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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第一章:消えた思い出の子
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16.お嬢が「セップクしろ」と言って来る件。


 さやめの奴に不本意すぎるキスをされてから、ロクに眠ることが出来ないまま一夜が明けてしまった。目の下に分かりやすいクマを作ってしまったが、学校には行かなければならない。


 今日することは、まずは泉くんを探して開口一番で土下座をすることだ。話せば分かってくれると思えるのは、彼は俺を慕っていることにあった。泉くんのことについてはさほど問題としていない。むしろ問題は、恋文を突き付けたお嬢だ。未だに封筒を開けていないので、学校に行く前に見てみることにした。


「白昼にて、空を見上げし場を借りて貴様の受諾を問う」


 想像以上に恋文という形式でもなかった。それはともかく返事を聞かせろってことのようなので、昼間の屋上に行くしかなさそうだ。恋文らしき文を見たので、まずは学園に行くことにする。


「おはよ、カイ」


「おー晴馬……」


 泉くんを探そうとする前に、カイに出会えた。何故だか浮かない表情で俺を見て来るのは何でだろうか。


「晴馬、お前さ……妹に何を言った?」


「へ? 妹さんって昼休みの時に会った妹さんだよね? 何か言う前に逃げられちゃってるけど、妹さんがどうかしたの?」


「お前の部屋に泊まりに来ただろ? そん時に襲って言葉責めでもしたのかな、と」


「泊まり? 妹さん来てないよ。そもそも女子が俺の部屋に入ることなんて……うん、無いかな」


 さやめはノーカウントとして話を進めないと面倒なことが起きそうで嫌だった。


「泉だよ。昨日お前の部屋に行くって嬉しそうにしてたぞ。まさか記憶を失うようなことでもした?」


「泉くんなら確かに来たけど、カイの弟?」


「妹だ。気付いていないのか? マジで?」


 泉くんじゃなくて、泉ちゃんだったとでも言うのだろうか。確かに華奢な体つきだった……そんな、まさか?


「泉くんって、変装してたカイの妹? いや、そんな……」


「にっぶいな、お前。それはともかく、泉が青ざめた顔で帰って来たんだよな。お前の部屋で何かされたんだろ? 友達として正直に言ってくれ。殴らねえから」


 俺の部屋で何かをしたのはもちろん、さやめしかいない。しかしあいつが俺の部屋にいるのを知られるわけには行かない。殴られたくないし、キスをしたのは俺じゃないが正直に言うしかなさそうだ。


「ご、ごめん! い、泉くんがして欲しそうだったから、俺、泉くんにキ――」


「おい、貴様! 通路を塞ぐな。明空晴馬! 約束の刻を忘れるでないぞ? 来なければ許さない」


「ひぃっ! も、もちろん、行きますから」


「そしてそこの男! 明空晴馬の邪魔をするな。教室に入れ!」


 お嬢は朝から機嫌が悪そうだった。恋文ではなく、あれは果たし状か何かだったのだろうか。


「珍しいな。お嬢の機嫌が良すぎる。俺にも声をかけてくるなんて驚いた。今日は晴馬に何かするつもりがあるんだな? 晴馬はやっぱりスゲーな! レイケといい、お嬢といい……俺の妹に勝ち目は無さそうだ。何をしたのかは聞きそびれたけど、そろそろ妙義センセーが来るし教室に入ろうぜ」


「う、うん。アレで機嫌がいいんだ? というか、前も気になったけど女子に声をかけられるのがそんなに珍しいことなの?」


「実の妹ならともかく、この学園では知っての通り女子が圧倒的だ。数の少ない男が、迂闊に女子に声をかけることは簡単じゃないってわけだ。ましてやお嬢は普段から男に近づかない箱入りだしな。それを晴馬は初日から近付けさせただろ? スゲーよ!」

 

 そんなに大層なことをしているつもりはないのに、この学園ではさやめの態度のデカさを筆頭に、他の女子たちも同じように扱われているということなのか。恐れているわけでもないだろうけど、もっと普通に女子たちに話しかければいいのにと思ってしまう。


「何をしている? 席に着かんか。それともお前の席まで付き添いが必要なのか? 明空」


「だ、大丈夫です! 一人で自分の席に行けますから、付き添いは無用です!」


「ふむ……いつでも、もなかに言うんじゃぞ? 明空はフラフラとどこかへ行ってしまいそうで心配じゃ」


「い、行かないです。大丈夫です!」


 どう見ても年下に見える幼顔なもなかちゃん先生は、よほど俺を子供扱いしているらしい。子供なのは誰が見ても、もなかちゃん先生だと思うがそれを言っては駄目だ。


「ロリ馬くん、おはよ。その様子だと眠れなかった?」


「……んだよ? 誰のせいだよ!」


「えー? いいのかな、そんな誤解を生みそうなことを言っちゃって。まるでわたしが晴馬を寝かせなかったことのように聞こえてしまうけど?」


「事実だろうが! お前のせいで――」


「明空! 早う席に着け!」


「ご、ごめんなさいっ!」


 またもさやめのせいで、もなかちゃん先生に目をつけられてしまった。絶対わざとちょっかいを仕掛けて来ているに違いない。怒られないことをいいことに、いい気になりすぎているさやめの奴は、後で絶対に叱ってやりたい。


「くそっ……さやめの奴」


「選ばれし晴馬は朝から気が抜けないんだな。同情したいけど助けられないから応援にしとく」


「それは冷たいなぁ。あ、そうだ。たくみに聞きたいんだけど、お嬢って武家のお嬢なの?」


「んーいや、俺らが勝手にお嬢って言ってるだけで、本人にそう言っているわけじゃない。ただまぁ、レイケとは真逆の純和風……いや、ファン? マニアか、とにかくソレが好きすぎてあんな風にしているだけであって、武家の令嬢かどうかはよく知らないんだよな。お嬢に気でもあるの?」


「そ、その、昼に話をすることになったっていうか。果たし状みたいなものを貰ったというかね……」


「じゃあ行くしか無いな。晴馬なら平気だと思う。何かあってもレイケがいるだろうし、下手なこともされないと思うよ。がんばれ」


 学園内の女子情報を持っているたくみにしては、なんともあやふやすぎることを言ってきた。結局のところ、お嬢にしてもさやめにしても詳しく知ることが出来ない、強力なガードがかけられているのだろう。


 目の下のクマは昼くらいになると、内緒で授業中に目を閉じていた効果もあって、あまり目立たなくなった。これなら白昼の下でも相手に気取られることは無さそうだった。


「あ、あのさ、屋上ってどこから行くの?」


「あん? 屋上? 屋上は階段をひたすら上がって行けば着くよ。どこの棟でも繋がってるから迷うことが無い。頑張れよ、晴馬」


「そ、そうなんだ。ありがとう、カイ」


 カイの適当な道案内を聞いて屋上にたどり着くと、確かに青空の下にお嬢の姿があった。仁王立ちで待っているその姿は、おおよそ恋のソレではなく、どう見ても果たし状という意味としか思えなかった。


「来たな。明空晴馬! キサマがワタシの手を触れたことの責任と、罪を償ってもらう!」


「え? 責任? 罪って……初日に手を触れたことの罪なら謝ったはずじゃ?」


「キサマ、セップクしろ!」


「セ……セップク? えっ? えええええ?」


 転入初日にしたことだから、てっきり無かったことにしたとばかり思っていた。それなのに数日経ってから呼び出しをした上に、なぜ今になってセップクを言い渡されたのか。これはどうすればいいのかな。

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