告白ゲーム→恋愛バトル??
今日も今日とて、うだるように暑い。もう放課後だというのに、肌は今もじんわりと汗ばんでいる。
教室の窓もドアもすべて全開にしてあるのに、暑くて暑くて仕方がない。手のひらで仰いでみても全然涼しくならない。
あ、そうか。
回らない頭ではたと気づいた。
気になる男子と二人きりだから、だから暑いんだ。
そう気づいたら、さっきから喉元にひっかかっていた言葉がするりと出てきた。
「野田くんは夏休みはどうするの?」
うわー、訊いちゃった。訊いちゃった。
余計にほてってきたから、開襟シャツのお腹の部分を掴んでばたばたとしてごまかす。少しでも空気を取り込みたくて。少しでも動揺を隠したくて。
前の席に座る野田くんは、全然私のことを気にしていない。今も横を向いて、窓の向こうを眺め出したことが気配から伝わってくる。
標高の高い山々が連なる様は、視界に入れるだけで不思議と冷感を与えてくれる。ほら、冷蔵庫の中を見ているような感じがするからなんじゃないかな。だからクラスのみんなも夏になるとよく山の方を眺め出す。野田くんもそうなんだろう。うん、そうだね。確かに今日はすごく暑いもんね。
でもでも。
今だけはそっちを見ないで。
私の方を見てよ。
ちゃんとこっちを見て。
質問に答えて。
……なーんて、本人に直接言えたら苦労はしない。
そんなキャラではないし勇気もない。
じゃあなんで私みたいなおとなしい系の女子が野田くんみたいなイケてる男子と放課後を一緒に過ごしているかというと、広報委員同士だから、ただそれだけなのだ。
今日も一学期最後の学級新聞を作るための打ち合わせをしていただけ、それだけなのだ。
野田くんはそっぽを向きながらもようやく答えてくれた。
「……いつもどおり」
「いつもどおり?」
「うん。写真を撮りに行くだけ」
うん、そう言うだろうとは思ってた。
野田くんは根っからのカメラ好きなのだ。ううん、そんな軽い言葉では言い表せていない。たぶん野田くんは本気でカメラに入れ込んでいる。
休み時間とか、一人で黙々と読んでいるのはカメラの雑誌や本だし、行事のたびに委員の活動で撮影してくれる写真がこれまたすごいのだ。写る同級生の姿はどれも生き生きとしているし、光の具合や構成も素人の撮るレベルではない。それに、打ち合わせついでにって、スマホに入れてある写真をこれまでたくさん見せてもらっているけど、風景も人物も、野田くんの撮った写真はどれもびっくりするくらい繊細で、かつ美しいのだ。
実はその写真を初めて見せてもらった瞬間に――とくんと胸が高鳴った。
こんな素敵な写真を撮る人がクラスメイトなんだ。触れることのできる距離にいるんだ。そう思ったら、途端に意識するようになってしまった。
それからは野田くんについての情報収集に余念がない。もちろん、地味にひっそりと、だし、この想いを伝えようなんてさらさら考えてもいないけど。
だから野田くんのことが特別気になっているのは事実なんだけど、どちらかというとアイドルに恋するファンみたいな心境に近いのかもしれない。うーん、自分のことなのに自分でよく分からない。恋って不思議だな、とこういう時に思う。こんな気持ち初めてだからよく分からないってのもあるんだけど。
また沈黙が続いてしまい、意を決して「どこに撮りにいくの?」と続けて訊ねた。
うん、そう。
本当はこれを訊きたかったんだ。
ねえ、夏休みはどこに行くの?
どんなところで過ごすの?
それを知ってもどうすることもできないけど、でも訊きたいと思うのは変……かな。偶然を装って会うことは不可能じゃないし、そんな勇気がなくても、偶然会ってそこから……みたいな妄想をして夏休み中楽しむことくらいはできるじゃない。うん、そのくらいは誰でもするよね、きっと。……そう信じたい。
だけど、
「山」
野田くんの答えはあまりにもシンプル過ぎて、
「山? 富士山とか?」
がっつくように訊ね直してしまった。
「なんだよそれ」
吹き出され、「んもう」と怒ってみせようとしたが、ようやく野田くんが私の方を見てくれたから――それだけで嬉しくなった。
心底楽しそうに、目を細め、笑みを浮かべる野田くんに、私はぽーっとなってしまった。
ああやっぱり。
私、野田くんのことが好きなんだと思う。
優しくて物知りで。
でもちょっとクールなところも素敵なの。
うん、やっぱりこれは恋だと思うの。
お願い、もっと教えて。
「じゃあどこの山に登るの?」
「さあ?」
野田くんは笑みを浮かべたまま、ちょっと意地悪そうな視線になった。
でもやっぱり優しい表情のままで、だから目が合うやどきっとした。
開け放たれた窓の向こう、グラウンドからは色んな音が聴こえてくる。野球部やサッカー部の掛け声、陸上部のホイッスルの鳴る音。向こうの校舎から届く吹奏楽部の音色。他にもいろいろ。この高校に通う学生達によって生み出されている音の集合は、雑多だけど不思議と心地よい。それは単なる慣れによるものなのだろうか。
続く沈黙は――今度はなぜか心地よい。
野田くんと見つめ合う時間は――こそばゆいけれど嬉しくなる。
でもやっぱり――こそばゆい。
「……今日ね、告白ゲームされちゃったんだ」
話すつもりはなかったのに、つい言っていた。
「告白ゲーム?」
「うん。ゲームで誰かに告白するっていういたずら、知ってる?」
「知ってる。でも、されたってことは、立花さんが告白されたってこと?」
「そう、冗談の告白されたの。小学生みたいだよね。でもゲームだって分かるまでちょっとびっくりしちゃった。私みたいな地味な子に本気で告白してくる人なんているわけないのにね」
えへへ、と笑ってみせると、野田くんは逆に笑みを消してしまった。
「誰だよ。そんな馬鹿みたいなことした奴」
「え? えっと……」
なんだか告げ口をしているみたいで言いにくい。
でも私が言うまで野田くんは待っていそうで、この重たい空気を払拭したくて、
「……広田くん」
とうとう口を割ってしまった。
「広田って、あの五組の?」
「う、うん」
他には同級生で広田という姓の男子はいないはずだ。
それに広田くんは頭がよくてテニス部ではキャプテンをしていて、いわゆる目立つ系の男子だから、野田くんが知らないわけがない。
私にとっては世界一かっこいい男子は野田くんなんだけど、広田くんもまた、世間一般誰もが認めるかっこいい男子なのだ。
「立花さんって、広田と知り合いだっけ」
「ううん? 喋ったのも今日が初めて」
「テニス部にも知り合いはいないんでしょ?」
「う、うん。そうだね」
確かにテニス部はリア充系が多いから私とは無縁な人達ばかりだ。
でもよくそんなことまで推測で当てられるな、と半ば感心していると、野田くんはもうそれ以上は何も訊ねてこなかった。だがそのまま黙りこんでしまった。
ああ、言わなければよかった。
今度の沈黙はまたあまりいい感じのものではなくなってしまったからだ。
せっかくいい感じだったのに、そう後悔しても後の祭りだ。
「変な話題だしてごめんね。そろそろ帰ろっか」
学級新聞の制作だが、ここまでの打ち合わせで今日のところはもう十分だったりする。レイアウトも記事の構想もだいたい決まったから、あとは家に帰って各自担当分をパソコンに打ち込んで形にしていけば大丈夫そうだ。予定通り、終業式の日には印刷したものをクラスメイトに配布できるだろう。
「窓、閉めちゃうね」
立ち上がり隅の方から順に閉めていく間も、野田くんは何やら考え込んでいる。腕を組み、斜め下をにらむように見ながら。
でも半分の窓を閉めた頃には合点がいった。
そうか。
野田くん、根が真面目だし。
だからそういう軽いことをする人をゆるせないんだ、きっと。
「おーい、立花さーん!」
突然大きな声で名を呼ばれ、窓の下をのぞくと、グラウンド脇の水道の並ぶあたりにラケット片手に広田くんが大きく手を振ってきた。
白の半そで、白のハーフパンツ、白のテニスシューズ、白のキャップ。何もかもを白に統一している広田くんは、靴下も白で、笑うと見える歯も真っ白だ。
「なにしてるのー?」
見上げてくるその笑顔もザ・爽やか。
「学級新聞作ってたのー」
普通に返事してはみたものの、内心は不思議で仕方がなかった。
なんで今日あんないたずらしてきたくせに忘れたように話しかけてくるかな。
広田くんと同じような恰好をしたテニス部の男子達が、後ろから、横から、広田くんを肘で押したりラケットでつつきだした。わいわいとなんだか楽しそうだ。
でもあの楽しさって、きっと告白ゲームの続きをしているつもりだからなんだろうな。
ふっと、やるせない悲しみを感じた。
広田くんは悪い人じゃないんだけど。
きっと周りにやれって言われて仕方なかったんだろうけど。
私みたいなおとなしい女子に告白なんてさせられて、広田くんも正直迷惑だったろうけど。
でも――。
「告白って……好きな人にだけしてほしいよね」
呟きはもっとも聞かれたくない人に聞かれてしまった。
「立花さん?」
「あ、あれ? 私、変なこと言っちゃったね。ごめんね。ごめ……」
笑って誤魔化そうとして。
「……立花さん」
「あれ? どうしてだろ?」
涙がこぼれてしまった。
馬鹿だ、私。
何をゲームの告白ごときで一人前に傷ついてるんだろう。
今日、昼休みにいつものように図書室で本を読んでいたら、「立花さん」と、広田くんにいきなり声をかけられた。顔を上げると、「ずっと好きだったんだ。俺とつきあってくれませんか」といきなり告げられた。静かな室内にどよめきが広がり、視線を動かせば、その場にいる全員が私達に注目していた。
『あ、あのっ』
突然のことにパニックになり、しどろもどろしていたら。
『ごめん。みんなに今すぐ告白してこいって言われて、こんなところで勢いでしちゃったけど……』
そう打ち明けてくれて。
『迷惑だよね……。本当にごめん』
こっちが申し訳なくなるほどに謝られ――。
『大丈夫だよ。広田くんは悪くないから気にしないでね』
『……ホントごめん。あの、俺のこと嫌いになる……?』
『こんなことで嫌いになんかならないよ』
そんなふうにことを収めたあの時の自分は、やっぱり嘘をついてたんだと思う。
たかがゲームなんだから。
だから傷つく必要なんてないし、傷ついちゃだめなんだから。
あわてて涙を拭っていると、目の前に大きな影を感じた。
「……え?」
いつの間に立ち上がっていたんだろう、野田くんが私の手をぐっと引いた。
引いて、私がいた窓際に代わりに自分が立った。
「……野田くん?」
「ダメだよ。気のない男に期待なんかさせちゃ」
「ど、どういうこと?」
本当に分からないのに、射貫くような瞳の前ではそれ以上は言えなくて。
野田くんの瞳の中、深い色をした虹彩がごく小さく動いている。まるで私を問いただすような――そんなふうに思える挙動だ。
「理由は分からなくてもいいよ。俺もあいつの手助けをするつもりはないし。でもさ、今日嫌な思いさせられた奴と普通に会話したらダメだよ。笑顔向けるのもダメでしょ」
「手助け?」
「ああもう。そういう余分なところばっかり聞こえなくていいから。とにかく分かった?」
珍しく雄弁に語る野田くんは、きっとどんくさい私を見かねてアドバイスしてくれているんだろうなって思うんだけど、
「それと涙見せるのもダメ。泣きたくなったら他のところに行くなりして泣き顔見せないようにしないと」
この忠告には正直ぐさっときた。
「ご、ごめん」
この場を逃げ出そうとしたところで、またさっきと同じ手首をつかまれた。
「どうして逃げようとするの?」
すごく心外そうに眉をひそめられた。
「だ、だって」
「だって?」
問いただすような言い方も冷たくて。
「だって野田くんがそう言ったんじゃないっ」
自分で言ってて悲しくなってきた。
「な、涙見せたらダメなんでしょ?」
まだ捕まっているせいで逃げられない。でも野田くんにこれ以上汚い泣き顔を見られたくない。だからうつむくと、頭上でくすりと笑う声が聞こえた。
「それは気のない男限定。気のある男にはしていいんだよ」
頬に野田くんの手が触れ、びくりと震えてしまったのは仕方ないはず。
手首はまだいい。
でも頬に触るなんてただのクラスメイトにはしないことじゃないの?
それに距離が近すぎる。
衝撃が強すぎて、野田くんが言ったことが右の耳から左の耳へと、すぽーんと抜けていった。
「……野田くんって、こういうことすぐする人だったの?」
「え。それはどういう意味かな」
「だ、だからっ。こうして誰でもすぐ触っちゃう人だったの?」
勇気を出してぐっと見上げると、野田くんはぽかんとした顔になっていた。
「こういうこと慣れてないからやめてほしい」
「……なんでそういうふうになるかな。俺は気のある女子にしかこういうことはしないよ」
「そ、それって」
思わず凝視すると、ずっと鋭い目つきだった野田くんの表情が少し崩れた。
「……ちゃんと言わないと分からないなんて、ほんと鈍感」
ぼそっと、口の中でつぶやいた言葉がよく聞こえなくて。
「ごめん、もう一回言ってくれる?」
「あー、もう。だから」
野田くんが言いかけた、その時。
「立花さーん!」
グラウンドの方から大きな声が届いた。
「立花さーん! 広田がさみしがってるよー」
「立花さーん! 出てきてよー」
ざわつくテニス男子達の放つ空気は、見なくても分かるくらいキラキラでノリノリだ。漫画や小説でしか知らない、リア充だけが醸し出せる華やかさだ。
うん、やっぱり広田くん自身は悪い人じゃないんだと思う。今も何度も「やめろって」と周りを押さえようとしてくれている。ちゃんとここまで聞こえている。でも悪乗りする周囲にはうまく伝わっていないようだ。
きっと優しい人なんだろうな。友達思いだって聞いたことがあるような、ないような。だから彼女を作らないんだって話も聞いたことがあるような……ないような。
あれ?
でもこの話、どこで聞いたんだっけ?
考え込みだしたところで、
「ちっ」
切れ味鋭い音が二人きりの教室に響いた。
え?
今、野田くん、舌打ちした?
そんなキャラじゃないはずなのに、と回らない頭でこれまた考えている隙に、野田くんが窓の淵に手をかけ下を覗き込み、叫んだ。
「お前ら黙ってろ! それに広田! お前抜け駆けするなんて反則だろうが!」
叫び、勢いよく窓を閉め、鍵までかけてしまった。
こんなふうに乱暴なことを言う人でも、する人でもないと思っていたから、突然のことにびっくりしすぎて何もできずにいると、残り全ての窓を閉めた頃には、野田くんは落ち着きを取り戻していた。
「ごめん。驚かせちゃった? あいつらうるさすぎるからさ」
「ううん、いいの。私がうまくあの人達のゲームをかわせないのがよくないんだし。私のせいで野田くんを怒らせちゃって……、その、ごめんね」
謝りつつ、
「私、帰る前にテニス部のコートに寄ってちゃんと言ってくるから。もうそういうのやめてって、ちゃんと言うから」
言い募ったところで、また野田くんの眉間にしわが寄ってしまった。
あれ?
どうして?
「ご、ごめん。帰る前なんかじゃ遅いよね。今すぐ行く!」
机の横にかけておいたスクールバッグに手をかけると、これで三度目、野田くんにまた手首をつかまれた。
「行かないでよ」
「で、でも。すぐ行けばテニス部の人達が練習再開する前に話できるし」
「……もう。なんでわかんないかなあ」
むすっとした顔で軽く頭をかき、野田くんが深いため息をついた。
「あー、もう。じゃあはっきり言うけど」
「う、うん」
「俺、立花さんのことが好きなの」
「へ?」
「でもって立花さんも俺のことが好きなんでしょ?」
「……ななな! なんで分かるのっ? あっ」
あわてて口をおさえても遅い。
ふ、と野田くんが笑った。
「分かるよ。だって俺、立花さんのことが好きだから。好きだから分かる。でも立花さんは違うみたいだけどね」
「ごごご、ごめんなさい!」
「ううん、意地悪言って俺の方こそごめん。でもほんとはこんなふうに急いで言うつもりはなかったんだ。それを広田の奴が……」
「広田くん? でも広田くん、野田くんにはゲーム仕掛けたりしていないでしょ?」
本心から不思議がると、野田くんはますます深いため息をついた。
「うーん、思った以上に鈍感だなあ。……まあ、そういうところもかわいいんだけどさ」
そう言ったところで、野田くんが今日一番の険しい顔になった。
それと同時に廊下を駆けてくる足音が聞こえ――その人が開けっ放しの教室のドアの前に現れた。広田くんだ。
全身真っ白のテニス男子らしいコーディネート、なのに顔が真っ赤に染まっている。
「野田あっ!」
叫んだ声は息も切れ切れだ。きっとここまで全速力で駆けあがってきたのだろう。
「なんだよ」
しらっと応える野田くんに、広田くんがつかつかと距離を詰めていく。
「お前まさか……!」
「ああ、告白したよ」
しらっと言った野田くんのシャツの襟を、広田くんが両手で乱暴に掴み上げた。
「この野郎っ! 抜け駆けしないって約束していただろうが!」
「最初に約束を反故にしたのはお前の方だろ?」
「なっ……! なんでそれを」
「さっき聞いた。でもって立花さんも俺のことが好きなんだってさ。ね、立花さん?」
突然話を振られ、私はあたふたと答えた。
「私そんなこと言ってないよ!」
正直に答えただけなのに。
言ってはいないって、そう答えただけなのに。
野田くんが奇怪なものを見たように目を見開き、逆に広田くんは心底安心したようにふうっと長く息を吐いた。
「ああ、よかった……」
広田くんは野田くんから私の方に向き直った。
「立花さん。あの、昼休みのことなんだけど」
その一言でびくりとしてしまった私に、広田くんが神妙かつ急かされるように言葉を継いでいった。
「あれ、みんなに言われたから勢いで、なんて言ったけど、ちゃんと本気だから」
「……どういうこと?」
ゲームはゲームでも本気のゲームってことだろうか。
真意を掴めず目を白黒させる私の手が、突然強く引かれた。
野田くんだ。
「広田の話なんか聞かなくていい。さ、帰ろう」
問答無用で引きずられていきそうになったところで。
「待って」
逆の手を広田くんにつかまれた。
「野田、話は終わっていない」
「うるさい。お前の話を聞きたいなんて立花さんは言ってない」
確かにそうだな、と一人合点していると、
「だがお前と一緒に行きたいとも言ってないだろう」
ああ、確かに言葉にはしていないかも。
うんうんうなずいていると、二人同時に握られている部分に力を込められてしまった。
「立花さん。僕の話を聞いてくれるよね?」
「話なんて聞かなくていいよ。さ、一緒に帰ろう」
二人に詰め寄られれば相当な圧迫感で、いよいよもってパニックになってしまった。
どっちに何を言えばいいの?
なんで急に言い争いだしたの?
なんで私、二人に手を引っ張られてるの?
昨日まではクラスの隅でひっそりと息をしているだけのようだった私が、どうして――?
「俺が先に立花さんに告白したんだ!」
「あれはゲームだったんだろう? 俺が先だ」
「はあ? ゲームってなんのことだ?」
なんで二人の男子が私を取り合うわけ?
「立花さんは俺のことが好きなんだよ」
「それはお前の思い込みだろう!」
「いいや、違う。さっき立花さんもそう言っていた」
「嘘をつくな。そんなこと言っていないと本人が否定していただろう!」
「あーもう、面倒くさいな。お前が認めようがどうしようが、立花さんは俺のものなんだよ」
「いいや、お前のものなんかじゃない。ね、立花さん?」
「う、うん、そうだね」
ようやく簡単な質問をもらえてうなずいたら、野田くんが「あーっ」と叫んで頭をかかえた。
「野田くん、大丈夫?」
「野田はおかしいんだ。だからこっちにおいで」
「こら待て。俺はおかしくなんかないっ。……お願い、立花さん。その鈍感なところ、かわいいけどさ、そろそろ勘弁して……」
虚脱し肩を落とす野田くんにもう一度「大丈夫?」と声をかけると、今度は力なく首を振られてしまった。
「あ、あの」
なんとかこの場の空気をよくしたい。それに頭の中は疑問符でいっぱいだ。
「あのね。分からないことがいっぱいあるんだけど訊いていい?」
ようやく二人の男子がうなずいてくれたから、私はまず思いついたことを口にした。
「……二人は友達なの?」
さっきから聞いていると、二人はとても仲がよさそうだ。けんかするほど仲がいい、そんな例えがするりと浮かぶくらいに。ぽんぽんと言い合う様子も遠慮のない物言いも。
「それならそうとさっき教えてくれたらよかったのに」
少しすねながらも野田くんを見たら、
「質問ってそっちかよ……」
また野田くんに深いため息をつかれてしまった。
「うーん、鈍感な子ってどうやったらちゃんとおとせるんだろう。優しくするだけじゃ伝わらないのかな」
広田くんまでもが腕を組み難しい顔になってしまった。
「……あのお?」
「ちょっと待ってて」
異口同音、そろって言い返されたから、
「やっぱり二人は仲良しなんだね。いいなあ、二人みたいなお友達がいたら毎日お祭りみたいで楽しいんだろうね」
うらやましがってみせたら、今度はそろって悲しそうな顔をされてしまった。
こちらは2018年夏企画「告白フェスタ」参加作品であり、作者の三作目です。
企画名どおり、明るくて軽い告白ものを~、と思いつつ書いたらこのような内容になりました。
少女漫画系によくある、おとなしめで天然系の女子をイケメン二人が好きになる、というストーリーです。
最後の方、ハッピーエンドかどうかが曖昧になってしまいましたが、こういうテンプレの物語では、明るい男子(=広田くん)と付き合ったとしても、最後は真面目系の男子(=野田くん)とくっつくのが相場なので、書かなくても分かるということでお許しくださいm(_ _)m
7/30からはWeb拍手の方に数か月前のお話SSを載せています(期間限定)。