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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第三章:追い求めているモノ
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36.「触れたいだろ?」などとほざくのはコイツしかいない件


 またしても泉ちゃんを逃げ帰してしまい、自分の部屋に勝手に入って来たさやめから、攻撃を受けている最中だったりする。部屋の照明は玄関から入ってすぐの壁にスイッチがあり、そこを押さない限りは、消灯しないはずだった。よりによって目隠しのタオルらしきものを付けられるとは想定外だ。


「くそっ、何でこんなことに……」


「あはっ、面白い動き。さすが晴馬」


 とにかく手当たり次第に、両手を動かしながら自分の部屋を探るしか方法は無い……というより、近くで見ているさやめにさえ触れられれば、今の状況から抜け出せる、ただそれだけのことだ。


「お前何でこんなことするんだよ! そんなに俺のことが嫌いなのか?」


「嫌いなわけが無いけど? 許嫁って言ったはずだぞ? 嫌いなら解消してるっての!」


「じゃあ何でこんなガキっぽいことをして、遊びに来てくれた子を追い出す真似をするんだよ!」


「遊びに? 鈍いね、相変わらず。言ったはずだけど、覚えてないか。忘れ馬くん?」


 一体俺のあだ名はいくつレパートリーが存在しているのだろうか。それはともかく、さやめが今まで放って来た言葉の数々なんて、はっきり言ってまるで覚えていないのが真実だ。

 

 考えられる可能性として、許嫁という絶対的な立場で、俺に近づく女子にマウントを取ろうとしているということは、何となく分かって来た。尤も、お嬢だけはどういうわけか放置しているのが何とも気に入らない。


「ほらほら、大して広くもない晴馬の部屋ですら、わたしを探す能力も無いか。無能力馬くん?」


「ふ、ふざけんな! こ、こうなったら、うおおおおおお!」


「あはっ! 面白ーい! 手踊りかな? ウケるんだけど。わたしに触れたいんだろ? 触れてみなよ」


 さやめの言う通り、部屋自体は広くなんかない。ただし、勝手に壁を壊して隣にさやめの部屋を作られた関係で間取りが以前と違っている。その影響で、ベッドやら棚やらが端の壁際に全て寄せられるようになった。つまり暗闇をただ闇雲に動いても、端まで行かないことには何かの物には当たらないわけである。


「視界を闇にしただけなのに、部屋が広くなった錯覚ってやつかな? 嬉しいだろ?」


「うるせー!」


「ほらほらほらー? わたしはここだぞ? 捕まえてみろよ。はるくんには無理だけどぉ?」


「うがーー! このっ!」


 タオルで目を隠されているだけで、その目隠しタオルが徐々に緩んできたのと、目が暗闇に慣れてきたおかげで、何となくさやめの足元の動きが見えて来た。本人はまだそれに気付いていないのか、かなり近くで俺をからかっているようだ。


「はるくぅん? わたしはここだよ? 腕でも足でもどこでも触れたら、部屋を明るくしてあげるんだけどなぁ」


「……さやめちゃんの前髪に触れたいなぁ」


「うんうん、触れられたらいいよ? まぁ、無理だけど」


 敵は完全に油断をしているようなので、そろそろ実行に移すことにする。


「く、くそー! さ、さやめちゃ……あっ!?」


「んっ? 何も無い所で転ぶの?」


「と、見せかけて……コノヤロー!」


「え、あっ……」


 何となくベッドの影が見えて、近くに立っていたのが見えたので、転んだそのままの勢いでさやめごと押し倒すことに成功した。ムカつく奴だけど、下手にケガをされてもヤバいことになるので、ベッドに倒した。


「きゃっ」


「ど、どうだ! 触れたぞ? さやめに触れたんだから、目隠しを取ってくれ」


「取ったら触れてくれる?」


「いくらでも触ってやる! 俺の部屋だし、問題ない」


「でも……晴馬が今触れているのは、どこだと思う?」


「羽毛布団だろ? フワフワしてるし、弾んでるし」


「……ふぅん? それが晴馬の感想か。やっぱ、目に見えない状態だと思い込みで触りまくれるわけか」


 さっきからコイツは何をほざいているのだろうか。自分のベッドで普段から使っている、羽毛布団の感触くらいは身に覚えがあるし、それに触ることに何の問題があるというのか。


「目隠しを取っても、その手は動かすなよ? 約束出来るか、晴馬」


「当然だろ?」


 そうして目隠しタオルを外された……のは良かった。いや、良くない展開と状況が待ち受けていた。


「羽毛布団……どこに行った? いや、だって……それ、その感触は」


「晴馬は寝相が悪いだろ? 布団なんていつも床に落としてるのを見ているけど? で、あなたのその手は、わたしの胸にありますけど。さっきから遠慮なく」


「ふ、布団のつもりで動かしていただけであって、す、好き好んでさやめの胸を触りまくったわけじゃないぞ?」


「あっそ、でもその手の逃げ場は残されていないけど。その手で前髪を触るのか? どうなんだよ、晴馬」


「いや、それは……さすがに、その……」


 普通であれば胸を触られて恥ずかしがったり、照れも見せてもおかしくないはずなのに、どうしてコイツはいつも通りなのだろう。いくら許嫁でも、こんな無表情な奴だと気持ちが入っていかないような気がしなくもない。


「どうした、わたしの目を見ていいなよ?」


「えーと、それはぁ……」


 ピーンポーン――


「あれ? こんな時間にお客さん? しかも寮に?」


 目の前のさやめも珍しく玄関が気になっているのか、さっきまでの威勢がどこかへ消えているみたいだった。


「晴馬くんのお部屋はここで合っているのかな? いたら開けてくれないかな?」


「え、嘘――何で……」


 などと、さやめがかなり驚いているようだ。そもそも誰が訪れて来たのだろうか。こんなさやめを押し倒した状況で玄関の扉が開いたらどうなるのだろう。


「さやめ? 玄関の鍵は閉めたよな?」


「――あ」

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