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24 フォレストドレイク

 マチェテを探して森に入った私は、大気を震わせる咆哮を聞きつけ、その方向へと向かって駆けだした。

 私は咆哮の上がったその場所が近付くにつれ、大気がピリピリとした緊張感を増していくのを肌で感じる。



 いたッ!

 マチェテだ!


 マチェテが巨大な魔物と戦っている姿が、私の目に飛び込んでくる。

 だが、どうにもマチェテの様子がおかしい。

 動きに何時ものような流麗さはみられず、精彩を欠いている。どうやら酷く疲労しているようだ。

 そんなマチェテに向けて、魔物が重厚感溢れるその尾を叩き付けようとしている。


 それを見た私は、矢のように飛び出し、マチェテと魔物の間に割って入った。


 「ッ、ねこちゃん?!」


 そう言って目を開くマチェテを背に庇い、私は圧倒的な重量感を伴い、唸りを上げて頭上から襲い来る魔物の尾を、両腕を交差させて受け止める。


 「……ッ、グゥ! おおおおっ!」


 魔物の尾が、激しく私に叩きつけられる。

 魔物の尾を、渾身の力で受け止めた私の全身が、ギシギシと軋みをあげる。

 

 「クッ! なん、て、重さなのッ?!」


 私の足は地面に食い込み、その圧力に思わず膝を屈しそうになる。しかし私は、力を込めて魔物の尾を跳ね除け、マチェテを連れて一旦、魔物から距離をとった。



 「ッねこちゃん、大丈夫?! 戻ってきたの?!」


 マチェテが心配気に声を掛けてくる。

 私はそんなマチェテに、この黄金色に染まった瞳を向けて応える。


 「私は大丈夫よ。それより、マチェテの方こそ大丈夫なの? フラフラじゃない」

 「……な、なんのこれしき! 私は、まだまだ戦えるわ! あの龍を止めてやるんだから!」


 マチェテは、空元気を振り絞りながら応える。

 私は魔物に目をやりながら、マチェテに問いかけた。


 「あの魔物は?」

 「……あの魔物は、森龍(シンリュウ)フォレストドレイク。大森林に数多いる魔物の中でも、最強の一角に謳われる龍の魔物よ」


 マチェテが面持ちを険しくして、そう応える。


 そんなに恐ろしい魔物なのか……

 確かにいま、こうして対峙をしているだけでも、私は身が竦む様な重圧を、龍の魔物から感じている。



 私は、龍の魔物を観察する。

 龍の魔物の大きな身体は、強靭で、威厳すら感じさせる。

 その身体は、鈍く光る分厚い深緑の鱗と、はち切れんばかりの筋肉に覆われ、泰然と構えるその姿はまるで小山のようだ。


 森龍は四足歩行で、全ての足を地に付けている。その脚は、後脚に比べ前脚が短く、地に頭を伏せるような体勢だ。


 森龍の頭部に目を見遣ると、そこには羊のものに似た、捻れた巨大な角が備わっており、背にはステゴサウルスの様な棘が無数に生え、棘の一部は苔に覆われていた。


 また森龍のその尾は、しなやかながら、太く圧倒的な質量を有している。尾の先端は太い棘を生やし、まるで棘を備えた鉄球の様だ。口元から覗く龍の牙も強大で鋭く、あんな牙で噛み付かれでもしよう物なら、どの様な者でもひとたまりも無いだろう。



 「あの魔物は、何か弱点なんかは無いの?」


 私はマチェテに問いかける。


 「……ないわ。というより、分からないわね。森龍は、普段森の奥深くにいて、そうそう人前に姿を現わすことはないの。……それにもし姿を現しても、人を襲ってくるなんて事はない筈なのよ。だから、詳しいことは分からないわ」


 そうか。

 だが現に目の前の龍の魔物は、その双眸を猛らせ、荒ぶる息を吐き、私達を襲わんと睨み付けている。


 「……魔物暴走(スタンピート)の影響かな?」

 「そうかも知れないわね。……でも魔物暴走は住処を追われた魔物達が、一斉に恐慌を来たして起こる連鎖災害よ。だけど、森龍の住処を追える存在なんて、森の奥にだってそうはいないと思うんだけれど……」


 そう考えると、確かに不思議だ。

 森龍に何かあったんだろうか。

 でも今は原因より、目の前の猛り狂った龍を何とかする事が先決だ。



 「グオオオオォォーーーー!!」



 私という闖入者を警戒し、間を置いていた森龍が雄叫びを上げる。

 龍の双眸を光らせて、私達を睨め付ける。


 「どっちにしろ、戦うしか無さそうね。マチェテは下がっていて。あいつの相手は、私がするわ!」

 「いいえ、ねこちゃん! 私もまだやれるわ!」

 「……でも、もうフラフラじゃない。危ないわよ」

 「大丈夫。引き際は、弁えているつもりよ。私はまだ戦えるわ!」


 マチェテはやる気だ。

 私はマチェテに「分かった、無理はしないで」と言って頷いた。


 様子見を終わらせた森龍が、私達に向けて荒い息を吐き、襲い掛かってくる。


 私は森龍に対し、半身になり両の手の鉤爪を構える。

 マチェテも剣鉈を両腕に構えながら、私に向けて声を掛けた。


 「来るわよ! ねこちゃん、気を付けて!」

 「ええ、分かった! マチェテも!」


 そう声を掛けあい、私達は襲い来る森龍を迎え撃ちに飛び出した。

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