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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第二章:さやめの変化
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32.「それが好きなのか?」とほざかれても「うー」としか言えない件


 特別な保健室があるだなんて聞いていない。もちろん、用が無ければ保健室は利用しない。特別という言い方と響きはこの学園に来てから、どこかで聞いている気がしていただけに、さほど驚きはしなかった。


「お、俺は明空みよく晴馬はるまです。だから、手錠を外して欲しいです……」


「うん! 良く出来ました、そっか。おにーさんがウワサの晴馬くんなんだ。ふーん? へぇ……ふふっ!」


 滅多に外に出て来ないとされる目の前の怪しすぎる女子は、一体どこで俺のウワサを聞いているというのだろうか。それに名前を知って、ますます興味が惹かれたのか、何かの企みを思いついたのか、笑顔が怖い。


 それにしてもこうして間近できちんと見ると、身体の線は細いものの、胸が大きくてくびれは完璧、髪もとても引きこもりとは思えないくらい、肩の辺りまでのストレートヘアーで綺麗に整えている。

 

 耳を横髪で隠していても、先端だけを少しだけ出しているのが色気とも言うべきだろうか。たれ目で一重だけど、宝石のオニキスのような黒い瞳は油断をすると、心まで奪われそうな感じがした。


「え、あの……なんで俺のことを?」


「ウワサのこと? 保健室に引きこもりの女が何言っているんだ? って顔してるね。図星だよね、おにーさん」


「そんなことは……で、でも、何で……あ! もしかして、たくみの彼女って紅葉さんのことですか?」


 たくみは言葉を濁していたけど、初めの頃はほとんどまともに話が出来ないくらい姿を見なかった。それは彼女の所に行っているとも、カイは言っていた。この子がそうだとしたら、ウワサも辻褄が合う。


「……彼女? 違うよ。紅葉は誰の彼女でもないし。それがおにーさんの口説き方?」


「え? 口説いてないし、たくみじゃないの? そ、そうじゃなきゃ俺のことは知らないはずだし……」


 友達を疑うわけじゃない、それでも自分のことを話題に出すことがあったとすれば、この子にもそれが伝わってもおかしくない。


「――特別なんだよね、おにーさん。このお部屋も特別。特別な存在と、お部屋にいる紅葉は惹かれ合ったんだよ? それってすごいことなんだ。ウワサなんてそんなの、廊下の話し声で聞いたに過ぎないし」


「じゃ、じゃあ、たくみのことは? 彼女……じゃないの?」


「……知らない。紅葉、説教する男は好きじゃない。してきた男は用済み。でも、おにーさんはしてこないよ? 特別だから、だよね」


「特別じゃなくて普通の奴です……特別なのは俺じゃなくて、レイケって呼ばれている女子であって――」


 言いたくは無いけど、学園においてのさやめの存在は格が違うような、そんな気がした。少なくとも、自分が特別だなんて、そんなことはあり得ないはず。


「ふぅん? レイケかぁ……おにーさんは、レイケの何? 下僕か何か? あれこれうるさくなってきたから、縛るね?」


「ひ、ひぃっ!? 手錠を外してくれないどころか、縛る? ま、待って! ご、ごめん……レイケは僕の妹みたいなもので、だから……キミが思っている関係じゃないというか、何と言えばいいのかな」


「おにーさんはレイケに縛られているんだよ。だから、紅葉が忘れさせてあげるね? おにーさん、お口を大きく開けて?」


「へ? こ、こうかな? あーん……うがっ!? うーうーうー」


 く、苦しすぎる……まさかこんなに危険なことをしてくる子だったなんて、これはさやめからいつも感じる危険なソレとはまるで違う危なさを感じてしまう。どうなってしまうのだろうか。


「うんうん、大人しくなったかな。おにーさんは、下がいい? 上がいい?」


「うー……ひは? ふへ? ううう?」


「そっか、下がいいんだね。うん、性癖は理解出来たよ。それじゃあ、紅葉が上になるね。そのままおにーさんは動かなくていいし、楽が出来るよ。紅葉が勝手に動けばいいだけだもの」


 一体何を言っているのだろうか。よく分からないけど、これは非常によろしくない気がするけど、声は出せないし体は自由になれない。かつてないほどの危機が迫っている。


「ふふっ、それじゃあ始める~? 始めちゃおうか」


「ううーう?」


 賛成も反対も出来ないまま、俺の上に跨ろうとしている紅葉という子は着ていた服を脱ぎ始めている。まさか、これって……そういうコトの始まりを意味している!?


「うううううー! むーむー!」


「え? せっかくの保健室なのにそれだと燃えない? あ、そっか、やっぱり白衣でしたいんだね? さすがおにーさんは目の付け所が違うよね。うんうん、それは紅葉も思っていたんだ。それじゃあ、準備して来るから、そこで待っててね? といっても、動けないしそのまま待っててくれるのは当たり前かな」


「うー……(そんなこと一言も言ってないよ)」


「え? お風呂に入りたい? ごめんね? 特別な保健室だからって、それは完備していないの。その代わりに、アレを満遍なく塗ってあげる。アレなら滑りもいいし、そのうち渇くよ。それじゃあ、少しだけ待っててね」


 言うだけ言って、紅葉とかいうヤバイ子は部屋から出て行った。何を塗ってくれるかなんて考えたくないけど、どうやらここには置いていなかったらしく、慌ててどこかに取りに行ったみたいだ。


 保健室のベッドは鉄製で手錠には最適なのか、かなり頑丈でびくともしない。加えて、彼女が口に含ませた濡れタオルは息はしやすいけれど、言葉を出すにはハードルが高くてまともな発声が出来ないでいる。


「……うー」


「思い出に縛られ馬くんは、やっぱり縛られる方が好きだったわけか」


「うっ!? うーがーうー!」


「や、好きなんだろ? いつもならわたしが姿を見せた時点で、それは違う! って言うものね」


 言いたいけど言えないのに、コイツは助けに来たのか罵りに来たのか、どっちだよ。


「わたしを見つけ出す……なんてほざいてた晴馬なのに、いつもわたしに見つけ出されているなんて、しょうのない子だよね」


 からかいに来ただけのようだ。何でこんな目に遭わなければならなくて、助けられもしないのか泣けてくる。この際、コイツに見られてもいいから本気で泣いてみるしかなさそうだ。


「ううっ……うっ、うううっ……」


「えっ……はるくん? な、泣いているの? うそ、マジ泣き?」


 コイツごときに見せる涙なんて、痛くも痒くもない。ここはとにかく泣きまくって動揺を誘い、助けてもらうしか方法はない。一年分、いや、普段泣かない分の涙を流して同情してもらおう。


「うううっ……(さやめー助けてー)」


「あはっ! 泣いてるね。どうしようかな?」


「うー……(何だって? コイツ、まさか……)」


「晴馬の部屋で押し倒されたし、この機会を利用して晴馬の泣き顔を、上から眺めさせてもらおうかな」


 最悪すぎる……、こんな展開は望んでいなかった。涙で助けてもらう計画が通用しなかった。このままだと間違いなく紅葉と名乗る子と、さやめが鉢合わせになるのは明確だ。くそー助けてよ、さやめちゃん。

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