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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第三章:追い求めているモノ
44/74

44.「そのまま我慢しろ」とほざく彼女には油断も隙も無かった。


(何でコイツはいつも上からな態度で……)


 心の中は戦々恐々。

 焦りを見せたくないと思い、心の奥底で思うしかなかった。許嫁であり、妹であり、思い出の女の子でもあるさやめ。彼女になった覚えはないにもかかわらず、泉ちゃんにキスをしたらわたしにもやれよなどと、何故コイツは俺に執着をするのか。


「あれぇ? どうしたのかな? あの子にはして、わたしには出来ないとでも言うのかな?」

「う、うるさいな。気持ちはそう簡単に切り替わらないものなんだよ! 何でお前っていつも俺の邪魔をしてくるんだよ? そんなに他の子と一緒にいるのが気に入らないなら、彼女になればいいだろ!」

 

 本当によく分からない上に、面倒な奴だ。お嬢と付き合うことを容認したくせに、寸でのところで姿を見せて、それ以上は許したつもりは無いといった行動と態度を見せて来る。


「はるの彼女? 彼女ねぇ……許嫁だからって、今から縛り付けるのは好きじゃないだけなのになぁ」

「いや、十分縛り付けてるだろ! 大体何で泉ちゃんとの関係をいつも邪魔しに現れるんだよ! 何なんだよ」


 思わず本音をぶちまけて、さやめを反省させようとしたのに、コイツは人の話を聞いていないどころか、冷静に部屋の壁と天井を眺め出した。


「しっかし、これはやばくない?」

「何がだよ?」

「だって、エロ馬の顔が四方八方から見つめて来るんだよ? それでいて、あの泉って女子が純粋に恋をしているとでも?」

「か、可愛いだろ! いつ撮ったかは知らないけど、俺のことが好きすぎて部屋で独り占めしようとしてたんだし、健気だと思わないのか?」

「……バカなの? 健気? ポジティブなアホ馬くんも嫌いじゃないけど、旧姓を利用してまで近づいて、おまけに普段は立ち入らない分家にわざわざ晴馬を招き入れた。どうしてだと思う?」

「そうでもしないとお前が邪魔するからだろ」

「へぇ……?」


 最初こそあの子は男装してまで近づいて来た。それでも悪い感じはしなかったし、可愛い努力をしているとさえ思っていた。それなのにさやめは、そういうレベルじゃないといった表情で何かを言いたそうにしている。


「何が言いたいんだよ?」

「……とりあえず、はるに見つめられまくるとムカついて来るから、天井と壁の写真を剥がす!」

「そんなことする必要なんてないだろ! 泉ちゃんの許可を取って――」

「彼女の兄からは許可取れたわけだし。はるが判断するのはおかしいよね」

「兄? カイか?」

「そういうこと。アレと友達なんだろ? 細かいことはアレに聞いてみたら? とにかく、剥がすのを手伝ってくれない?」


 どうやらここにさやめが来れたのは、カイを脅して詰め寄ったか、早退のことで言い訳に失敗したかのどっちかだろう。


「で? 俺は何をしろと?」

「そこに跪け!」

「何でそんなことをしなきゃいけないんだよ……第一そんなことをする必要が……」

「天井のを剥がすから、晴馬はわたしを肩車! 早くしろってば!」

「肩車!? いや、それ……それはさすがに」

「何かエロいこと考えただろ? さすがエロ馬くん!」

「考えてない。そんなガキみたいなことを言うなんて、さやめはガキなままだなって思っただけだ」

「い、いいだろ別に。だって、はるくんは昔はよく肩車をしてくれたし……こんなことでもないと出来ない」


(あれ、何か急にさやめが可愛く見える)


「と、とにかく丁度そこにベッドがあるし、そこに座るから屈んでよ!」

「しょ、しょうがないな」


 さやめはベッドに腰掛けて、早く屈めと睨んでくる。可愛くない……前言撤回だ。


「何でよりにもよってスカートで来たんだよ……」

「そんなのはわたしの勝手。何も感じなくていいから早くしろ!」

「あぁっ、くそ。ほら、乗れよ」

「うん、いい子だね。あ、違う、いい馬だった」


 俺の肩には容赦なくさやめの両足が乗っかり、さやめは天井の顔写真を剥がし始めた。


「特別に足首を掴ませてやるから、落とすなよ?」

「いくら何でもするわけないだろ! お前、小柄だし全然余裕」

「ふ、ふぅん……と、とにかく我慢しろ! そのままの姿勢で我慢し続けたら、晴馬には後で褒美をやらないでもないし?」

「はいはい、期待なんてしてないから早くしろよ」


 想像していた肩車とは程遠く、屈んだ俺の肩に両足を乗せて、脚立のような使われ方をされている。こんなのにほんの少しでも緊張をしてもしかしたら「きゃっ」などと、可愛い声を出すのではと期待した自分にうんざりした。


「はる、もういいからゆっくり屈め」

「分かったから足に力を入れるな。天井の写真は全部剥がしたのか……?」

「上見るな! 早く降ろせ!」

「あーうるさい」


 どうやらさやめには恥じらいも可愛げも無いらしい。あくまで作業台代わりに使われただけだった。今なら油断しているコイツに、何か仕掛けることも出来そうだが今はやめとこう。

 キスのこともうやむやになりそうだし、コイツの機嫌が悪くない状態を保っていれば、隙が生まれるかもしれない。


「ねえ、晴馬」

「何だよ?」

「隙を作ってるのはどうしてだと思う?」

「へっ? す、隙を……!?」


 今の状況はさやめの足首を掴みながら、ゆっくりと垂直に下降しているだけだ。油断をしている今なら、足首ごとベッドに倒すことが出来る。しかしそれをしては、また同じことの繰り返しでさやめの思い通りになってしまう。

 そういつもいつも押し倒すほど、俺はコイツに隙を見せるつもりは無いと思っていた。


「バレバレなんだけど? しないんだ?」

「何のことか分からないな……それにここは泉ちゃんの部屋だ。目の前にベッドがあるからって、都合よくそこに押し倒すつもりなんてないぞ」

「ふーん? じゃああげない」

「何を?」

「わたしの隙を見せるチャンス。んー……今回は健気な晴馬に免じて許す。とにかく壁のエロ馬も剥がすから、早くやりなよ」

「あ、あぁ」


 やはり意図的に油断と隙を見せていたようだ。押し倒してキスをするという、いつものパターンをいつの間にか作り出されていた。


「お前の思い通りにはさせないからな」

「何のこと?」

「何でもない」

「……本当に? ほらほら、今ならわたしを抱きしめても殴らないぞ?」


 間近に迫る整った銀髪と整いすぎている綺麗な顔つきは、気持ちの隙を突いて来る。柔らかな髪に、俺を誘うような何かの甘い香り、大きすぎる態度と違い、肩に手を置いただけですっぽりとおさまる華奢な体は思わず優しく抱きしめたくなる衝動に駆られそうになる。


「い、いや、ここじゃやらない」

「ふ、ふーん……生意気だけど、そういうことが言えるようになったんだ? じゃあいいや」


 これは俺の強がりであり、新たな作戦だ。いつもいつもさやめの思い通りにさせていたのはもうやめにする。泉ちゃんの部屋でそういうことをするのも気持ちがいいものでもない。


「もういいだろ? 帰ろうぜ」

「――へぇ? まぁいいけど」


 今度こそ俺がマウントを取る! コイツの思い通りになんてさせるものか。

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