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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第二章:さやめの変化
33/74

33.「ちっ」なんて、そんな舌打ちは彼女から聞きたくなかった。


 言葉にも出来ない苦しみとはこのことだ。正確には息は吸えるし吐くことだって出来る。しかし言葉で表わすことが出来ない態勢と口の開きでは、どうにも出来ないという非力さを知った。


「うー……」


「え? わたしは何故ここに来れたか? わたしを誰だと思っているの? って、そのタオルは邪魔。あははっ、タオルは取ってあげる。でもすぐに塞ぐけどね」


「うっ? ふはーふはー……はぁぁぁ。お、お前、なん――んむっ!?」


「……んっ――と、これで許す。今はそんなに余裕なさそうだし? それとお前ってやめてくれる? 上から目線でわたしをそう呼ぶとか、晴馬ごときが生意気だし」


「何でそんなにキスをしてくるんだよ! いつからそんな……」


「今回は深くなかったろ? レイケ様からの口づけを有難く思いなよ。いつからって、それはもちろん……昔からだけど? 彼女がいようが、いなかろうが……レイケには無関係。それは特別な女だから! 文句あるか?」


 まさかと思うが、俺の部屋で深すぎるキスをしてからコイツのタガが外されたとでもいうのだろうか。そうだとしたら、まさに取り返しのつかないコトをとんでもない奴にしでかしたということになる。


「お嬢と付き合えば? って言ってたのはさやめの方だろ? それなのにお嬢の知らぬ間に、キスをしてくるなんて、どういうつもりだよ! 何なんだよ、さやめ!」


「わたしだから。たとえ彼女と付き合っていても、キスどころか手繋ぎすらまともにさせてもらえないようじゃ、晴馬は溜まりまくるだろ? そんな時にわたしがいれば解決するわけだ。違うか?」


「くっ……」


 お嬢と付き合っているのは確かだ。しかし許されているのは手を繋ぐ行為だけ。お嬢にキスなんてしようものなら、婚姻を飛び越えて子作りをしようと言われかねない。そういうことを知っていて、コイツは俺とお嬢を付き合わせている。何もかもがコイツの思惑通りに進んでいるということになる。


「そ、それで、特別なレイケはこの部屋がどこにあったかとか、俺がいなくなったことを何故知れた?」


「円華が知らせてくれたから。彼女を独りにさせて、まさかこんな部屋でいかがわしいことをおっぱじめようだなんて、さすがにお嬢様には言えないな。もちろん、ここがどういう部屋かなんて知ってるけど?」


「じゃ、じゃあ、紅葉って子のことも知っているわけか。あの子はどこの子で、何なんだよ!」


「あの子? 晴馬は相変わらず女子への眼力が無いな。年下だと思っているのか? ここは特別な保健室。誰も入って来ないし、入れない。何年いても誰も言わないし、言われない。つまり……?」


「……え? まさか、お姉さん先生的な?」


「ん、そうだね。美織センセーくらいじゃない? 美織センセーも年がいくつかなんてどうでもいいけど」


 この学園に来てから何となく感じていることがある。それは、お姉さんセンセーを含め、妹ではなく姉と思われる女子たちは何故か力が強く、それでいてそれを誇示していること。共通しているのはさやめに対抗心を燃やして、さやめに目を付けられている自分にちょっかいを出して来るということだ。


「おじょ……円華は大丈夫なのか?」


「土下座をして来たのはさすがに驚いた。けれど、彼女がそうまでして縛り馬を守ろうとしていたのは感動した。だからお嬢には、後で褒美のキスでもあげなよ?」


「そんなことをしたら大変なことになるんじゃ……」


「婚姻のこと? それなら心配ないし。すでに碓氷家には通達したし、それを知らないのはお嬢様だけ。安心したか?」


 何を通達したかなんていちいち聞きたくない。コイツは根回しが異常に早すぎる。全てが手遅れと思った方がいい。


「――それで、レイケは下僕くんを紅葉から奪うってことで合ってる?」


「ひっ……」


 すでにいた! すでに部屋に戻って来ていた。しかも似合いすぎている白衣を着ているし、何かの容器ボトルを何本も抱えて来ている。一体何をしようとしたのか。


「奪ったのはあなた……いいえ、赤城センセーでしょう? 特別な保健室担当医……ううん、臨時のセンセー?」


「ちっ」


「えっ? センセー? や、やっぱり……」


「おにーさんは年下好きなの? センセー? だから何? せっかく気持ちのイイものを大量に持って来てあげたのに、レイケにお仕置きされるほうが感じるんだ……?」


「そ、そんなことは一言も……」


 見た目だけで判断すれば、さやめの方が偉そうにしている分、上に見えなくもない。それなのに、怪しすぎる紅葉さんはかなりの年上だったということになる。どうしてこうも年上のお姉さまに狙われてしまうのか。


 どうりで手慣れていると思ったといえば失礼かもしれないけど、やり慣れている感が出ていただけにまんまと騙されてしまった。たくみも騙されていたということなのか。


「あまり学園に来ないし、この部屋が退屈なのは分かりますけど、だからといって学園の数少ない男子をつまみ食いして、いたずらするのはやめてくれます? それに、この男の子だけは手を付けて欲しくないです。他はどうでもいいですけど」


「ふぅん……? レイケの特別な相手? 美織は諦めたみたいだけど、諦めたくないなぁ。おにーさんはちょっとだけしつければモノに出来そうだし。紅葉が上になったら素直だったし……ゾクゾクっとしたもの。他の男は色々面倒だし、うるさいからどうでもいい」


 説教をされるのが嫌だったと言っていたけど、たくみがそうだったのだとしたら、や、やっぱりこの部屋で何かをしていた関係だったのか。


「そうじゃないとここも閉鎖しますけど、それでもいいんですか?」


「レイケって、そういうところを惜しげもなく出して来るけど、腕っぷしで勝てないからだよね。力づくなら紅葉に勝てそうにないもの。そこにいる晴馬くんは、抵抗出来ずに紅葉に従ってくれたよ? それこそ権威だとか、特別だとかを使わずに、ね。ふふっ、レイケの力は所詮、見えない力。違う?」


 何やら修羅場に突入させようとしているけど、力の強い紅葉さんの方が有利だ。とてもじゃないが、俺なんかの力で押し倒されたさやめごときが、この人に敵うとは思えない。どうするつもりなのか。


「……晴馬」


「うん? どうしたんだよ、さやめ――グハッ!? お、お前、何で……」


「お前じゃない。はるくんは保健室でゆっくり寝てなよ。わたしが特別だってこと、まだ知られるわけには行かないんだ。はるくんから見つけ出してくれないと、ね」


 不意打ちとはいえ、さやめごときの拳で意識を落とされるほどの強い衝撃を受けようとは、思ってもみなかった。このままこの部屋で眠るというだけで、それがどんなに危険か分かっていないのか? などと思っても、もう何も言えないくらい意識は強制的に落ちていく。


「レイケもエグイね。いくら下僕だからって、不意打ちはひどいなぁ……そこまではさすがの紅葉もしない」


「赤城紅葉センセー? 少しばかり握力が強いからといって、学園中の男子を食い散らかすのはどうかと思いますよ? 最後に残った晴馬に手を付けようとしたなんて、それは許せませんね」


「権力だけのレイケが紅葉にどうするつもり――っ!?」


「力で制圧しますけど? わたし、こう見えて師範なので。碓氷の剣術も武術も全て……わたしが網羅していますからね」


「やっ、やめっ……」

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