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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第四章:ライバルの影
46/74

46.「では触れるだけでいい」と上目遣いで訴えるお嬢が本気すぎた件。


「あ、相変わらずなお屋敷すぎる……」

「ふふっ、お付き合いをしている晴馬であれば、もっと気軽に訪ねて来てもらいたいものだが、お父様が要らぬ誤解をしてしまいかねないのでな。わたくしのお部屋だけ訪れて貰いたいが、それも簡単ではないわけで……せっかく会いに来てくれたというのに、もどかしい思いをさせてすまない」


 こんな想いをさせてごめんとしか思えない。会いに来たわけではなく、さやめと揉めに揉めまくる寸前だったら、いつの間にか敷地内に入っていたんですなんて、言えない。


「いや、いいよ。円華と話が出来るだけで嬉しいよ」

「ま、まことか! そうか、わたくしも嬉しい」

「言葉遣いが戻ってるよ。それも円華らしくて好きだけど」

「す、好きっ!?」

「あ……」


 しまったと思った。この子は古風な言葉遣いだけではなく、純粋すぎる女子なだけだ。それだけに迂闊な言葉を口にしては、本気にさせてしまう。しかし嫌いではないので、どう言えばいいのか不明すぎる。


「さぁ、遠慮しないで入ってくれ」

「聞いてもいいかな?」

「どうした?」

「玄関からじゃなくて、窓からじゃないと入っちゃダメなのかな?」

「さっきも言ったが、お父様もお母様も正門から入った時点で誤解を……」

「そ、そういうことなんだ。は、はは……」

「それに……」


 何やら言いづらそうにモジモジと体をうねらせながら、お嬢は顔を真っ赤にしだした。


「それに、正門から入った時点で、晴馬と結納をしなくてはならない。わたくしはそれでもいいが、晴馬はそうではないのだろう?」

「ゆ、結納!? な、何でそんな一足飛びな状況になっているの? ご両親は確か、さやめを……」

「あ、あぁ……レイケに従っていたのは事実なのだが、やはり娘が可愛いのだな。わたくしの気持ちを第一に考えて下さっているのだ。レイケには後で報告をすればよいとおっしゃっていただいた」

「それにしたって、正門から入っただけで結納は……」

「い、嫌か……? 晴馬には旦那様になってもらっても一向に構わぬのだぞ」


 さやめとは性格やらなにやら全てが違いすぎる。こんなにも一途な子を今すぐにでも抱きしめてあげたい。だけどどういうわけか自分自身の体なのに、さやめに支配されているかのように動かすことが出来ない。


「……晴馬」


 お嬢が静かに目を閉じた。これはアレだ、アレなんだ。しかしソレをしてしまってはいけない気がする。


「晴馬……して、欲しい」

「ご……ごめん。まだ、俺はその覚悟が」

「嫌いなのか?」

「嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、円華のことはもっと大事に……」


 どこのお子ちゃま思考なのか。さんざんさやめとキスしておきながら、お嬢とは出来ないとかどれだけ意気地なしの根性なしの弱虫なのか。


「――ん、晴馬は簡単ではないのだな。わたくしも、そう簡単には接吻を捧げるわけにはいかないか」

「そんなことは――」

「いや、気持ちとはそんなに簡単ではない」

「……え」

「ふふ、何事も急いては事を仕損じる、か。ではこの胸の高鳴りをどう抑えれば良いというのか。晴馬、わたくしに触れて欲しい……」

「ふ、触れる?」


 お嬢の気持ちを汲んであげればいいだけのことなのに、そして部屋に上がったという時点で彼女なりに気持ちが高まってしまったのも理解出来ているのに、お嬢とは簡単にしてはならない気がして動けずにいる。


「じゃ、じゃあ……両手を広げてくれないかな?」

「手?」

「接吻をする代わりにはならないかもだけど、肌の接触は接吻をしたと同様というか何というか……触れ合って少しでも分かり合えればいいのかな、と」


 というのをいつかどこかで聞いたことがあった。脈打ちを互いに感じ合って、通じてくれればいいと思った。


「……晴馬の両手にわたくしの手を重ねればいいのだな」

「そ、そうだね」


 特別扱いというわけでもないけど、さやめとのことを今は忘れ、お嬢と手と手を重ねている。ただそれだけのことなのに、簡単にキスをするよりも緊張するし、脈打ちが激しさを増しているように感じられるのはどうしてなのだろうか。


「―――恋か。ふふっ」

「え?」

「わたしは晴馬と恋をしている。好きを確かめ合っている時間なのだな」

「う、うん」

「大事にされているのは嬉しきこと。ただそれでも、わたしの気持ちは下がらないまま。晴馬の手はとても暖かい。その右手だけを少しの間、借りてもいいか?」

「え、右手を?」


 お嬢と両手を重ね合っていたのに、何故か右手というか右手首を掴まれてお嬢の方に引き寄せられてしまった。


「ま、円華!? ご、ごめん! そ、そこはおじょ……円華の左胸……」

「とてもドキドキしている。心臓の脈打ちが激しくなっている……どうか、この時間を少しばかり貸して欲しい。晴馬を感じていたい……」


 キスですら叶わなかったのに、大胆にもお嬢は自らの胸に俺の右手を付け、ただ静かに目を閉じている。まさに純粋で純情。やはりお嬢相手には不真面目にしてはいけないようだ。奴とは違いすぎる。


「晴馬……わたしの気持ちは偽らない。好きを続けていく……晴馬を迎えるために、わたしはもっと可愛くありたい」


 こういう時は黙ってキスをしたい。でも今の流れでそれは駄目な気がする。ここは我慢をして、気を静めることにする。やはりお嬢のことを真剣に考えるためには、さやめを何とかするしかない。

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