表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/32

21 魔物暴走

「ぃよし。これでお掃除おわりッ。それじゃあお昼ご飯でも作ろうかしらねー」


 両手を上げて「んんッ……」と声を漏らしながら伸びをする。


「でもひとり分だけ作るのって、なんだか手間なのよねぇ」


 ねこちゃんとククリは何日か前に冒険者ギルドに行ってしまった。

 魔法適性の検査を受けるためだ。


「ふたりともどんな魔法適性があるのかしら……うふふ、ちょっと楽しみ」


 魔法には『炎、氷、雷、風、大地』の五属性が存在する。

 ひとは誰でも、このうちいずれかひとつだけの属性に適性を持っているのだ。


「ふたりとも雷属性なら私が色々と教えてあげられるんだけど……」


 フライパンを雑に振ってご飯を作る。

 私の二つ名は『雷猫』。

 多少なり雷の扱い方には長けている。


 魔法を学ぼうとする者はまず手始めに魔法適性検査を受ける。

 適性属性を調べないまま魔法の勉強を開始しても碌なことにはならないからだ。

 例えば『訓練開始から一年経っても、雷の魔法が全く使えません。何故だろう? 実は雷魔法に適性がありませんでした』なんてことになったら目も当てられない。

 そんなのは時間の無駄である。


「ククリはきっと雷の属性ね。ねこちゃんは……んーと、大地とか? でも風なんかも適性ありそうねぇ」


 そんな想像を膨らませる。


「あーあ、ふたりとも早く帰ってこないかしら」


 出来上がった料理を並べてから、テーブルにぐでーっと突っ伏した。

 あの子たちがいる前ならこんなだらしない格好はしないのだけど、いまくらいはいいわよね。


 魔法適性検査は結果が出るまでに少し日数がかかる。

 その間あの子たちは王国を見物でもしながら過ごすと言っていたから、しばらくは帰ってこない。

 私はまた少しの間、家にひとりになった。


「……やっぱり独りきりだと、ちょっと寂しいわね」


 以前ならこんなときはフレムロックがそばにいてくれた。

 でももう私の愛したあの人はこの世にはいない。

 ククリを護って立派な最期を遂げたのだ。


 胸に去来した喪失感を振り払う。

 あたまを振って並べたばかりのお昼ご飯を口に運ぶ。


「あら? あらあらあら? 美味しく……ない、かしら?」


 料理は真心だ。

 心ここにあらずで作った料理は物の見事に失敗していた。

 やっぱり張り合いなく気の抜けた心持ちで作ったら、簡単な料理だって美味しくならないのだ。


「……ごちそうさまでした」


 お昼ご飯を食べたあと、少し手持ち無沙汰になる。

 こんなことは久しぶりだ。

 特にねこちゃんが我が家にやって来てからは、やれ戦闘訓練だー、家事の勉強だー、って忙しい毎日だったから余計にそう感じるのかもしれない。


「はあ、……せめてマリー様かベル様でも残っててくれたらなぁ」


 テーブルに頬杖をつく。

 白と黒の可愛い猫神様たちを思い浮かべながらため息を吐いた。


 こういってはなんだけど、二匹の猫神様方は可愛い。

 とっても可愛い。

 たとえば小さな物音にビクッとなる様子。

 ベッドに潜り込んでは寝返りをうったねこちゃんに蹴り落とされる様子。

 お腹が空いたときに、前脚でチョイチョイっておやつを催促してくる姿もとても可愛らしい。


「うふふ」


 いけない、いけない。

 こんな風に思っているだなんて、集落の誰かに話したら怒られちゃいそう。

 猫神様に不敬だーって。


 マリー様もベル様も、ギルドに向かったふたりを心配してついて行ってしまった。

 ずるいと思う。

 私だって心配だからついて行きたかったのに。


「うううー」


 ベッドでゴロゴロと転げ回る。


「あああー」


 退屈だ。

 このまま昼寝でもしちゃおうかしら。

 でも食べてすぐ寝てしまうのもねぇ。

 暇に飽かせて益体もないことを考えていると、ふと思い立つことがあった。

 ベッドから体を起こす。


「そうだ! ひと狩り行きましょう!」


 これは名案だ。

 せっかく暇ができたんだから有意義に使おう。

 ついこの間、我が家の食糧配給を増やして貰ったんだからその分は獲物で返したい。

 私はいそいそと狩りの支度を始めた。




「ごめん下さーい。族長はいらっしゃるかしらー?」


 族長の屋敷を訪れた。

 ちょうどライナロックは屋敷にいたようですぐに顔を見せる。


「なんじゃいマチェテ。暇でも持て余しておるのかの?」

「……えぇ、実はそうなんです。あの子たちが出掛けてから急に手持ち無沙汰になっちゃって」

「まぁそんなことじゃろうと思ったよ」


 ライナロックがカカカッと快活に笑う。


「してなに用じゃ?」

「じつは森に狩りに出掛けようかと思いまして」

「ほう、狩りか」


 腕組みをしたライナロックがなにかを考え始めた。

 きっと心配しているのは私と同じことだろう。


「……ただ、つい前日私が狩りに出ている間に集落が魔物に襲われましたし、同じようなことが起きるかもしれませんから、族長の意見をお伺いしようかと思って」

「ふむ……そうさのぉ」


 ライナロックはアゴを引いて考える。

 やはりいま私が集落を不在にするのはまずいだろうか。

 なんだかこのところ森がきな臭いのだ。


「……実は集落の食糧事情が悪化してきておる」


 そうなのか。

 でも獲物が減っているなんて話は聞いていない。

 むしろ増えていると聞く。


「……えっと、そうなんですか?」

「うむ。結構な数の冒険者に、集落の護衛として逗留してもろうとるじゃろ?」

「ああ、それで」


 なるほど単純な話だ。

 人が増えた分、食糧が減ったのだ。


「でじゃな。集落の護りはその護衛の冒険者らもおることじゃし、マチェテに狩りに出て貰えると助かるかの……いざというときの食糧備蓄はしてあるが、もう少し増やしたいでな」


 そういうことなら安心して集落を離れることができそうだ。

 たくさん獲物を狩ってきて、族長を驚かせてやろう。


「ええ、任せて下さい」

「頼むぞい」


 私は族長の許可を得て、狩りに出掛けた。




「ゲクェーン!」


 硬質な響きをともなう断末魔のこえが森に木霊する。

 狩りに出てから数刻。

 剣鉈に(くび)を刺し貫かれた巨大な鹿が、重い音を立てて地面にその身を横たえた。


「ぃよしッ! 大物仕留めちゃった!」


 小さくガッツポーズをとる。

 この鹿は大箆鹿(グランドエルク)

 体高二メートル超の巨大鹿だ。


「ふんふんふふーん」


 これだけの獲物だ。

 いったい何人分の食糧が賄えるだろう。

 上機嫌に動脈を断ち切り、いそいそと鹿の血抜きをおこなう。


「ちゃあんと血抜きしないとねー」


 グランドエルクのお肉はそのままだと獣臭い。

 でも下処理さえ間違えなければとっても美味しくなる。


「えっと、血抜きをして香草でお肉を包み込んでから数日間寝かせて……」


 処理の手順を思い浮かべながら獲物を解体する。

 臭みが抜けて熟成が進んだこの鹿のお肉は、脂分は少ないながらもしっとりと柔らかで、赤身の旨味の凝縮された贅沢な逸品となるのだ。


(……うーん)


 どう調理しよう。

 やっぱりこのお肉を使うならシチューかしら。

 みんなが帰ってきたら、腕によりをかけて鹿肉料理を振る舞おう。

 賑やかな食卓を思い浮かべて笑顔になる。


「でもこのグランドエルク、なにかを警戒しているみたいだったわねぇ」


 大箆鹿は警戒心がとても強い。

 いまもこの鹿は森の奥をずっと警戒していた。

 その隙をついて反対側から一気に襲いかかって仕留めたのだ。

 私は考える。

 もしかするとこの付近に、グランドエルクを捕食してしまう程の凶悪な魔物が潜んでいるのかも知れない。


「……血抜きが済んだら、さっさと集落に戻ったほうが良さそうね」


 ――ガサ、ガサッ


 草花を揺らす音が聞こえた。

 続いて森の奥から複数の魔物が勢いよく何匹も飛び出して来る。


「――ッ!?」


 両手に持った剣鉈を構える。

 飛び出してきたのはワイルドボアやホーンラビットたちだ。

 見ればどの魔物も恐慌をきたしたように口から泡を吹き、目を充血させている。

 魔物たちはこちらには目もくれず、私の脇を素通りして一目散に走り去っていった。


「……えっと…………なんなの?」


 魔物たちのこんな行動を目撃したのは初めてだ。

 はて、と首を傾げた。

 そのとき――


 ――――メキッ、メキメキッ……


 樹木を押しのけて進む音が聞こえた。

 重量感をともなう何者かが、何本もの木の幹や枝をへし折りながらこちらに向かってきている。


「キシ……キシ……」


 そうして魔物は姿を見せた。


 現れたのは重厚な鋼の甲殻――

 刃のように鋭い角と前肢――


「なッ……!?」


 森の奥から現れたのは、犀ほどにもなる大きさの凶悪な蟲の魔物、甲虫ライノクレスだった。




 ライノクレスが大地を抉りながら角を突き上げる。

 両の前肢を振り上げ滅多矢鱈に振り下ろしてくる。


「――稲魂の御子よ、轟雷を槍と化し、九天を穿て――」


 息もつかせぬ激しい攻撃だ。

 けれども私はその刺突や斬撃のすべてを掻い潜り、途絶えることなく詠唱を続ける。


「喰らいなさいッ! 雷槍(サンダーランス)!」


 放った魔法は雷属性中級低位『雷槍』。

 バックステップで蟲との距離を開けてから、即座に魔法を行使する。


 ライノクレスの左右の翅の隙間には、ダマスカス鋼製の剣鉈が深々と刺さっている。

 今しがた私が突き立てた剣鉈だ。

 その剣鉈に向けて、激しい稲光を伴う雷火の槍を飛ばす。


「キシュイッ、キシィッ!」


 甲虫の魔物が苦しげに暴れまわる。

 体の内側に直接雷撃を叩き込まれ、悶え苦しんでいるのだ。


「どうかしらッ! この剣鉈はよく雷を通すでしょうッ!」


 私の剣鉈は刃先から柄に至るまで、すべてダマスカス鋼製で(こしら)えている。

 雷をよく通すように(しつら)えているのだ。

 感電した魔物はそれでも悲鳴を上げて暴れ続ける。


「これでもまだ倒れないのッ!? しぶとい――わねッ!」


 甲虫へと踏み出し、突き出された角をサイドステップで躱しながら、頭部と前胸背板との隙間に残るもう一本の剣鉈を突き刺した。


「ギュギイイィィッ!」


 ライノクレスは一層激しく節足をばたつかせ、滅茶苦茶に刃の前肢を振り回す。


「これでおしまいよッ! 雷槍(サンダーランス)!」


 ふたたび雷火の槍が甲虫の魔物を貫く。

 轟音が辺りに響き渡り激しい雷が内側から魔物の体を焼いていく。

 複数回に渡る魔法の行使を受けて、ようやくライノクレスは沈黙した。


「まさかこの短い期間で、討伐等級A級の魔物が二度も現れるなんて……」


 呟きながらも油断なく構える。

 凶悪な様相を晒して息絶えたライノクレスを見つめる。

 甲虫は鋼の甲殻からプスプスと煙を上げている。


 ライノクレスはいかな元A級冒険者の私といえども油断のならない相手だ。

 その鋼の甲殻は硬く分厚く、打撃や斬撃に対してはまさに鉄壁の防御を誇る。

 けれどもこの魔物にも弱点はある。

 それが雷だ。

 雷撃をよく通すこの魔物の甲殻は、雷猫の二つ名を持つ私とは非常に相性がよい。


「……相手がよかったわね」


 でなければここまで余裕をもって勝ちを拾うことは出来なかっただろう。

 ライノクレスが完全に絶命したことを確認してから、構えを解いた。


「集落が心配だわ。急いで帰らなきゃ」


 森で何かが始まっている。

 不穏な何かが。

 グランドエルクは一旦放置しよう。

 せっかくの獲物だけど背に腹は変えられない。

 後ろ髪を引かれる想いで、集落へ向かって駆け出した。




 集落に戻った私はその光景に(おのの)いた。

 目を見開き、立ち尽くし、体を震わせる。


「…………あ、あぁ……」


 地上には倒壊したテント――

 散乱した資材――

 屍を晒し濁った瞳で虚空を見つめる家畜たち――

 

 樹上を見上げれば建屋は倒壊し、樹と樹を繋ぐ橋は崩れ落ちている。

 ふらつく足取りでキョロキョロとあたりを見回す。


「なんて……こと……」


 視界に入るのは、魔物、魔物、魔物――

 集落は見渡す限りの魔物の群れに飲み込まれていた。


「ぞ、族長はッ!? 集落のみんなはッ!?」


 いても立ってもいられずに駆けだした。


「ガアアァァーーッ!」


 途端に魔物が襲いかかってくる。


「ッ、――チッ!」


 すれ違いざま、戦狼(ウォーウルフ)の喉元に剣鉈を(はし)らせる。

 津波のように襲いくる魔物たちを薙ぎ払いながら、私は集落を直走(ひたはし)る。


「どこッ!? みんなはどこなのッ!?」


 息を乱し、必死になって探し回る。

 すると遠くからかすかに、怒号や剣戟の響きが聞こえてきた。

 音は集落の避難所の方から届いて来る。


「――あっちッ!」

「キシャアアァァァッ!」

「ッ邪魔よッ!」


 振り向きざまに殺戮蟻(キラーアント)の頭を剣鉈の一撃で叩き落とす。

 そうして私は脇目も振らずに音のする方へと駆け出した。




 避難所が見えてきた。

 集落の戦士たちや駐屯していた護衛の冒険者たちが、避難所を庇いながら魔物の群れと戦っている。


「うおぉッ、後ろへは一匹も通すでないぞッ!」

「おおおおおおおッッ!!」


 彼等を率いているのは、猫族族長ライナロックだ。


「遅くなりましたッ!」

「おおマチェテッ! 戻ったか!」


 私たちは互いに目の前の魔物を叩き斬りながら、言葉を交わす。


「族長ッ! 集落のみんなはッ」

「無事じゃ! 避難所に匿っておる!」


 よかった――

 ホッと胸を撫で下ろす。


「一体何が起こっているのですか!?」

「……『魔物暴走(スタンピード)』じゃろうッ」

「――――ッ!?」


 魔物暴走(スタンピード)

 それは森を揺るがす災害だ。

 過去にも魔物暴走は数回発生したことがあるらしい。

 けれどもこんな、集落が魔物で埋め尽くされるほどの大規模な暴走なんて聞いたことがない。


「で、ですが魔物暴走は守神さまが――あッ」


 先日の調査隊の報告。

 破壊の限りを尽くされた猫神の森と、大地を抉る爪痕にうずくまる一頭の巨大な龍。

 いま、大森林は――


「そうじゃの。……いま森は常の大森林ではない。少なくとも猫神様は猫神の森には居られぬッ」

「で、でもッ……狗狐神(イヌガミ)様はッ、龍神(リュウガミ)様だって!?」

「わからぬッ! 詳しいことはわからぬ! ただこれだけははっきりしておる!」


 ライナロックが集落を埋め尽くす魔物の群れを睨み付ける。


「目の前の光景は現実じゃ! 遂に、……遂に森の魔物どもが、大暴走を始めよった!」

「そ、そんなッ……」


 どうすればいい?

 どうやってこの未曾有の大災害に立ち向かえばいい?

 こんな圧倒的な数の暴力の前では、私ひとりの力なんて無いも同然だ。


 魔物を屠り続けながらも気持ちが萎縮していくのを感じる。

 そう思いながら辺りを見回すと、気弱になっているのは私だけじゃなかった。

 集落のどの戦士たちも一様にその顔に怯えの表情を浮かび上がらせている。

 襲いくる絶望を前に、希望を見出せないでいる。


「じゃがッ! 心配は無用ぞ、マチェテッ――ぬうんッ!」


 力強い声が木霊した。

 ライナロックは背丈ほどもある大剣を、自身を軸にして独楽のように振り回す。


「ギャインーッ!」

「グギィイイィッ!」


 頭を、胴を真っ二つにされる魔物たち。

 周囲の魔物が一掃され、ライナロックの周辺に一時的に空白地帯が生まれた。


「皆のものもよく聞けえいッ!!」


 ライナロックが大声で叫んだ。

 響き渡る剣戟の音や、そこかしこから上がる叫び声をかき消すほどの凄まじい声量だ。

 大地にドカンと大剣が突き立てられる。


「猫族の集落はッ、儂らの集落はッ! この程度の災いで滅びたりはせぬッ!」


 怯えを浮かべる戦士たちが、気力を振り絞って魔物と対峙しながら耳を傾ける。


「安心せいッ! この程度の災厄なら(はな)から予見しておったわ!」


 確かに何かあると予見はしていた。

 そのために森へ調査隊を出したのだ。


「拠点の確保、避難所の増設、食糧の備蓄、護衛の冒険者も含めた防衛力の強化――対策は十分に練っておるッ!」


 そうだ。

 森の不穏さを察知してから、集落ではいざというときに備えて様々な準備をしてきた。

 けど……それでも私たちだけでこの災厄を乗り切るのは――


「それにすでに王国の冒険者ギルドへ向けて鳩は飛ばしておる! しばらく耐え忍びさえすれば、増援は必ずやってきよるッ!」


 増援……増援がくる。

 災厄に立ち向かうのは私たちだけじゃない。


「事前に話はつけてある! ギルドはS級冒険者の派遣を約束してくれておるッ!」


 ――S級冒険者がくる。


 その強烈なひと言に冒険者たちがざわめいた。


 さすがはライナロックだ。

 抜かりがない。

 しばらく耐えさえすれば増援がくる。

 しかもこれ以上は望めないほどの強力な増援。

 これは大きな希望だ。

 そして増援の到着まで耐えるための準備も出来ている。


「あと必要なものは、この災厄を乗り切るための強い意志! それさえあれば儂等はッ、猫族は魔物暴走などに破れたりはせぬッ!!」


 そうだ…………

 そうだ!

 きっと私たちは、この危機を乗り越えられる!


「奮い立て猫族の戦士たちッ!」


 みんなの瞳に力が戻る。


「うずくまって怯えてる場合ではないぞッ!」


 戦士たちが剣の柄を握り直し、目の前の魔物を睨みつける。


「お主らの大切なものを護るのは誰じゃ!」


 ライナロックが集落の戦士たちに問いかけた。

 そこかしこから声があがる。


「…………お、俺だッ! 護るのは俺だ!」

「俺だってまだまだやれるぞ!」

「こんな魔物の群れごとき、俺が蹴散らしてやる!」

「うおおおお! やってやるッ、やってやる!」


 萎縮し、震えていた戦士たちの体に力が漲る。


 ライナロックが大地に突き立てた剣を引き抜いた。

 そこにあるのはいつもの快活な笑顔だ。


「カカカッ、それでこそ猫族の戦士よ! 冒険者の皆もよろしくお頼み申すッ!」


 族長ライナロックが大きく息を吸い込んだ。

 胸いっぱいに吸い込んだそれを一息に吐き出して大声で叫ぶ。


「集落を護るための戦ぞッ! 皆のものッ、儂に続けぇーーッ!!」

「おおおおおおおおおおッッッッ!!」


 猫族族長ライナロックが戦士たちを引き連れ、雪崩となって魔物の群れに飛び込んでいった。


「……ええ、族長。仰る通りだわ」


 いつの間にか私の萎縮した気持ちもどこかへ消え去っていた。

 魔物の大群のなか、大剣を振るい続けるライナロックの背中を見つめる。


 遅ればせながら私も両手に剣鉈を構えて魔物の群れに飛び込んだ。


「族長ッ! 先ずは目に映る魔物たちを片っ端から全部やっつけちゃいましょうッ!」

「おうともよ!」

「さあッ、覚悟しなさい! 猫族の集落は簡単には落とさせやしないんだからッ!」


 数えるのも馬鹿らしくなるような魔物の大群。

 けれどももう臆することない。

 私たちは一丸となって暴走する魔物たちに立ち向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ