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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第一章:消えた思い出の子
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12.「恋文を読め!」と叫ぶお嬢は機嫌がいいらしい。


 カイの妹ちゃんに逃げられた俺の周りには、女子だけの人垣が出来ていて、傍目には囲まれて身動きが出来ない状況に見える。


 問題はそれではなく、またしてもさやめの声が聞こえてくる点だ。しかも人垣の手前ではなく奥にいるため、注意をするには女子垣をかき分けていく必要があった。


「あはっ! はるはわたしに近付くことも出来ないのかな?」


「く、くそ~……分かっててそういうこと言うのかよ」


 ギャラリーの女子たちは、決してさやめを守っているわけではないことくらいは分かるのに、女子たちによる人垣……女子垣をクリアしないと、近付くことすら叶わないというおかしな光景だ。


「す、すみません、あの……通してくれますか?」


 丁寧に事を荒立てずにさやめの所に行きたいだけなのに、女子垣のお姉さまたちは「お姉さんに話してみる?」だとか、「レイケが大事なの?」などなど、やはり何かしらの情報を持った上で邪魔をしているように思えた。


 遠目にはカイとたくみが見えるというのに、俺の所に近づくことすら出来ないみたいだ。「ふふん、来れるものならそこから抜け出してみれば?」と言っているようにしか見えないさやめにすら近付けない状況だったが、誰かは分からない女子の手が俺を引っ張ってくれた。


 そしてそのまま、学食カフェを離れて人けのない階段の踊り場にたどり着いた所で、彼女だと気付いた。


「キサマ、何をしていた?」


「え、えーとキミは碓氷さんだったよね? あ、ありがとう。何をって、昼を食べようと……」


「嘘を申すな! アレは周りに女をはべらせているようにしか見えなかった。キサマはそれでも日本男児か! キサマにワタシの手を触れさせた代償の責任は果たしてもらうぞ!」


 碓氷さんこと、お嬢は過保護育ちでまともに男と手どころか、接触をしたことがないらしい。そんな彼女に初日に手を掴み、廊下に連れ出した不届き者は俺のことだ。


「えと、ど、どうすればいいかな? あの場から助けるためとはいえ、また手に触れさせてしまったわけだし……出来ることなら土下座でも何でもするよ」


「ならば、これ、この恋文を読め! フフッ、楽しみだ」


 バシッ! と何かの文書らしき封筒を突き付けられ、彼女はさっさとこの場から立ち去ってしまった。


 恋文? これはもしかしなくてもラブレターとかいうモノかな? こんなダイレクトなことをしてくる人がまだいたんだ……でも嬉しい気がする。


 誰もいない階段の踊り場で恋文らしきものを開けるべきか悩んでいると、一瞬、人の気配がしたので後で読もうとポケットにしまおうとすると、年下男子の彼が息を切らせながら声をかけてきた。


「はぁっ、はぁはぁはぁ……あ、兄者、そ、それは果たし状ではないでしょうか? わた――オレにみ、見せてくれませんか?」


「君は泉くんだったよね? 何でそんな息を切らせてんの? 焦ってここに来たような感じがするけど……次の時間は体育なの? その紫色のジャージ……」


「こ、光栄ですっ! オ、オレの名前を覚えていてくれたんですね! さすが兄者ですっ! や、えと、ジャージで兄者に会う方が適切だと思っているだけでっ」


 相当焦りながら走って来たのか微量の汗も見えていて、その汗に混じって何かの香りが鼻をかすめてきた。これはさやめと似た感じの香りのような気がするけど、それはさすがに気のせいだろう。


「これは恋文って言われたから受け取ったんだけど、果たし状? それは違うんじゃないかな? それにいくら何でも見せるわけには行かないかな」


「そ、そうですか……」


 明らかにシュンとなって落ち込んでしまった。これはどう見てもいじめなのでは? などと思う自分に後悔した。


「いぢめる? いぢめちゃうのかな? さっすが、はるだね。ジャージ姿の後輩くんを……ふぅーん? へえぇぇ? そういう趣味があったなんて、ちっとも知らなかったなぁ……ねぇ? はるくん」


「げっ!? さ、さやめ……何でお前、こんな所にまで来てんだよ。まさかつけてきたのか?」


「そんなわけないでしょ。ここ、階段の踊り場。分かる?」


「バカにしてんのか? そんなん誰でも分かるだろ! だから何だよ?」


「そう、誰でも分かること。つまり、ここを通らないと教室に戻れないわけ。Snap je?」


「スナップ? え?」


「理解したか? って聞いただけ。それで、そこの年下くんにジャージ着せて何をさせようとしていた?」


 何をさせようとか何を言っているんだコイツは。なんて思っていたけど、さやめの言う通り、階段を次々と上ってくる女子たちが俺と泉くんをジロジロと見ながら立ち止まろうとしている。


「どうみてもいぢめちゃう方向に見えるけど、それとも晴馬はそういう趣味?」


「ち、ちがっ――」


「あっあわわわっ! ボ、ボクッ、戻りますっ! あ、兄者、また後でですっ!」


「あ、ちょっと! 泉くん?」


 またしても逃がしてしまった。どういうわけか、俺の前からすぐに立ち去る子が多い気がする。恋文なのか果たし状なのかなんて分からないことだけど、せっかくの後輩にはもっと優しくすべきだと反省した。


「んー? なにそれ?」


「わっ、バカッ、勝手に取るな!」


 ズボンのポケットからちらりと見えていた恋文封筒を、遠慮なしに取り出したさやめはその途端に悪戯すぎる笑顔で俺を見つめて来る。こういう所は昔から変わっていない。


「ははぁ? そういうこと? さっきの後輩くんからのラブレターって奴だ。わたしとしては反対しないけど、趣味だからと言ってジャージを着させるのは変態なんじゃないかと思うわけ。はるの反論は?」


「いや、体育だろ? ジャージって言ったら体育に備えてのことであって、趣味って何だよ!」


「あはっ! 冗談も寒いね。ジャージ? 学園でジャージなんて使用してないけど? 確かに中等部までは規則化で着ていたけど、高等部ではあり得ない。だからそうなのかなと思った」


 あれ? じゃあ彼は中等部なのか? 何にしても年下の子を従わせるとか、そんな趣味は無いしジャージをわざわざ着させるとか、そんな悪趣味なことをさせるわけがない。


「とにかく違う! さやめ、お前は何でもかんでも俺に構うな! たとえ後輩くんからのラブレターだったとしてもお前に関係無いだろ」


「関係無くはないって言ったら?」


「え? 個人のことだぞ? さやめなんかには関係無いだろ」


「うん……晴馬は常に意識しないと……ね。とりあえず、階段を上れ。上って妙義先生に謝りに行こうか」


 気づけばこの場所にいるのは、俺とさやめだけになっていた。さっきまでの野次馬はどこへ行ったんだと思っていたが、昼休みが終わっていて授業が開始されていた時間になっていた。


「わ、分かったよ。さやめのせいでもあるんだから、お前が先頭な」


「いいよ。しっかりわたしについて来いよ? ねぇ、はる先輩?」


「くっそ……」

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