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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第二章:さやめの変化
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29.「ちょうだいね?」なんてことを放つこの子は誰なんだ?


 さやめのことで数日が経った気がしていたものの、翌朝になると途端に現実に引き戻された。目覚めた時点で、学校へ行く日だと分かってしまうのが何とも言えない。以前と違うといえば、仕切りで部屋を分けている筈なのに、奴が俺を起こしに来るようになったことだろうか。


「はる、起きろ!」


「……うーん、うるさいな」


「僕のことを好きにしていいって意味に聞こえるけどいいんだ?」


「よくねー! ってか、起きてたからな? どういうつもりか知らないけど、勝手に俺の部屋に……じゃなくて、一緒に住むのを許した覚えはないぞ。そういうので勝手に既成事実を作ろうったって、そうはいかないのは理解しとけよ?」


「ふーん……?」


「な、何だよ?」


「晴馬のくせに言うようになったな、と思った。意気地なしでのろまでヘタレ野郎で、ドスケベな奴のくせにね」


「何か追加されてるけど、俺はスケベじゃない! それはむしろさやめの――」


 何故に俺の性格を次々と勝手な解釈で足していくというのか、コイツはやはり駄目だ。


「昨夜はあんなに揉みしだいたのに? 何だかんだではるくんって、することはするんだ?」


「も、揉みっ!? し、してない! しだいてなんかいない。ふ、触れただけでそんなことを言うな! と、とにかく俺は学校に行くからな? 今日からはもっと女子に積極的に……」


「揉みしだく?」

「しないっての!」


 何かを言えば返され、ことあるごとに触れたことを過大に表わして来るなんて、何て恐ろしい相手に恐ろしい行為をしでかしてしまったのだろうか。興味は少なからずあったとしても、実際に行おうとしていたわけじゃない。よりによって何でさやめにしでかしてしまったんだ。


 こうなればさやめとは無関係の女子と親しくなって、さやめにしでかしたことをリセットしてくれるような魅力的な子を探そう。それしか生きる術は残されていない。


「――えーと、どっちの道だったっけ……」なんて、たった二日の休みを挟んだくらいで、早くも学園への道のりをど忘れしてしまった。こんなことならあいつと一緒に……なんて思うわけが無い。


「そこのおにーさん」


「いや、右の角を左に……違うっけ?」


「おにーさんー? シカトぶっこいてんのかな?」


 さっきから誰かにお兄さん呼びをされている気がしていたけど、普段からさやめ率いるお姉さま軍団から、弟やら年下扱いをされているせいで、お兄さんと呼ばれてもそれは自分ではないと自己判断する癖がついていた。


「そこのすけこましなおにーさん! こっち向けっつーか、呼んでんだろ? 向けよ、おい!」


「ヒッ……」


 恐る恐る後ろを振り向くと、背の小さな……ではなく、何ともか細くそれでいて線の細い女子が、しゃがみ込んでいるでは無いですか。真下から見つめられ……ではなく、ずっとこっちを睨んでいるように見える。


 そもそもすけこましって、一体いつどこの女子を騙したのか。見知らぬ声の主にどうしてそんなことまで言われなければならないのか、全くもって理解出来なかった。何と言っても見た目に反して、さやめ並に言葉が悪すぎるのはどうしてなのか。


「な、何かな?」


紅葉くれはのこと、見えてるの?」


「え……もしかして自分にしか見えない女子って意味かな?」


「ううん、違う。さっきから呼んでたの。紅葉をシカトぶっこみかけるとか、おにーさんっていじめっ子なの? それもアリだけど、痛いのは嫌なの」


「へ? え、えと、違ってたらごめん。もしかしてキミは、ひととせ学園の女子……かな?」


「そうだったらどうするの? 追いかける? 追い詰めて占有する? いいよ、おにーさんなら。でも高いけど」


 何だかよく分からないけど、とてつもなくやばめの雰囲気を醸し出している女子な気がする。さやめとはまたどこか違う危険性がありそうだ。これは適当に謝って自力で学園に向かわないと。


「ご、ごめん、急いでいるからまた今度ね? 追いかけないから安心して! じゃ、じゃあ……」


「紅葉をいぢめる……?」


「いじめてないよ? 何で腕を掴んでいるのかな? 移動したいなぁ、なんて」


 この場からさっさと立ち去りたかったのに、謎過ぎるこの子は腕を掴んできた。それも恐ろしく握力があって、なかなか簡単にはほどけそうにない。


「このまま学園まで引っ張ってあげる! 学園に着いたらちょうだい!」


「な、何を?」


「知らないの? お礼のこと……知っているよね? 知らないはずがないよ……だって、おにーさんは紅葉のカラダを隈なく観察していたもの。その代償は高くつくよ? じゃあ、黙って付いて来てね」


 い、嫌だぁぁあ! 明らかに美人局としか思えない言葉と行動力じゃないか。学園には女子が多いから、こんなデンジャーな女子がいてもおかしくない。だとしても、学園に行くのを迷っていただけの自分に何の落ち度があったのか。すごい力過ぎて逆らうことが出来ないだけに、非力な自分に泣きたい。


「晴馬? お前こんな所で何やってんの? 学校に行かないの? って、泣いてる!?」


「た、たくみ? え、あれ? デンジャーな女子は?」


「デンジャー? いないけど……もしかして道を忘れて泣いてた?」


「は、ははは……た、頼むよ」


「驚いたよ。晴馬が俺んちの近くを歩いてたなんてさ。もしかして、探してた?」


「何を?」


「だから、俺の家を」


 自分の寮から学園への道ですらまともに覚えていないのに、どうして友達の家を探せるというのか。


「ところで、あの子に出会った?」


「あの子? どこの子?」


赤城あかぎ紅葉くれはって子だよ。あの子の相手をするのは骨が折れるから、晴馬じゃキツイんじゃないかなぁと」


 すでに計り知れない洗礼を受けたところだよ、なんて言えない。


「し、知り合い?」


「いや、えーと、彼女……じゃなくて、何て言えばいいのかな」


「俺が転入したての時に忙しくしてたのって、その子のことで忙しかった?」


「もしかして、カイから聞いてた? うん、まぁそうだね。晴馬にはレイケがいるから大丈夫かなって思ってるけど、喧嘩してない? レイケの保護から抜けてしまったら、晴馬は俺らじゃ守れないからさー」


「さやめの保護が何? 守るって何から守るの?」


 むしろさやめから守って欲しいんだけど、たくみやカイだと厳しいのかもしれない。そうなると、お嬢くらいしか頼れないけど、あの日以来から何とも言えない雰囲気になってしまったし、どうすればいいのか。


「ま、まぁ、平気だと思う。道を教えながら行くから、覚えてくれよな」


「あ、ありがとう、たくみ」


 デンジャーな謎女子は危険な出会いとでもいうのかは分からないけど、さやめ以上に危険な女子はいないはず……そう思いながら、たくみの道案内のおかげで学園にたどり着くことが出来た。

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