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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第二章:さやめの変化
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31.気づけばそこに「待っていたの……」と必死に訴える女性がいた話


「どうした、明空。レイケに何かするんじゃないのかの?」


「し、しました。すでにしましたから、どうかお許しを!」


「ふむ、いいじゃろう。授業を始めてよいのじゃな?」


「も、もちろんです! あの、例によって抱っこを?」


「うむ、頼むぞ」


「は、はい」


 自分で降りられないのにどうして机の上には上がれるのか。それも、もなかちゃん先生の良い所なのかもしれないけど、さやめ……お前は駄目だ。


「で、お前いつまで待ってるんだよ? しないからな? いや、したんだからキスは駄目だ」


「あはっ、した。したね? 教室でも髪に触れたあなたは、もう――逃げられない。いつでもどこでも……ね」


「え、おいっ! な、なん――」


「わたしも自分の席につくよ。それじゃあね、はるくん」


 何かの契約でも交わしてしまったのかは定かじゃない。それでもさやめの表情からは、満足そうに喜びを露わにしていることが読み取れただけに、それ以上は何も言えなかった。

 前髪に指を梳かせただけの行為が、さやめにとってはかなり重いことだったのだとしたら……なんてことは考えたくない。いや、それよりも、さやめに席があったなんて初耳なことなわけだけど。


「え? 席?」


「お、おい、晴馬。レイケにやっぱ何かしでかしたんだな」


「へ? な、何でカイがそんなこと言うの? というか、さやめって座る席なんかなかったよね?」


「今までは確かにな。だけど、今日からそうなったらしい。やはりお前がレイケに何かしたとしか思えないな。さっきも教室であんなことを言い放ったり、髪に触れるとか、晴馬はスゲーわ!」


「う、ご、ごめん……あれは気にしないでいいからね。そ、それに髪に触れる程度でそんな、大したことは」


「いーや、普通は出来ねえ。それも教室の中でなんてあり得ねえ。相手がレイケだからなおさらな」


 言われてみればもの凄く大変なことを人前でしてしまったのかもしれない。それにさっきから、殺気のようなものをとある席から感じているし、休み時間にはきっと果たし状を投げつけられるに違いない。


「まぁ、彼女には土下座をして謝っとけよ? そうじゃねえとレイケの思うままに事が進むぞ」


「彼女? え、誰?」


「お嬢に決まってんだろ。お前の彼女だろ? それともすでに別れてレイケに身を捧ぐつもりが? それはそれで同情するけど、お嬢には優しくしとけよな」


「そ、そうするよ。ごめん、カイ」


 そう言われればそうだった。あの日の訪問以来、さやめとの出来事があまりに多すぎたせいで、お嬢と付き合っているという現実から遠ざかっていた。


「は、晴馬、少々いいか? 話がしたい」


「おじょ……円華。い、いいよ、廊下に出ようか?」


「あぁ、頼む。二人きりの空間がいい」


 こんなことを言って来るあたり、改めて彼女と付き合っているんだなと実感できた。以前までは、軽々しく話しかけて来るななどと、お嬢から言われるばかりで近付けすら出来なかった。


「そ、そのな……この前はすまなかった。わ、わたしは知らなくて、レイケが父さまと繋がりがあったなんて聞かされていなかった。そのせいで晴馬にはひどい思いをさせた。謝罪する! ど、どうか許してくれ!」


「ひいっ! ここで土下座はやめてー! た、立ち上がっていいから! というか、謝るのは俺の方で……」


「いいや、彼女としての覚悟がわたしには無かった。だ、だが、晴馬が許してくれるというのなら、わたしはもっと努力を重ねて、お前の為の女となりたい」


「朝から睨んでいたのって、怒っていたんじゃなかったの? そ、その、さやめとのことで」


「に、睨んでいたように感じていたならそれも謝る。それにレイケと晴馬は幼馴染と聞く。それ故、髪に触れる程度くらいはしてもおかしくない。そのことについては怒ることなどしない。か、彼女のわたしにもそれくらいはしてもいいのだぞ? む、むしろ、今ここで同じことをわたしにも……」


「ええっ!? 円華の髪にも触れるってこと? そ、それはさすがに……」


「い、嫌か?」


 こ、これはおねだり? 違う、精いっぱいの上目遣いな彼女のレアすぎる光景。やっぱり気にしていたんだ。怒っていないのは助かったけど、嫉妬心で大変なことになっていた。


「は、晴馬……」


「う……」


 心の中で葛藤しながら、彼女にしないわけにはいかないと強く決意を固めたまでは良かった。行為に移そうとしたその時、どこかに体を引っ張られていたことに気づくも、そのままどこかに入っていたらしい。


「晴馬? え? ど、どこに行ったのだ? 晴馬、晴馬はどこ?」


 円華の儚げな声も空しく、声を出すことすらままならないほど、口は強い手の平で押さえ付けられていた。この学園にそんな危険な要素はないはずなのに、これはどういうことなんだろうか。


「うふふ……待っていたよ? ねえ、おにーさん」


「ぷはっ! はぁっはぁっ……ふー……って、えええ? き、キミは今朝の?」


「うんうん、おにーさん。紅葉くれはをきちんと覚えていたね」


 連れ込まれた部屋は保健室のように見えた。何気なく円華と廊下で話していただけなのに、どうして次から次へとこんな事態に陥っているのだろうか。


「え、あの……ここって保健室ですよね? 何で俺、ここに……」


「うん、引き込んだから。安心していいよ? ここにはだーれも来ないし、入れないから。通常の保健室はここじゃないしね。ここは特別な保健室なんだ。紅葉以外、許可なく入って来れない……誰も、ね」


「えええええ? いや、ちょっ……な、何で」


「お礼をちょうだい? 朝、わざわざ外に出て、おにーさんを学園近くまで案内してあげたよ? 偉いでしょ? 外に出るなんて、本当に嫌だったんだよ?」


 外にわざわざ? まさかこの子、保健室に住んでいる女子だったりするのだろうか。それに特別な保健室で誰も入れないって……それはかなり危険な発言に聞こえたんだけど、まさか?


「おにーさん、お名前を正式に教えてくれる? そしたら、イイコトしてあげる」


「い、いや、あの……ど、どうして手錠をかけるの? これだと動けなくなるんだけど……」


「逃がさない為だよ? 手錠はお名前を聞かせてくれたら外してあげるかもね?」


「そ、それなら言いますから! だから、物騒な真似はやめてくれると……」


「おにーさん、お名前は?」


 誰も入れない保健室……ここには、あいつも入って来られないのだろうか? こんな時にどうしてあいつのことが思い浮かぶというのか。でも誰でもいいので、来て欲しい……そうじゃないと何かまずいことが起きそうな予感がした。

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