26 フォレストドレイク
マチェテと私は再び、森龍フォレストドレイクと向き合う。そんな私達に向けて、森龍はその捻れた角で、強靭な前脚で、攻撃を仕掛けてくる。
だが、森龍のその全ての攻撃を、私が食い止める。
その隙に、中級高位の雷魔法『電撃帯電』による迅雷を纏ったマチェテが、二本の剣鉈で森龍の分厚い鱗を斬り裂き、その身を焼いていく。
「グゥルオォォーッ!!」
森龍が苦痛に喘ぎ、隙を見せながら後ろに下がる。
けれども私は、先の失敗を教訓に、無理に攻撃に加わる事はせず、森龍の攻撃をこの身で受け止める事に専念する。
私達のタッグは、マチェテが剣で、私がマチェテを護る盾なのだ。
「いい調子ね、マチェテ!」
「ええ! でも油断はしないで、ねこちゃん!」
「うん! 了解!」
私はマチェテに応えて、再び森龍と向き合う。
森龍は怒りに目を赤く血走らせて、私を睨んだ。
そのとき、森龍がこれまでとは、異なる行動に出た。
先端に棘の鉄球を着けたかの様な、その重厚な龍の尾を、天に高く、真っ直ぐに振り上げたのだ。
私はその龍の尾を警戒して、身構える。
マチェテも一旦攻撃の手を止め、私の背後に構える。
直後、森龍は天高く振り上げた重厚なその龍の尾を、勢い良く真っ直ぐに振り下ろし、大地に向けて叩きつけた。
龍の尾の衝撃を受けた大地が、ひび割れ、陥没し、大地震宛らの揺れを起こす。
地響きが、私の身体を激しく揺らす。
私はその揺れに脚をとられ、その場に身を縫い付けられた。
そんな私を余所目に、森龍は再びその尾を、天高く振り上げる。
揺れが収まり、身体の自由を取り戻した私が森龍に目を向けると、森龍は天高く持ち上げたその尾を、今度は私達に向けて地面を擦るように、弧を描きながら振り抜いていた。
「……クッ!」
もうこのタイミングでは、尾を躱す事は出来ない。
私は覚悟を決め、前に足を踏み出し、襲い来る龍の尾と身体全体でぶつかり合った。
「ぐぅっ!……うおおぉぉッ!」
私は強靭な龍の尾と、激しく衝突する。
大地を踏みしめ、龍の尾を全力で止めようとする。
しかし、強烈なその尾の一撃を防ぎ切る事は叶わず、龍の尾は私を吹き飛ばし、振り抜かれた。
「ぁうッ!」
マチェテが、吹き飛ばされた私を助けようとする。
「ッ?! ねこちゃん!……あうぅッ!」
だがそんなマチェテ諸共、龍の重い尾が振り抜かれる。
私達は、地面を球のように転がりながら吹き飛んだ。
「……ぅ、ぅう」
私はふらつく頭を抑え、脚を踏ん張り何とか立ち上がる。
隣をみると、マチェテも膝に手をつきながら、立ち上がってきた。
「ゴルゥオオォォーーッ!」
満身創痍の私達の元へ、森龍が駆け寄り、再びその龍の尾を振り上げた。
まずい。
何とかして躱さないと!
「ッ、ねこちゃん、あの尾は防げない! 森龍の頭の方が安全圏よ! 退避して躱しましょう!」
そう言ってマチェテは、森龍の頭を目掛けて駆けていく。
私もマチェテに続き、退避をしようと、森龍の顔の方に目を向ける。
そして、私は見てしまった。
森龍が、大きく息を吸い込んでいる。
その口元に大気が収縮し、凝縮されながら集まっていくのを!
「マチェテ! そっちはダメーーッ!!」
私は、森龍の頭に向けて駆けていくマチェテを追いかける。
マチェテには、森龍の口元に、破壊の魔力が凝縮されていくのが見えていない。
遂に森龍の尾は、振り下ろされる事は無く、代わりにその口が凶悪な牙を覗かせて開かれた。
ーー大咆哮。
マチェテに向けて、大音響を伴う破壊の暴風が解き放たれる。
私は意識を集中する。
加速だ。
加速してマチェテを救うんだッ!
私は走る。
マチェテに向けて一直線に走る。
私の胸が熱くなる。
聖なる白銀の力が私の身体に満ちる。
時の流れが停滞し、風景が飛ぶように流れていく!
「マチェテ!」
「ッ、ねこちゃん?!」
私はマチェテに追いつき、その身体を抱き締めた。
私は自分の身体を盾にして、荒れ狂う暴風からマチェテを庇う。
マチェテが、驚きの声を上げる。
それと同時に、私達は森龍の咆哮に吹き飛ばされた。
………………
…………
……ッ
私は、薄く目を開ける。
私は今、地面に倒れているのだろうか?
……身体が動かない。
そうか、私は森龍の咆哮に、吹き飛ばされて……
ッ?!
マチェテは?
マチェテは無事?!
私は薄ぼんやりとした視界に、マチェテの姿を見つける。
マチェテも私同様、地に倒れ伏している。
だが蠢き、立ち上がろうとしているのが、分かる。
( ……よかった。マチェテは無事だ )
私が安堵の息を吐いたそのとき、マチェテの右脚に森龍が噛み付き、マチェテの身体を軽々と持ち上げた。
( …………え? )
森龍は、天高く持ち上げたマチェテを、激しく地面に叩きつける。
持ち上げては叩きつけ、持ち上げては叩きつけ、何度も何度もその動作を繰り返す。
( …………やめ、て、… )
マチェテの右脚が、ブチブチと音を立てて千切れる。
最早その脚は、皮一枚で繋がるのみと言う有り様だ。
森龍がその口を開き、マチェテを投げ棄てる。
ぼとりと地に落ちたマチェテは、一度ピクリと震える。
そして、「コヒュ」と肺の中の空気を小さく吐き出した後、動かなくなった。
「……マ、……マチェ、」
のどがひり付く。
うまく声が出ない。
「……マチェテェーーーーッ!!!」
そして、私の中で、何かが弾けた。