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言論弾圧フィルタ  作者: 破魔矢タカヒロ
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第5話 実行部隊の確保


 2018年12月17日(月曜日)。


 俺は、昨日決まったとおり、「飲み」に誘うため浅井に電話をした。


 浅井中佐は俺の電話に一度で出てくれた。


「おう、長谷川か、ひと月前に飲んだばかりやないか。なんか用か?」


「うん、武田がな、久しぶりに3人で飲もうと言いよるから電話してん。あいつ、町田にええ店を見つけたみたいやねん、女の子のいる店な、クラブに近いスナックや」


「武田って、一緒に同人誌を出しとった武田のことやろ?」


「そうや、その武田や」


「そうか、武田が俺を誘うとは珍しいな。なにせ最後に会ったのは10年前の同窓会やったからな。まあ、とにかくええで、飲もうや」


「それで、いつがええ?」


「俺な、明後日からいろいろと忙しいねん。ほやから、急な話になるけど明日やったら行けるけどな。そやけど、武田は、今、奈良にいるんとちゃうか?」


「いや、ちょうどええわ。武田な、新薬の研修会とかで木曜日まで東京やねん」


「ほんなら、明日、行こか。俺の都合で申し訳ないけど、町田やったら7時着になりそうやねんけどな」


「それで、ええと思うで。武田のお奨めの店な、8時からやて、そやから、それまで、一杯飲み屋とかで飲もうや」


「わかったわ、ほな、どこに行ったらええ?」


「そしたら、JR町田駅の中央改札を出たところで8時な。武田には俺から伝えとくわ」


「わかったわ、ほな明日な」


 そして、当日、2018年12月18日の午後7時になった。


 さすが浅井は軍人だけあって、午後7時ちょうどに待ち合わせ場所にやってきた。


 俺と武田は5分前からその場所で待っていた。


 浅井は、軍帽をかぶる機会が多いせいか、3人の中では頭髪が一番薄く、横の毛はあるが、てっぺんの部分は、「とりあえず光らない程度」になっている。


 浅井は久しぶりに会う武田に声をかけた。


「おっ、武田、10年ぶりやな。最後は、中学校の同窓会やったな」


「うん、そうやで、えらい間があいてしもうたな、久しぶり」


「ほな、とりあえず、居酒屋にでも行こうか?」


 浅井中佐は腹が減っている様子だった。


「そこ、腹がふくれるもん何かあるか?」


「シャブシャブとかなら、あるけどな」


「ああ、鍋があるのか、ほな、そこにしよ。武田はええか?」


「ええよ」


 駅から3分の店なので、すぐに着いた。その店なら益美の店まで2分もかからないはずだ。


 その居酒屋では、結局、鶏つくね鍋を食べたのだが、浅井が一番食欲旺盛だった。自衛官は普通のサラリーマンよりも健啖家ということだろう。


俺たち3人は、小学校時代と中学校時代に発行していた同人誌の話題で盛り上がった。


 鍋を囲んだので、やや長居をしてしまい、益美の店には午後8時45分くらいに入った。 店側には話が通っていて、俺たち3人は半個室のような席に案内された。俺が思っていたよりも立派な店だ。セット料金が2万円だけのことはある。


 とりあえず付いたスナック嬢と世間話をしていると、20分ほどして益美が俺たちの席に来た。


 すると、ママの益美は、浅井中佐を見るや否や、いきなり怒りだした。


「なんやあんた、山ちゃんやないか! お前、どこに隠れとった!」


 益美は浅井の横に座るや否や、浅井の薄い毛髪をむしり始めた。


 益美は、どう見ても激怒していて興奮している。


「結婚の話はいったい何やったんや? なんで急に店に来なくなった!」


 浅井中佐は相当に後ろめたいようで、益美にやられ放題だ。


「おい、助けてくれ!」


 浅井は悲鳴を上げたのだが、俺は呆気に取られ、そして武田は楽しんでしまっている。


「面白いから、助けへんけど、益美ちゃんと知り合いやったんやな」


「知り合いみたいやけど、なんで、いきなり、そういう状況になってるねん?」


「いっ、いま話すから、とりあえず、やめるように益美に言ってくれ!」


 そのように浅井が武田に泣きつくと、泣きつかれた武田が止めに入り、益美は浅井の首を絞めていた手を緩めて俺たちに聞いた。


「なあ、なんやねん、この人? 浅井さんと来るんやなかったのか?」


「えっ!? それが浅井やで」


「なにっ、これが浅井? こいつ、名前まで偽っていたのか、ますます許せへんわ!」


「おいおい、とりあえずは許したれや。今、浅井から事情を聞くからさ」


 益美は名前を偽られていたことを知り、浅井の首をまた絞めにかかっていたのだが、武田に制止されて再び手を緩めた。


 そして、喋れる状態になった浅井は恐縮しながら事情を話すのだった。


「面目ないけど、益美には結婚の話をしとったんや。ところが、大恩のある上官の娘との縁談話が持ち上がって、とうとう断り切れずに見合いみたいなことをしたのや」


 浅井の意外な側面を見た武田は何やら嬉しそうだ。


「ああ、その娘さんが今の奥さんの多恵さんか」


「そういう訳や」


「その、見合いみたいなことをしたのは7年くらい前やったな」


「それで、浅井は、どのようにして益美さんと知り合ったのや?」


 俺の問いには益美が答えた。


「私、渋谷でキャバクラ嬢をしとってん。こいつは店の客やってん、そのときは山川と名乗っとったわ」


「ふーん、山川ねえ、だから『山ちゃん』か。しかも、結婚話が出るまでの仲だったとはね。浅井、お前は悪質やな!」


「確かに悪質やな。それでも、益美さん、とりあえず、1時間ほど許したれや、あの話もあることやしな」


 そして、とにかく、益美は落ち着きを取り戻したようだ。


「もう、ええわ、昔の事やし、髪の毛を50本ほど抜いたったら気が済んだわ」


 益美が落ち着いたのを確認した俺は話を切り出すことにした。


「ふう、のっけから荒れてしもうたな。 それはともかく、おい、浅井、実は、折り入って話があるのや」


 気まずい雰囲気の中ではあったが、俺と武田は、その話をかいつまんで説明した。もちろん、言論弾圧フィルタとして使用されるサーバを無力化することや、その気になれば防衛省のサーバをハッキングできることも単刀直入に話した。


 話が単刀直入過ぎるとも思ったが、浅井に負い目があるところを見て話しやすいと思い、そのようなことになった。


 もちろん、浅井は怪訝そうな表情で俺たちに聞いてきた。


「で、俺にどうしろと?」


 すると、浅井に立腹する益美が俺たち以上に単刀直入に用件を告げてしまった。


「とっとと察しろよ、この禿げタコ、今の話を聞いたらわかるやろ、要するに、おい、浅井、国民のためにクーデターをしろ!」


「えっ! 益美ちゃん、もろに言うてしまいよった」


 しかし、浅井は意外な返事をした。


「わかった」


 浅井があっさりと受けてしまったので、俺と武田は驚いた。


「ええっ! まさかの即決!」


 しかし、話が早過ぎるので俺は浅井に念を押した。


「おい、浅井、今な、益美さんは『クーデターをしろ』って言ったんやで! ちゃんと聞いとったか?」


「だから、クーデターやろ、ちゃんと聞いたよ。実はな、長谷川、我が隊でも計画しとったんや。ただ、蜂起のタイミングを見計らえずにいたんや。昨日、長谷川に『明後日からいろいろと忙しくなる』と言ったやろ。あれはな、クーデターの準備のことや。俺の配下の小隊長たちは、全員、賛同してくれているのや」


 当然、武田は浅井が蜂起を思い立った理由を聞いた。


「それで、なんで蜂起する気になったのや?」


 浅井は率直に答えた。


「それが当然やろ。俺たちは自衛隊として入隊したのやで。なにも、アメリカの都合で外国に人を殺しに行くためではないわ。今、自衛軍の中では、誰も口にこそ出さへんけど、そんな雰囲気が満ち満ちているのや。だから、俺の隊がやらなくても、いずれどこかの部隊が決起するはずや」


 もちろん、俺には浅井の答えが意外だった。


「そうか、自衛軍の内部はそんな雰囲気やったんか、意外やわ」


 浅井は自衛軍内部の様子を更に話してくれた。


「ああ、自衛軍から見ても木下総理はやり過ぎや。例えば、近い仲間同士の集まりとかで深酒すると、酔って『木下総理の奴、俺が首をとってやる』みたいなことを言う奴が結構おるねん」


 浅井の話を聞いて武田は少し納得した。


「そうか、俺たちが計画しなくても、全体として、そういう流れなんやな」


「ああ、そういうことや。それに、お前らの話を聞いて、成功させる自信が出てきたわ。だから、お前らの計画をもっと詳しく聞かせてくれや」


 浅井の決心を確かめたところで、俺たち4人は、更に突っ込んだ話を始めた。


 それにしても、益美の奴、俺のブレーキ役になるはずだったのに、当の益美は結果として正にアクセルそのものだった。もちろん、それは益美が浅井に激怒した挙句のことなのだが、そのおかげで、とっとと先へと進めそうだ。


=続く=


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