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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第四章:ライバルの影
45/74

45.大事なのは「心だ」と真剣に話すお嬢


「お! 片付けが終わったか」


 さやめと何事もなく(危なかったけど)、家を出るとカイが立っていてすぐに謝って来た。


「晴馬、今回のことはマジでごめん!」

「あれ? 泉ちゃんは?」

「とっくに帰らせた。部屋のこと聞いたけど、晴馬がいい奴過ぎて助かった……っていうとバカにしているように聞こえるかもだけど、あいつは思い込みが激しかったからああいう行動に出るしか……」

「あ、いや、顔写真のことなら特には――」


「雨洞カイ。はるのことをバカにしているの、バレバレなのだけど? 何か言い訳でもあるか?」


 (お前が言うな! と言いたい)


「そ、そんなつもりは無いけど、イイヤツなのは確かだ。レイケもほどほどにしてやってくれないか? そんなに晴馬のことが気になるくらい好きなら、優しくなるとかして――」

「はぁ? 誰がアホ馬を好きって言った?」

「いや……そうじゃなきゃ、そんなに気になるはずが……」

「本家ごと消されたいと聞こえるけど、いつ消されたい?」

「いいえ……何も言ってないんで、すみませんでした」

「……ふん」


 立場的にはさやめの方が圧倒的に強いのだろうが、それにしたって本当にレイケだとか特別だとか、一体どこまで脅威的な存在なのだろうか。だけどお嬢自身にはさやめはそこまで強く言わないのは何故なのか。


「じゃあ俺は帰るよ。晴馬、泉のことはこれからもよろしくな。もちろん、学園の中だけでいい」

「う、うん。じゃあまたね、カイ」


 さすがに今回のことで、外で出会わせることはさせないみたいだ。彼女に思い出のキスをしたことで、彼女自身が吹っ切ってくれたらいいと思った。それにひきかえ、何でコイツは強情なんだ。


「……はぁー無駄な時間だった」

「お前何なんだよ、それ」

「何って何が?」

「その態度とか、俺のことだよ! 許嫁なのに彼女にはならないって、それなのに俺が誰かを好きになったら邪魔しに来るとか、何なのお前? 俺に好きとか一言も言ってきてないくせに、そのくせ俺のすることを邪魔するとか、そんなに特別なのかよ?」

「……ふぅん? こんな道端ではるはソレを聞いて来るんだ? じゃあはるはわたしにどう言われたい? 答えなよ?」

「ど、どうとは?」

「そのままだけど? 好きとか嫌いとか……だろ?」


 確かに帰り道の途中で聞くべきことじゃなかった。そうは言ってもいつもいつも邪魔されていい気分はしていないだけに、何とも抑えが利きそうにない。はっきり言ってもらうべきなのか?


「お、俺は……さやめの――」


『そこにいるのは晴馬か!』


「へ?」

「――あぁ~あ、気づかずに歩いていたら敷地内に入ってた。彼女の範囲に入ったみたいだし、帰る。はるは彼女と仲良くすればいいんじゃない?」

「な、何だよそれ……どこに行くんだよ、さやめ!」

「帰るし。用も済んだし、一緒に歩いて帰るとか無意味。じゃあね、はるくん」

「あ、おいっ!」

「前も言ったけど、わたしを知りたいなら探し出してみなよ。そしたら全てを教えてあげる」

「探し出す? どういう意味で……」

「そのままだけど? あはっ、アホ馬くんは大いに考えたまえ! じゃあね」


 なんて勝手な奴だ。さやめから探しに来といて、俺からは探し出せとか。特別な意味も自分で探し出せということくらいは分かる。分かるけど、何とも言えないムカつきがあって素直になれない自分がいる。


「ふふっ、晴馬から会いに来るとは何ていい日なのか」

「ここら辺は円華まどかの家の敷地?」

「そうだ。何だ、知らずに来たのか? そんなことはともかくとして、午後にいなくなっていたのは心配したぞ。誰かと一緒にいたのか? そ、その、レイケとかだったりするのか?」


 何てことだ。お嬢は俺を本気で心配しているみたいだ。それも、誰と一緒にいたとかさやめといたとかを気にしているなんて、そんなに俺のことが好きなのだろうか。


「ど、どうなのだ?」

「さ、さっきまでさやめがいたけど、俺が早退した理由を問い詰めて来ただけで……何も無いよ」


 お嬢には下手なことを言って嫌われたくない。どうしてか、そう思ってしまった。


「そうなのか。そうか、レイケが先に来ていたのか……そうか……」

「ま、円華、ごめん」

「何を謝っている? 悪いと思ったから会いに来てくれたのだろう? それに怒っていないぞ」


 そういえば最近は時代劇かぶれな言葉遣いじゃなくなったようだ。何か心境の変化でもあったのだろうか。


「円華は素を見せて来ているのかな?」

「素? どういう意味だ?」

「前はもっと片言の時代劇みたいな言い方をしていたよね」

「晴馬に好かれたくてわたくしの普段を変えようと思っているのだ……へ、変だろうか?」

「そ、そんなに好きでいてくれているんだ」

「お付き合いをしているのだから当然のことだ。それに、まだ接吻すら致したことがないのだぞ? それならば、もっとわたくしは努力が足りないのだと感じた」

「え、わたくしだなんて言ってなかったよね? どうしてそんな、そこまで変われるのかな」


 こんなにも想われていながら、俺自身はさやめのことが言えないくらい好きを口に出していない。こんな彼女がいながら、泉ちゃんの部屋に行ったりしてバカだな。


「大事なことだ」

「え?」

「大事なのは心だ。自分がどうしたいかと問い詰めて、やはり晴馬のことを好いていて、もっと好きでありたいと思った。だからこそだ」


 やばい、真剣すぎる。さやめとのことが無ければ本気でお嬢と付き合えるはずなのに、何であいつが俺の部屋にいて、一緒になることが決まっているのか。こんな想いを抱かせて、付き合えば? とか簡単に言うのか。


「そ、そっか」

「それと、婚約という重荷が晴馬の負担となっているなら、接吻と婚約は切り離す。だ、だから……これからはもっと気軽に接吻をしてもいい」

「気軽に出来るものでもないからね?」

「と、とにかくわたくしのお屋敷に来て欲しい」

「これから?」

「い、嫌か……?」


 (お嬢が上目遣いとか、これは奇跡の一枚!?)


「と、とりあえず行こうかな?」

「ホントか!? もうすぐ暗くなる。迎えを呼ぶから、一緒に……」

「それなら一緒に歩いて行こうか? 円華と歩きながら行きたいなーなんて」

「は、晴馬」


 さすがに調子に乗りすぎたか、お嬢が焦り出してしまった。


「手、手を繋いでも?」

「へっ? あ、うん」


 これが本当に可愛い女子の姿だと言える。あいつも少しはこういう謙虚さを見習ってほしいものだ。


「心……か」

「うん? どうした、晴馬」

「嬉しいってこういうことなのかなと」

「わたくしも嬉しく思う。ふふっ」


 覚悟、覚悟か。さやめとのことは覚悟を持って、相手をしていくしかないのかもしれない。

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