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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第一章:消えた思い出の子
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14.「兄者のモノにしてくださいっ!」なんて言ってくる年下くんと不敵に笑う彼女。


「――というわけで、遠慮せずに入っていいからね?」


「え、やっ、か、顔認証とか……どうして兄者の部屋だけ最新式なんですかっ? 兄者って何者なのですか?」


「何者なのかは俺も分からないよ……というか、そんなに凄いことかな?」


「は、はいっ! 兄者をますます尊敬しますっ!」


 初めて俺の部屋に友達? の男の子を連れて来てしまった。しかし、隣の部屋はもちろんのこと、自分以外の部屋には設置すらされていない完備すぎるセキュリティによほど感動をしたのか、泉くんはずっと純粋すぎる瞳をキラキラさせている。


「と、とにかく中に入ってね……って、その大きなスポーツバッグは?」


「お、お泊りセットを沢山詰め込んできました! と、泊まってもいい、ですよね?」


 う、上目遣いな年下男子? 何か可愛いんだけど、何でこんなに可愛いと思ってしまうんだろう。


「お、お邪魔します。わぁっ! み、見事に何も無いんですねぇ……さすが、兄者ですっ!」


 褒められている気は全くしないけど、何故か嬉しそうにしているのでよしとしよう。それにしても授業中の最中に、強制早退した俺と腹痛で正当な早退をした泉くん。学園から外に出るまで気が気じゃなかったのは俺一人だけだった。


 本当にさやめにそういった特別な許可が出せるのだろうか。さやめの何がすごいのか未だに分かっていないだけに、今回の行動はどういうことになるのか不安で仕方がない。


「あ、兄者……あの、ここの壁は何ですか?」


「え? 壁はただの壁だよね? 何かおかしいかな?」


「壁? え、でも……取り外し式の壁なんて見たことが無くて……」


 泉くんの言った通り、よくよく見るとどこかのイベント会場のような、いつでも取り外し可能な壁になっていた。やはり突貫工事なのか、天井の訳分からない模様も継ぎはぎのように見える。


「そ、それはそうと……一緒に寝てくれますか?」


「かっ……」


「か?」


 うっかり可愛いって言ってしまいそうになった。あれれ? 俺は理想の妹像から、ショタの方に移行してしまったのだろうか。そんなはずはないと自分に言い聞かせたいのに、胸の鼓動がいつまでもおさまってくれない。


「あっ! そ、それはそうと、恋文をとある女子から受け取ってしまったんだけど、良かったら一緒に見て貰えないかな? 同性の意見を聞いて、その子に返事をしようと思うんだ」


「恋文……ですか? 兄者は何故わた――オレに見せてくれるのですか? その相手とお付き合いをするおつもりが? そ、そんなのは嫌ですっ!」


「へっ? 嫌って……応援はしてくれないのかな? 俺、こういうの貰ったことが無いんだよ。だから恥ずかしながら、同じ男子目線でアドバイスがもらえればなーと」


「ち、違……お、オレは兄者のモノになりたくてっ! だ、だから、その女子に会って欲しくないですっ! オ、オレは兄者のことが好――」


 やばい流れに突入してしまう! これは話題を逸らして、何とかお話をする方向に戻さないと引き返せない道へ進みそうだ。


 これは極度の緊張がさせている言葉に過ぎない。そう思った俺は、泉くんの華奢な両肩に手を置き、諭すようにしてゆっくりと声をかけようとした。


「い、泉くん……まずは落ち着……」


「……ど、どうぞ」


 どうして目を閉じているのかな? しない、しないよ? 同じ性別でしかも年下男子の泉くんは何故に俺からのキスをお待ちなのかな? しかし肩に手を置いたその行為はまさしく、これからキスしちゃうぜ! な行為そのものなのではないでしょうか。こんなはずじゃなかった……もっと熱血指導な絵を描いていたのに。


 クスッ――


「う? 泉くん、今笑った?」


「わ、笑える余裕なんてないです……ボクじゃないです」


 まさかこの不敵すぎる笑いは、見えない壁の向こう側に潜んでいる奴か? それとも天井裏?


「えーと、お、落ち着こうかな。泉くんはコーヒー飲むよね? 淹れて来るね。そこで自由にくつろいでていいからね」


「は、はい……はぁ……待っていますから」


 気のせいかオレオレな言葉遣いから、可愛すぎる男の子になっている気がする。なかなか危なかったかもしれない。どうして可愛いと思うのか。そもそも何故にキスを待つのか……まさか初めからそのつもりで?


「はぁ……晴馬センパイ」


「へぇ……? 上手く侵入出来たね。キミ、後輩くん?」


「え? ど、どこ?」


「キミの真後ろ。あはっ、もしかして気づいていた上で、晴馬にキスをねだったのかな?」


 何やら声が聞こえて来る。恐らく俺との会話をどうすべきかを、泉くんは一人でシミュレーションをしているに違いない。ならば濃すぎるコーヒーを淹れてあげよう。


「レイケが何故この部屋に……」


「さん付けしないなんて、随分と失礼な後輩……ううん、妹さんなのかな。そうだよね? 雨洞泉さん……」


「ひ、人違いです。わた……オレは榛名泉で――」


「気付いていたよ? 廊下で会った時から、ね。ジャージ姿でバレバレ。女の子は誤魔化せないよ? それで、晴馬に近づいた理由は何かな? 泉くん」


「そ、それは――」


「うん。言わなくていいけど、晴馬にキスをされたら何も聞かないでおくよ? わたしがいる前でキスをねだってみてくれる? キスをされなかったら、この部屋であなたを全て――」


「げっ! さ、さやめ? お前、何でここにいるんだよ? というか、泉くんをいじめてたのか?」


「勘違いしてただろ。わたし、帰らないとは言ってない。それよりも、晴馬にやって欲しいことがあるけど、やるよね? やれなければ許さないけど」


 話がうますぎると思った俺が愚か者だった。いつだってさやめがついて回っているのは最近になって分かって来たことだというのに、どうして部屋に入る段階で気配に気づけなかったのか。


「お前に許されなくても構わないけどな。で、何だよ? 何をやれって?」


「あはっ! 強気な晴馬が出た。簡単なこと。そこの年下くんにキスをする。出来るだろ?」


「はぁっ? 泉くんにキスって、そんな馬鹿な」


「しようとしてたくせに怖気づくとか、情けない晴馬。男なら可愛い年下くんにキスの一つくらいは出来るだろ? しなよ? したら許してあげる」


 肝心の泉くんは青ざめた表情と、ガクガクブルブルな全身でへたり込んでいるように見える。突然現れたさやめに腰を抜かして、さらには脅し文句でも言われたはずだから怖い怪物を見ている最中なのだろう。


「やりなよ? ねえ、はるくん?」

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