23 魔物暴走
ここから先、未改稿になります。
ここまでより更に読みづらく拙い文章になるとは思いますが、エタるよりはマシかと思い掲載します。
ご容赦ください。
一部の設定に齟齬が見られたりするかもしれませんが大筋は変わらないです。
「はあっ、……はあっ、はあ……」
――大森林で魔物暴走が発生した。
そんな話を冒険者の集団から聞かされたわたしは、森のなかを猫族の集落に向かって直走る。
息を切らせながら一直線に駆けるわたしに、次から次へと魔物が襲い掛かってきた。
「ッ、このっ! どきなさいっ!」
進路を阻む魔物を殴り飛ばし、速度を落とさず駆け抜ける。
「……はぁッ、なんて数の、魔物なのッ?!」
息を弾ませながら呟く。
何匹、何頭もの魔物を屠り去った両手の鉤爪は、返り血で真っ赤だ。
わたしは一度腕を振って、鉤爪についた血を払い飛ばした。
そうこうする間にも、また新たな魔物が襲い掛かってくる。
こんど突撃してきた相手は、猪の魔物、ワイルドボアである。
ワイルドボア。
常ならば、わたしがこの黄金の瞳でひと睨みしただけで、尻尾を巻いて逃げ出していく程度の、いわゆる雑魚。
けれども何をトチ狂ったのか、その雑魚の魔物が血走った眼をわたしに向けて、無謀な突撃を仕掛けてくる。
いま森の魔物たちは、その精神に恐慌をきたしている。
大勢の魔物の暴走に煽り煽られ、正常な判断がつかなくなっているのだ。
(ちッ、やっかいだわ……)
襲い来る猪の魔物を払い除けながら思う。
これが『魔物暴走か』……と。
少し先のほうにに、猫族の集落が見えてきた。
走る速度を上げて集落へと駆け込み、辺りを見回す。
「――ッ!? 酷い……」
集落は酷い有り様だった。
あんなにも美しく、立体的に築きあげられた樹上の建造物たちは、もう見る影もない。
建屋は壊され樹と樹を繋ぐ橋は落とされ、無残にその残骸を地に晒している。
(こんな……)
少し前までそこにあった沢山の笑顔を想いだす。
胸が締め上げられる想いだ。
(わたしがこの場にいれば――)
けれどもいまは、そんな悔恨に似た念に想いを馳せている暇はない。
「……どこ? 集落のみんなはどこにいるの?!」
意識を集中させる。
すると微かに、遠くからの喧騒が耳に届いた。
「あっちッ!」
わたしは音のする方へと、全速力で駆け出した。
「かぁッ!!」
猫族族長ライナロックの気合いが一閃した。
初老ながら偉丈夫な彼は、巨大なオランウータンの魔物――手長猿の群れを一人で相手取っている。
まさに奮戦だ。
ライナロックは手に握った大剣を烈風の如く振り回し、猿の群れを切り裂いていく。
「ぬぅ……。くッ、この程度で!」
だがやはり多勢に無勢。
ライナロックは猿たちの勢いに、徐々に押し込まれていく。
「てええいっッ!!」
わたしは猿たちの背後から強襲を仕掛けた。
群れの一頭を殴りつけ、屠り去る。
猿たちは突然のわたしの来襲に慄き「キイ、キイッ!」と甲高い叫び声を上げる。
「――ッ!? ねこ様、戻られたのか?!」
「ええ! でも話はあと! 先にこの猿どもを殲滅してしまいましょう!」
「委細承知ッ! ……ぬぅんっッ!」
わたしとライナロックとで、猿の群れを挟撃する。
渾身の気合いと共に振り回されるライナロックの大剣が、猿の群れを斬り裂いていく。
「てえいやぁっ!!」
わたしも負けじと両の鉤爪を、猿の頭へと胸へと目掛けて、次々に振り落とした。
猿の死骸で血に染まった大地に佇み、「ふぅ」と小さく息を吐く。
「ねこ様、ご助力を感謝致す」
猿を殲滅しおえたわたしに、そうライナロックが声をかける。
わたしはライナロックに応えて言う。
「礼は結構です。……族長さん、わたし、王国への道すがら、冒険者の人から大森林で魔物暴走が起きたって聞いて、飛んで帰って来たんです。今の状況はどうなってるんですか?」
わたしはライナロックにそう問いかける。
「うむ。集落の者は今の所は無事じゃ。死人は一人も出ておらん。怪我人はおるが、なんとか魔物の暴走を凌いでおる」
「良かった。……じゃあ、マチェテは? マチェテは何処にいるんですか?!」
そうわたしがライナロックに問いかけた時、白猫マリーと黒猫ベルの二匹に守られながら、猫耳少女ククリがここまで追い付いてきた。
わたしが先行して道を拓き、ククリ達はその後をついてきたのだ。
「おお! 無事じゃったかククリ」
「……ん、だいじょうぶ」
ライナロックは、そう返事をするククリを抱き寄せながら、わたしに応える。
「マチェテは凶悪な魔物と戦いながら、森へと入って行きおった。……ねこ様! どうか、マチェテの助力をしてやって下さらんか」
何でもマチェテは、集落に現れた手強く凶悪な蛇の魔物を、避難所から遠ざける為に、蛇と単身で戦いながら森の方へと誘導して行ったらしい。
蛇の魔物、……ヤマハミか。
あの凶暴な蛇相手では、マチェテとて無事とはいくまい。
「分かりました。わたしはマチェテの元へ向かいます。族長さん、ククリや猫達を避難所で匿って下さい」
「うむ、承知した!」
ライナロックは確と頷く。
ククリが、駆け出そうとするわたしの裾を掴み、言う。
「……ねこさま、無事に帰って来て、絶対」
わたしはククリに、必ずマチェテを連れ、無事に帰ると約束し、森へ向かって走り出した。
わたしは森を駆ける。
マチェテを探して駆け回る。
「どこッ? マチェテは、どこにいるの?! ……ん?」
わたしはその時、違和感に気付いた。
空気が張り詰めている。
いまわたしの居る一帯には、先ほどまでウンザリするほど沢山いた魔物が、何故か一匹もいないのだ。
わたしがその事に首を傾げているとーー
「グゥルオオオォォーーッ!!!」
大気を震わせる咆哮が聞こえて来た。
「ッ?! 今の咆哮は?! 早くマチェテの元に向かわなきゃ!」
わたしはそうして、咆哮のした方へと真っ直ぐに駆け出した。