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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第一章:消えた思い出の子
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17.「ならば番いとなれ!」なんて言葉を放つお嬢と……


「え、えと……セップクするとこの先、学園どころか人生をこの場で終えなきゃいけないんだけど……それは許して欲しいです。何とかならないかな? えと、碓氷さん」


「キ、キサマ! 何故逆らう? それとセップクする明空が、ワタシを遠い存在として見ていることに違和感を覚える。ワタシのことは円華まどかと呼べ」


「円華……その、セップクって、お腹を……痛くして絶命する行為のことだよね? 刀か何かを持っている?」


「何を言っている? セップクとは……キサマがワタシにしてくることだろう? 絶命とは何だ?」


 まさに武士が自らを絶命する行為のことを言っているとばかり思っていたのに、どうやら何かが食い違っているように思えた。この場には立ち合いの人間も来ていないし、刀も見ることが出来ない。


「も、もしかしてセップクじゃなくて、セップン……キスのことを言ってる?」


「そうだ。接吻をしろと言っている。何を訳の分からないことを言って……もしかして、誤魔化しを謀っているのか?」


 言い間違いにしてはおかしすぎる。接吻……キスをしなければならない責任と罪が思い当たらない。


「つ、罪とは何かな?」


「忘れたのか? キサマはワタシの手を無理やりに引っ張り、掴んで離さなかったではないか!」


「えー……それが罪? じゃあ、責任って?」


「ワ、ワタシから言わせるのか?」


 どういうわけか、責任と言った途端に円華は顔を赤くさせて、急に全身を左右に揺らし始めた。そして何とも歯切れの悪い言葉に変わっていた。


「そ、その……は、恥ずかしいことだ。せ、責任の前にセップクを……」


「いや、接吻のことだよね? キスを円華にするなんて、それこそ大罪になると思うんだけど……出来ないよ。だから責任でよければ取るよ。どうすればいいかな?」


「……な、ならばワタシとつがいになれ」

 

 つがい? 確か文鳥とかをつがいで飼うとかって言うけど、つがい……? 雄と雌?


「ふ、夫婦になれってこと!? そ、それはいくら何でも」


「セップンが出来ないのであれば、まずは番いとなり……然るべく時が訪れたら、セップンをして来い! 二つに一つだ。明空! 選べ!」


 これがさやめの言っていた意味か? 選択肢が二つしか無いのは聞いていない。とすると、ここはこちらから選択させるしかなさそうだ。


「そ、それじゃあ、とりあえず……つ、付き合うということでどうかな?」


「付き合う? それは何だ?」


「つまり恋人になるってことで、そしたらキスもすることになるかもしれないし、間違いが起きれば番いになるかもしれないよ?」


 こんな簡単に恋人になるとかするとかでいいのだろうか。だけどお嬢と呼ばれるこの子は、話を聞けば聞くほど箱入りのようだし、付き合うということの過程を知らずして夫婦になるとか、キスを求めて来るとか何も知らない女の子のようだ。


 付き合うと言っておけばこの場は収まるだろうし、友達として付き合っていけば誰も悲しいことにもならないはず。昨日のさやめとのキス……いや、人口呼吸からどういうわけかそういった流れになっているようだし、キスをすることは避けなければ。


「分かった。明空! ワタシは今からお前と付き合う。一緒に手を繋ぎ、教室に戻れ」


「て、手を繋いだままで教室に? それはさすがに早いんじゃないかなあ……」


 それにさやめの奴に、また何かしらのちょっかいを出されるに決まっているだろうし、もなかちゃん先生にもますます見張られそうな感じを受けてしまう。お姉さん先生もどこかで監視していそうではあるし、かと言って、この場を上手く切り抜けるにはそれしかないのだろうか。


「明空は言葉を偽るのか? キサマはワタシに責任を取らないばかりか、罪すらも感じていないのか!」


「えええ? で、でも……あいつが何て言うか」


「あいつとは誰のことだ? ワタシというものがありながら、すでに番いがいるとでもいうのか?」


 さやめが何て言うか、しれたもんじゃない……いや? 何故さやめの伺いを立てる必要があるのだろうか。勝手に部屋に住んでいるだけで、俺が誰と付き合おうがあいつには何の関係もないはず。


「い、いないよ。でも付き合うからと言って、すぐに行動を周りに見せつけるのは良くないんじゃないかなあ?」


「……む。それもそうか。ならば、これからはキサマと過ごす時間を増やす。教室では互いに名を呼べ! 時間をかけて周りに知らしめることとする。よいな?」


「うん、それでいいよ。そ、それじゃあ……円華、戻ろうか?」


「うむ。手繋ぎは無用とする。先に戻るぞ? キサマ……晴馬も早く戻れ」


 何やら嬉しそうにして、円華は階段を降りて行く。


「そ、そうだね。すぐ行くよ、円華」


 何とかなった……のか? 上手く逃れたような気がしなくもないが、とりあえずキスを逃れた。ほっと一安心をしたところで、屋上を出て階段を降りようとすると、側面から奴の声が聞こえて来た。


「――おめでと、はる。初めての彼女が出来た?」


「なっ? お前、覗き見していたのかよ! コソコソ隠れて、情けないと思わないのか?」


「思わないけど? はるを見るのが趣味なわけだし。それにしても、どうしてキスを拒んだのかな? そんなにわたしとの人工呼吸が忘れられなかった? もう一度してあげようか?」


「随分と悪趣味なんだな。それに拒んだわけじゃねえよ! 俺はどこかの悪趣味な奴と違って、簡単にキスなんか出来ないんだよ」


「あはっ! 意気地なしのはるが戻って来た~! こんな目の前でキスを待っている子がいるのに、どうして出来ないのかな? そんなことで、円華をモノに出来る? 出来ないだろ?」


 コイツ、俺のことを完全に舐めてかかって来ている。だとしても、口車と挑発に乗せられてキスを迫るなんて下らないことはしたくはない。してしまえば、それこそさやめの思い通りの展開になってしまう。


「付き合う。円華とは付き合うことを決めた。さやめこそ、いいのか? 俺と円華が付き合うことになったら、今までのように気軽にちょっかいを出して来られないだろ。部屋も出ていくしかないんじゃないの?」


「何を言ってるの? だから何? キスも拒んで、夫婦となることも断って付き合うというか、友達関係に逃げたはるに何を遠慮することになるんだろうね? 面白いね。はるくんは」


「と、とにかく邪魔はするなよ?」


「いいよ? 晴馬はもっと女子を知ることだよ。そうじゃなければ面白くない。面白くさせるために、何でもしてあげる。それが妹の務めだし、もう一人の子も起こしてこようかな……」


 やはりと言うべきか、どこかで出て来るとは思っていたさやめ。しかも円華と付き合うことまで認めているとか、一体何を考えているのだろうか。何にしても、まずは女子の友達と仲良くしていくことがさやめを見返すチャンスだと思えば、気恥ずかしさなんてどこかにいなくなるはずだ。


「あぁ、それにしたって、不安だ……不安すぎる」

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