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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第一章:消えた思い出の子
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15.「見本を見せようか」とほざく彼女は生意気に舌を出した。


 このシチュエーションはアレだ。目の前に可愛い子がいるのにキスをしない理由があるとしたら、ソイツはソッチ側か、ヘタレ野郎か……口が臭すぎるかのどれかだろう。


 しかし今回に限っては、可愛い子の性別が明らかに男の子であり、可愛いからと言ってキスをするとかそれは根本から間違っているわけであり、決して嫌とかそういうことではない。


「何を怖気づいているのかな? 色んな女子にちょっかいを出したい願望の晴馬くん」


「さやめには泉くんが可愛い女子として見えているとでもいうのか? たとえ女子だとしても部屋に呼んですぐにキスをしちゃうとか、それは非常識だろ。キスは、す……好きな人にするものであって、しかも相手も了承済みだからこその行為だろ。さやめに許されるとか許されないとかそういう問題じゃないぞ!」


「ごちゃごちゃうるさい。性別なんか気にしてる晴馬が情けなさ過ぎて……今すぐ土下座させてやろうか?」


 なんて横暴な奴だ。しかしさやめとバトってる最中でも、泉くんはガクブル状態をキープしている。これは思いきり抱き締めてあげたいレベル。やはり性別は自分の常識から抹消して、まずは目の前の年下くんを安心させるための空気を吹き込むしかないのか。


「悩める晴馬……あはっ! 悩め悩め! もし目の前の子にキスをしてみせたら、ご褒美にわたしからもキスしてやろうか? して欲しい……? ねぇ、はる?」


「さやめとキス? はっ、誰が! 何の得にもならねえよ」


「得にはなるけど? レイケの唇を奪った奴として名を馳せられるし、学園ではるに近づく女は極端に少なくなるから、悪い女に騙されない。どう? してみる?」


「笑えるぞ。悪い女ならすでにここにいるだろ」


「へぇ――」


 声色が変わった途端に鳥肌が立った。泉くん同様に何故か俺もガクブル状態に陥ろうとしているが、さやめなんかに負けたら色んなものが終わりそうなので、耐えることにする。


「い、泉くん……い、いいのかな? 俺なんかのキスで」


「は、はい……晴馬センパイ、ボクにください」


 目の前の子は性別不明だ、性別なんてないんだ。意識を唇だけに集中させるんだ! キスだ、キスをするだけなんだ。そこに邪な思いやら下心なんて、これっぽっちも無いんだ。


「じゃ、じゃあ……するね」


「……センパイ――」


 まずは両肩に手を置いて、唇の高さを合わせ……そのまま一直線に体をじりじりと進ませる――


「むぐっ!?」


「はるにお手本を見せるよ。キスってのはこうして――」


 泉くんの唇まであともう少しの距離だったはずなのに、俺の口はさやめの左手によって息を止められそうになっている。肝心の本体は、俺を横目で見ながら泉くんの唇を奪っていた。


「あっあぁぁぁ……ど、どうしてこんなこと……」


「泉さん。そう簡単に奪わせないよ? こういうのって暗黙のルールがあるんだ。その格好で近づいたまでは良かったよ? だけど気持ちを見せるのはまだ早いんじゃない? 分かってないのはウチのバカはるだけ。貰おうとしていたはるのキスは、わたしから返しておくから安心しなよ。それでいいよね?」


「は、い……ごめんなさい。わたし、帰ります……」


 このままでは泉くんが帰ってしまう。しかしさやめの手が想像以上に力強すぎて息が苦しい。どうすることも出来ないが、無理やりこじ開けて手の平に息を吹き付けてやるしかなさそうだ。


「んふーんふふー! ぶふー……くっ」


「く、くすぐったい……あっそうか、そうだった。残念だろうけど、泉さんは帰った。追いかける? どうする?」


「ぷはーーー! さ、さやめ、お前は泉くんに何てことをしてくれやがった! そのキスは本当は俺がしてあげる予定だったんだぞ! 何でそれを邪魔するどころか奪うんだよ! お前みたいな狂暴な奴にキスをされた彼の気持ちを考えたことあるのか?」


 本当はギリギリで止めようとしたくらい、キスをするのが怖かった。ちょこんと触れるだけならいいかなと思って勇気を振り絞ったというのに。


「彼? あはっ、はるはいつまでたってもはるだね。分かった、彼の気持ちをはるに返してあげるよ」


「な、なにっ?」


 さやめの左手は俺の視界を一瞬遮ったと思ったら、あろうことか今度はさやめの口が俺の口を塞いでいた。な、何だよこれ。


「――んー……んっ! はい、おしまい。泉くんがするはずだったキスをはるに返した。感想は?」


「お、お……お前、何してんだよ! 感想も何も、空気が流れて来ただけだ!」


「あぁ、それはキスじゃなくて人口呼吸だし。わたしもキスをしたなんて思ってない。でもね、はる……」


「何だよ?」


「今回はあの子のキスを代わりにしてやっただけ。わたしの唇はいつでも奪うなら奪ってみなよ? 出来るもんならね。ねえ、はるくん」


「くっ……くそ」


 呆気に取られ、その場から動くに動けない俺を見ながら、さやめはペロっと舌を出して嬉しそうに笑っていた。騙されるな、騙されたら駄目だ。こんな悪そうな妹などではなく、大人しくて可愛い女子と雰囲気のよい環境の中でキスをしたい。


「さて、と……用も済んだし、わたしは外に行く。晴馬は恋文をきちんと読んで、お嬢に返事をしてあげなよ? そんで、付き合いをすることだね。そうじゃないと、晴馬は常に狙われることになる……」


「さやめ、お前何しに帰って来たんだよ」


「言うわけない。戸締りしてさっさと寝ろ。明日、お嬢に会うのに寝不足は良くない」


「くそっ、さっさと俺の部屋から出てけ!」


「出てくよ? 今はね。じゃあね、晴馬」


 舌を出した時の一瞬でも可愛いと思った俺は愚か者だ。そんなことよりも、明日は泉くんに土下座をして精一杯の謝罪をしないとダメだ。俺の迷いが彼への侮辱と、さやめのおかしな行動を生んでしまった。


「キスなんかしやがって……何なんだよ、さやめ」

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