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振り向けば妹がそこにいる件  作者: 遥風 かずら
第一章:消えた思い出の子
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10.「何にも出来ないくせに」と言う妹を叱ってみた。


 もなかちゃんに付き添われながら教室へ入ると、たくみとカイは笑いを我慢できずに噴き出しているし、女子たちは迷子で連れ添われている小さな子供に向けるような視線で俺を見ていた。


 普通に見るなら迷子はもなかちゃんで、付き添ってるのは自分になるのに全て逆に見られているようだった。


「ロリ馬、席へ着け。妙義先生にお礼は言ったわけ? 言ってないならこの場で礼儀を尽くしなよ」


「だ、だからロリ馬じゃねえっての! お前こそそんなことを言う時点で、もなかちゃんを子供だと言っているようなものじゃないか! さやめこそ、もなかちゃんに謝れ!」


「それは違うし。晴馬に向けての言葉であって、妙義先生への侮辱じゃないから。足りないんだから、偉そうに言うのをやめたらどう?」


「なにおう!」


「静まれ、明空! お前は子供よりもやまかしいぞ。レイケとは深い関係かもしれぬが、今は授業を開始する時じゃ。しばらく辛抱しておれ」


 どうやら真面目に担任の先生のようだ。そしてとても厳しそうな先生なことは確かだ。これ以上余計な目をつけられると、常に付き添われる可能性が出そうなので大人しく聞くことにした。


 自分にほど近い席に座っているさやめは、姿勢よく先生の話を聞いている……かと思えばそうではないようだった。ムカつくことに、席にじっとしなくてもいい立場をいいことに、無駄にちょっかいをかけて来ている状況にあった。


「……何だよ?」


「そっちこそ何か用でも?」


「そうやってウロチョロすることが出来るからって、いい気になるなよ? レイケだかレイクだか知らないけどな、学園外から来た迷える子羊を救おうとする気持ちを、少しは持ち合わせてもらいたいものだね」


 さやめとのやり取りを開始すると、見事なまでに他の女子や男子たちはさやめを見ることが無くなり、俺だけが晒されの視線を被るだけになっていた。


「Het is een brutale jongen」※生意気な坊やだよね。


「はー? ひー? ナンダ? 何を言った?」


「晴馬は変わらないんだね。わたしと何でも比較して、だけど心はいつもクソガキ。学園に来ても反省していないし、変わろうとしていない。それを直そうとしないから、わたしに食って掛かる。違う?」


「変わる為に来たに決まってるだろ! 偉そうに! さやめのくせに俺に指図とかやめろよ」


「あはっ、何を言うかと思えば指図はやめて? それはするでしょ? だって、まだ来たばかりの晴馬って学園もそう、住むのもそう……何にも出来ない坊やだし。挙句の果てに、妙義先生に付き添われるなんて本当に可哀想な晴馬だね」


 言わせておけば……と声を大にして言いたい所だったが、時すでに遅し状態ですでに俺の視界からさやめは姿をくらまし、代わって、もなかちゃん先生が俺の机の上に正座していた。


「いや、あの……何故机の上なんでしょうか」


「何じゃ? 明空はもなかを見下ろして話がしたいとでもいうのか?」


「いえいえ、そんなことは」


 なるほどと納得するしかないくらいに、もなかちゃんは小さすぎる女の子なことを、今の今まで忘れていた。そうだとしても机の上に正座とは、抱っこしたいくらいの可愛いお人形さんにしか見られない。


「お、おい、晴馬、理性を抑えろよ? もなかさんに手を出すと捕まるぞ」


 俺の視線が妹へのソレなどではなく、小さすぎる女の子を保護する保護者の目になっていたらしく、慌てふためいたカイが警告を発してきた。


「ち、違うからね? もなかちゃんは先生だし、その……視線を逸らすのは失礼だと思ったのであって、決して邪な目線を浴びせたわけじゃないよ?」


「そ、そうだよな。晴馬はまともだってことくらい知ってたぜ。年下好きなのは理解してるし止めはしないけど、もなかさんはさすがにやばいことくらいは分かるよな」


 気のせいか、他の男子連中も焦りを見せて俺を見ている気がするし、女子たちは視線をどこかに外して憐れんでいるようにも見えた。何かの誤解とおかしな空気をいつの間にか、作り出してしまったのだろうか。


「何じゃ? お前はもなかを机から降ろしてはくれぬのか?」


「それはあの、抱っこですか?」


「そうじゃ! そうでなければ怖くて降りられぬ。さぁ、頼むぞ」


 目を付けられたのは確定で、それら一連のことも含めて、俺自身がやらなければいけないことをみんなは理解した上で、憐れんでいるということのようだ。


 机に座り込むのは出来るのに一人では降りられないとか、それはどういう理屈なのか。


「そ、それじゃあ、抱っこっさせていただ――」


「ロリ馬くん、頑張れって言うべき?」


 またしても背後に回ったさやめが俺を挑発している。コイツはわざわざ後ろから声をかけるのが趣味なのかとさえ思えるくらい、後ろにいる率が高い。


 尤も、正面に見えるのは正座しながら俺を見つめるロリ……ではなく、もなかちゃん先生であり、そうするとさやめが自分に声をかける場所は後ろしか残されて無いということになる。


「くそ、い、今に見てろよ。さやめ!」


「その言葉の意味は、期待して次のアクシデントを待て。そういうこと?」


「違う! そういつもいつも、俺がそういうことをしたり起こしたりすると思うなよ? お前の知らない所で俺は進化しているんだからな」


「確かにね。晴馬の言葉遣いが意気地なしで弱虫から、ハッタリ君に変わっているのは聞いて分かる。それもいつまで持つのかも楽しみにしてる。あはっ、口癖は言わないのかな?」


「むむむ……」


 さやめのくせに本当にどうしてくれようか。しかし今は、あらゆることから耐えて耐え抜くしか、さやめの目から逃れられそうにない。もなかちゃんは味方になるというより、厳かすぎる先生だと認識した。


 それならカイやたくみ以外で、頼りたくて仕方がない……頼ることが当たり前な、男友達を増やすしかないのかもしれない。


「無駄な手間はやめてくれるかな? ねえ、はる」


「あーうるさい。自分の席に戻ってろっての! 真面目な姿を見たことないんだから、見させて欲しいものだなー。なぁ、レイケさん」

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