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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥 かずら
第一章:消えた思い出の子
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2.「お姉ちゃんと呼んで」と彼女はおっしゃった。


 学年上がりと同時に入ったひととせ学園は、元々女子だけの学園だったらしく、担任のほとんどは女性ばかりだ。しかも学園都市だけで一通りの教育機関が充実していることから、卒業後はそのまま学園の先生になる人が多いらしい。


「……ということなので、晴馬くんは私のことをお姉さん先生と呼んでね」


 どういう理屈なのだろうか。この理屈で行くと、卒業上がりの先生のことはみんなお姉さんになる。自分も含めてみんながみんな、素直にそんな呼び方をしそうな男子連中はいない。


 それなのに、自分の顔を見るや否や指名を受けたかの如く、ピンポイントで言われてしまった。同じ教室には押しかけ同居のさやめがいるだけに、そういう火種を作るのは勘弁して欲しかった。


「こっち見ないでくれる?」


 思わず目が合ったさやめの口は、突き放す言葉を放っていた。どうして彼女はあんなになってしまったのか。不安なことを思っていると顔に出ていたのか、席が近い彼らが声をかけてきた。


「不安だ。不安すぎる……」


 周りを見渡すと女子が20人に対して、自分以外に男は10人にも満たず、圧倒的にアウェイだった。


「転校生なんだって? そりゃ災難。ハーレム状態って思えるかもだけど、ちょっとでもデカい態度とか、威圧しようもんなら……って、脅すつもりは無いから安心してくれ。俺は雨洞うどうかいだ。カイでいいぜ! これからよろしく」


「俺はたくみ。たくみって呼んでくれ。女子のことを知りたいなら俺が紹介するよ。えーと名前何だっけ?」


「明空晴馬です……だよ」


「緊張してんの? 数少ない味方なんだからビクビクしなくていいぜ。ってことでたくみと一緒によろしくな、晴馬!」


「よ、よろしく、カイ。たくみも」


 元が女子学園という説明を受けたのはここに来てからという、何とも逃げようのない状況を作られてからだっただけに、男子の立場は弱いということを即座に理解した。それだけに話しかけてくれたのは、強力な味方を得られたようで救われた気がする。


「こらっ! そこの男子くん。何をこそこそと内緒話をしているのかな? お姉ちゃん、そんなの許さないんだからね?」


「ご、ごめんなさい、先生」


「違うでしょ! 私のことはお姉ちゃん! ううん、美織みおりって呼んで! いい?」


「は、はい。みおり先生」


 これは何のお仕置きだろうか? 普通の高校から学園に転校した時点で、弱々しい自分を変えようと心に決めていたはずなのに、先生にすら子ども扱い……いや、弟扱いされているなんてこんな学園生活は想定外。


「ダッサ……」


 そして本人は聞こえるようにしてわざと声を大きくしながら、挑発をして来ている。たとえハトコ……いや、妹でもある立場でも、あの態度は本当に許せない。


 ここは彼女に厳しく言う必要がある……そう思い立ち、休み時間になると同時に、女子たちで固まっている席に近づこうとした。すると、長身でモデルのような女子が自分の元に駆け寄って来た。


「な、何です? えと、俺……あの子に用があるんですよ。だから出来たら通せんぼをしないでくれると……」


「あの子って、レイケのこと?」


「レ、レイ? そうじゃなくて、さや――」


「やはりアナタも彼女狙い? どうして学園の男は妹に媚びようとする?」


「へ? こ、媚を売るとかじゃなくて、説教を……本当の妹だからね?」


 もしやこの子はさやめを敵対視でもしているのかな。そうだとすれば、話をきちんとすれば味方になってくれるかもしれない。そうと決まれば、何かを言われる前に廊下に連れ出して話をしてみよう。


「えと、話を聞きたいから、こっちに来てくれないかな?」


「……? な、何? どこに――」


 こういう時こそ、意気地なしから脱却した強い自分をあいつに見せつけるチャンスだ。不意打ちでも何でも構わない。そう意気込みながら、目の前に立ちはだかっている長身女子の手を掴み、教室を出た。


「よし、廊下でなら邪魔されることなく話が……あっ、いきなりごめんね。キミと話がしたくて、というよりも、教室では話しづらそうに見えたから廊下に連れて来たんだけど、驚かせてしまったよね? 本当にご—―」


「ぶ、ぶ……無礼者! な、何だ、何でいきなりワタシの手を掴む!? 求婚か? そうなのか?」


「えっ? きゅ、求婚って……え? そ、そんなつもりは全然……」


「ワタシが男子に不慣れなことを知っていてそういうことをしたのか! お前、名前は?」


「え、えと、晴馬です……決してキミのことを知っていたわけじゃなくて」


 何でこんな大事になっているんだろう。俺はたださやめのことを聞きたかっただけなのに。このままじゃあらぬ誤解と疑いを彼女に抱かせてしまう。


「お困りかな? 晴馬君」


「あっ、先生!? そ、そうです。あの……」


「違うよ? 先生じゃなくて私のことは美織お姉さんって呼んで欲しいなぁ」


「美織お姉さん……先生」


 この学園の先生は何なんだろう。先生は実はみんな姉で生徒は妹だけとかじゃないよね? でも今は目の前の女子を何とかしてもらわないと、教室にすら戻れそうになさそうだ。

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