだよねー」
「そ、それなら……むぐっ!?」
「んー……っと! はい、頂きました! わたしからの口づけには意味があるんだ。レイケとは別のね。楽しみだなぁ……愛しの晴馬くんを全て頂ける日が待ち遠しいなあ」
「な、なんで……」
「よし、帰るね!」
「えー!? 手錠は? さ、さやめは……」
「だからー国外に行ったよ? 追いかけたいの? それならレイケの近しい母親に連絡をしてみるとか?」
さやめの母親……自ら会いに行ったら、そのまま本家に監禁されそうで怖い。そもそも、さやめとあの人は従える者と従いたくない者のはず。
居場所を知っていても、会いに行かせるといった無駄なことはさせない気がする。
「じゃあ、またね?」
「そんなぁ……」
結局泣いても手錠は外れなかった。やはりさやめが言っていた所に行くしかないのか。
「あ、そうそう……」
「な、何かな?」
「下着だけ置き土産しとくから、好きに使っていいよ! 少しだけ水気を含んでるかもだけど、それも含めて好きにしてねー! それじゃあバイバイ!」
「な、ななな……」
何であんなに過激な態度と行動をする子なんだ。姉妹揃っておかしすぎる。つづりさんはこれからどういうことをしてくるのか分からない。
妹か姉かはもはやどうでもいいとして、つづりさんはリイサほどの危なさは無いようにも見える。それなら彼女たちのことは、今は気に留めるだけにしとこう。
さやめの奴、どこに行ったんだよ。いつも無理やり連れて行くくせに、何で置いて行くんだよ。
言いたくないけど、さやめに会いたい……。
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