11 異世界
「ほんっとうに、済まない!」
氷騎士アリエルが地に手をついて頭を下げる。
ここは人攫いの洞窟の中。
あのあと気を失ったわたしは、オーロラから事情を聞かされて顔面蒼白になったアリエルに、ここまで運ばれて来たのだ。
ちなみに『オーロラ』とは人攫いに囚われていた美少女の金髪さんで、アリエルの妹さんらしい。
「……も、もういいですよ、アリエルさん」
仰向けに寝かされたわたしは上体を起こそうとする。
その拍子にわたしのお腹の上に座っていた黒猫ベルが転げ落ちる。
ベルが不満げに「ン゛ニャッ」と鳴いた。
ベルは寝そべるわたしの身体に腰をおろし、傷口をペロペロと舐めて癒やしてくれていたのだ。
わたしの隣ではククリがジッとこちらをみつめている。
「もう大丈夫だから、ククリもそんな心配そうな顔をしないで」
ククリの手を握る。
そしてそのままククリの体引き寄せると、おもむろに頭の猫耳を撫でた。
(……ああ、気持ちが落ち着く)
やっぱりククリの猫耳は最高だ。
いつも通り嫌そうな表情ながらも、ククリはジッと堪えている。
怪我をしたわたしに遠慮してるのかな?
それなら――
(――チャンスだ)
わたしは調子に乗って尻尾も撫でた。
ククリはさらに表情を歪めながらもジッと我慢している。
「うへ……うへへ……」
「……しかしだな、妹の恩人に罪を被せ、あまつさえ斬り付けたというのに……それをそのままにしたとあっては騎士の名折れ」
夢中になってククリをいじくり回すわたしに、アリエルが額を地につけてあやまる。
「頼むッ、何か償いをさせてくれ!」
わたしはワタワタと手を振った。
「あわわ、と、とにかく頭を上げて。というかお貴族さまが、わたしみたいな小汚い娘を相手にそんな頭を下げないでくださいよー」
「……貴族だの、平民だの、そんなことは関係がない」
アリエルがいったん頭を上げてまっすぐにわたしに視線を向ける。
「悪いことをしたら謝る。それはヒトとして当然のことであろう……本当に、すまなかった!」
アリエルは三度頭を地につけた。
お貴族さまは多分そんな軽々しく頭を下げたりしないと思うんだけど、きっとこの女騎士さんは変わり種なんだろう。
わたしはそんなアリエルを見遣る。
堂にいった綺麗な土下座だ。
わたしも土下座には一家言あるからわかる。
この土下座……実にお見事。
この人はおそらく、土下座慣れしている。
きっとよくやらかしちゃう人なんだろうなー。
「償わせてくれッ!」
「わ、わかりましたよ。……じゃあ色々アリエルさんの知っていることを教えて下さい。それで今回のことはお互い水に流しませんか?」
わたしは世情に疎い。
異世界からやってきたのだから当然だけれど、手持ちの情報が圧倒的に不足している。
アリエルから色々と情報を得られるなら、わたしとしても万々歳なのだ。
「わたし、ずっと森の奥にいたので、世の中のことなーんにも知らないんです」
アリエルが頭を上げる。
「そういうことなら承知した。わたしに分かることなら何でも教えよう。遠慮なく尋ねてくれ!」
アリエルは頼もしげに胸を叩いた。
やっぱりこの女騎士さんは、頭を下げているより胸を張っているほうが似合う。
土下座姿に感心したことなど、わたしはおくびにも出さない。
「でも、お話はまた明日で。ベルが傷を治してくれてますけど、流石にまだちょっと痛むので……」
「そ、そうだな。本当に済まなかった! わたしのほうは……そうだな。賊とさらわれていた子供らの様子でも見てこよう。ねこは治療に専念していてくれ」
アリエルが地に置いた剣をとり、スッと立ち上がる。
背筋の伸びた凛とした立ち姿だ。
アリエルはカツカツと踵を鳴らしながら歩き、縛り上げられ、吹き曝しの表に転がされた人攫いの元へと移動する。
(――あ、いまアリエルさんが、人攫いの頭を足で蹴った!)
アリエルは人攫いの男の頭を踏みつける。
まったく容赦なしだ。
ちょっと目が怖い。
因みに人攫いに囚われていたのはオーロラを含めて六人。
全てヒト族の子供だった。
解放された子供たちは、いまは洞窟の奥へ続く道の半ばあたりで白猫マリーと遊んでいる。
きっとマリーの愛らしさに子供たちも、さらわれ傷つけられた心を癒していることだろう。
マリーの愛らしさはホント半端ないからね。
「…………ふぅ」
わたしはやっとひと息ついて、大きく息を吐き出した。
(はぁー、緊張したなぁ)
そこにククリが話し掛けてくる。
「……びっくりした。ねこさま心配させないで」
わたしはククリに、ごめんなさいと頭を下げた。
さて翌日になると、アリエルのパーティーメンバーを名乗る三名の男女が現れた。
その三人はアリエルの姿を見つけるや否や、ツカツカと詰め寄り、懇々とお説教をはじめた。
やれ「独りで飛び出していく馬鹿がいるか」だの、「お前はパーティーを一体何だと思ってんだ」だの。
アリエルは「グッ」と言葉に詰まりながら反論するもその都度言い負かされ「うっ」とたじろいでいる。
三方から次々と襲いくるお説教の嵐に、さしもの女騎士も防戦一方だ。
(……ふふ、アリエルさんったら、しょんぼりしちゃってる)
まるで猫たちやククリに怒られたあとのわたしみたいだ。
そんなアリエルの様子に、なるほどこの鉄砲玉みたいな女騎士にも可愛いところがあるもんだと、わたしはアリエルに対して勝手にちょっと親近感を覚えた。
「さ、約束だ。何でも聞いてくれ」
わたしの傷がすっかり癒えた頃合いを見計らって、アリエルが声をかけてきた。
女騎士は剣を地面において、わたしの前に胡座をかく。
女の人の胡座座りだから行儀は多少なり悪いはずなのだけど、アリエルがすると不思議とそうは見えない。
(……ふわぁ、やっぱり貴族さまって凄いんだなぁ)
わたしは妙なところで感心してしまった。
そんなアリエルに対して、わたしは普通の女の子座り。
膝にククリを乗せて、今日も猫耳を撫で回している。
ククリは嫌そうな顔をしている。
わたしはククリの栗色の髪と形のよい猫耳に顔を埋めてから大きく息を吸いこみ、恍惚の表情を浮かべた。
やっぱり猫スメル最高よね。
ぷるぷると身を振るわせる。
アリエルはそんなわたしに変質者をみるような目をむけて、ピクピクと頰を引攣らせた。
「それでアリエルさん」
おもむろに切り出す。
「アリエルさんは、猫族の集落の場所は知っていますか?」
「ああ、勿論だ。ここにくる前にも少し寄ってきた」
アリエルがそう答えた。
ククリの猫耳がピクリとアリエルの方を向いた。
洞窟をあとにしたわたしたち一行は、いつものように森を歩いていた。
けれども今日はいつもとは違う点がある。
いつもなら森を進む影は二匹とふたり。
でも今日は二匹とふたりに、アリエルを加えた二匹と三人なのだ。
「よし。今日はこの辺で野宿としよう」
先導する女騎士がそういって振り返った。
いつものメンバーにアリエルを加えたわたしたちは火を囲む。
今日の食事は『ドードー鳥のスパイス焼き』だ。
ドードー鳥というのは森の浅い辺りを生息域としている、鶏を一回り大きくしたような飛べない鳥だ。
ドードー鳥は森に適応した進化を遂げていて、大空を舞う翼を失ったかわりに足が速く、木にも登る。
そしてなんといってもこの鳥は臆病だ。
この翼のない鳥は、少しでも身の危険を感じると一目散に逃げ出すから捕まえるのはかなり骨なのだけど、うちのマリーの手にかかれば何のことはない、あっと言う間にお縄ちょうだいだ。
「ふふ……今晩はご馳走だな」
上機嫌に話しながらアリエルはドードーの腹をナイフで割いていく。
腹の中に道中でククリが採ってきた香草を詰め込み、もとからアリエルが持っていたケイジャン風味のスパイスを身に擦り込み焼き上げていく。
こうして焼き上げた脂の乗ったドードーの丸焼きは、スパイスと香草の豊かな香りも相まってとても、とーっても美味しいのだ。
「ふぅ、馳走であった」
「ご馳走さま! すっごい美味しかったぁ」
「……おいしい」
「ニャーオ」
「グルニゴ」
満足いくまで食事を楽しみ、わたしたちはひと息つく。
あの洞窟から何回か食事をともにして分かったのだけど、アリエルもわたしたちに負けず劣らずの大した健啖家だ。
一見するとアリエルの食事風景は優美なのだけれど、手元だけを注視してみると凄いスピードで料理が消えていくのだ。
「ゴニャッ!」
食事の後、マリーは遊び相手という名の獲物を探して森に消えていった。
「マリー! あんまり遠くにいっちゃだめよー」
でもまあ、マリーなら一匹でも大丈夫だろう。
ベルはたき火のそばでのんびりと毛繕いをしている。
ククリはわたしの膝に抱えられたまま、コクリコクリと舟を漕ぎはじめた。
夜の森に、ゆったりとした時間が流れる。
そんな穏やかな空気のなか、アリエルがわたしに問いかけた。
「さて、ほかに聞きたいことは無いか?」
先日、あの洞窟でわたしはアリエルに尋ねた。
『猫族の集落の場所を……知りませんか?』
『ああ、勿論知っている』
鎧を脱いだアリエルが自信満々に胸を張った。
突き出された大きな胸がプルンと震える。
わたしはその胸を眺めたあとで自分の胸に視線を落として、陰鬱な気分になった。
顔をしかめる。
わたしは、わたしたちがいま猫族の集落を目指して森を迷い、彷徨っていることを伝え、集落までの道順について教えを請うた。
するとアリエルは少し考えるそぶりをみせたあとに、こう言い放ったのだ。
『ならば、私が道案内をしよう』
猫族の集落へは洞窟からだと何日か掛かるらしい。
さすがにわたしは断わろうとした。
するとアリエルは――
『なに、遠慮するな。それならちょうど良い詫びになる』
『えー!? でも悪いですよー』
『それに、ほかにも私に色々と聞きたいことがあるんじゃないのか? それも道中でまとめて聞いてやろう』
といってプルンと胸を叩いた。
なんともお優しい騎士さまである。
結局わたしは押し切られるかたちで、アリエルのその厚意に甘えることにした。
わたしたち一行が出発した日の朝、アリエルのパーティーメンバーのみなさんもオーロラや子供たち、引っ立てた賊を連れて洞窟を発った。
ディズイニル王国という国に戻るのだそうだ。
『おう、アリエル! こんどは暴走せずにちゃんと嬢ちゃんたちを送り届けろよ!』
『心配だわ。私もついていこうかしら……』
『まったくお前たちは過保護だな。アリエルも子供じゃないんだ。大丈夫だろう…………大丈夫、だよな?』
パーティーのみなさんは次々に不安を口にする。
『う、うるさいな! わかっておるわ!』
アリエルが唇を尖らせる。
このパーティーのひとたちとは少ししか話せなかったけど、みなさん優しい人だった。
なんでも今回みたいにアリエルがひとりで突っ走ってしまって、苦労させられることが度々あるんだとか。
そうそう!
アリエルがわたしに氷剣ミストルティンを抜いた話を聞くと、みなさん目を白黒させてアリエルにお説教を始めた。
いわく「子供になんて物を向けるんだ」と。
でもね、みなさん。
その女騎士さんはわたしに剣を向けただけじゃなくて、そのあとに自身最大最強の魔法とかいうのをぶっ放そうとしてきましたよ。
でも、そういうのは言わぬが花なのだ。
賊の男は焦燥し切っていて、わたしと目が合うと「ヒッ」と引き攣るような悲鳴を漏らした。
別れのとき、オーロラと子供たちは口々にわたしたちへの感謝を述べた。
ジッと耳を傾けて待つアリエルに問いかける。
「じゃあね、この世界のことを教えて欲しいんだー」
「……世界? 世界とはなんだ? 大陸のことか?」
おっと、この世界には『世界』という概念がないのかな?
改めて問う。
「うん、そうそう。大陸のことを教えて下さい!」
「良かろう。この大陸は大きくわけて、王国、帝国、聖教皇国、大森林から成っていてだな――」
氷騎士アリエルが語るこの世界は、こんな場所だった。
ひとつの大きな大陸がある。
大陸は大きく分けて、ディズイニル王国、ガルボナード帝国、聖リルエール教皇国、自由都市国家群と大森林から成っていた。
まず最初に『ディズイニル王国』。
ディズイニル王国とは、大陸の中央部に位置した大陸中最も大きな領土を持つ君主制国家で、帝国、聖教皇国、自由都市国家群、大森林のすべてと隣接しているそうだ。
王国は温暖な気候と肥沃な大地に恵まれて、大陸にあるほかのどの国よりも富んでいる。
商工業も活発で、この国の民は貧富の差こそ激しいものの、概ね幸せに暮らしているそうだ。
ただアリエル曰く、この国の上級貴族たちは民を食い物としか見ておらず、つねに政争に明け暮れ腐り切っているらしい。
ちなみにアリエルはこの国、ディズイニル王国のバーサル侯爵領、バーサル侯爵家の生まれとのこと。
アリエルは貴族の腐った政争にはまったく興味などなく、侯爵家を飛び出して騎士、果ては冒険者になったらしい。
次に『ガルボナード帝国』。
ガルボナード帝国は大陸の北部に位置し、接する国はディズイニル王国だけという封建制軍事国家。
領土の西側は高く険しい峰に接していて、この峰を超えた先は大森林なのだけれど、あまりにも峰が険し過ぎるせいで、人も魔物もこの峰を超えての移動は容易ではないそうだ。
帝国は質実剛健を国是とし、形骸化した過去の貴族制こそまだ残っているものの、いまでは将軍や将校といったものたちが大きく幅を効かせているらしい。
帝国の領土は寒く痩せていて、そこに住まう領民はつねに餓えの脅威に晒されている。
規模の小さな自由都市国家などと比べて図体こそ大きいものの、大陸一貧しい国で、近年はディズイニル王国の肥沃な土地を求めてよく小競り合いを起こしているのだとか。
『聖リルエール教皇国』と『自由都市国家群』は大陸の南東に位置している。
聖リルエール教皇国も他にもれず王国と隣接し、自由都市国家群はそんな聖教皇国と王国に挟まれたところにある。
アリエルは、聖リルエール教皇国と自由都市国家群については、あまりよく知らなかった。
なんでも宗教や細々した国のことはよく知らんとかなんとか。
なんて大雑把な……
そして、最後に『大森林』。
大森林は大陸の西側全土に位置している大きな大きな森で、大陸の四分の一ほどもの面積をほこる。
この広大な森は北東を高い峰に、南東をディズイニル王国に接している。
ここ大森林についても、アリエルはあまり詳しくは知らないそうだ。
知っていることというと、大森林の魔物は大陸のほかの場所に比べて強力で脅威的なものが多く、王国は大森林の主要な部族と契約を結んで、大森林から王国に魔物が溢れ出てこないように防波堤となって貰っている、ということくらいである。
「いや、だが最近では少し危ない噂を聞くな――」
アリエルが顎に手を当ててつぶやいた。
聞いてみると、なんでもここのところ大森林では凶悪な魔物の目撃例が急速に増えていて、大森林の部族もそれらの魔物を相手に手を焼いているらしい。
なんでも魔物が森から溢れ出すのも時間の問題じゃないか、と。
でも、どうして急に大森林の魔物が力をつけ始めたのかは原因不明とのことだ。
「ほかにはもう、聞きたいことはないか?」
アリエルは、わたしにそう問いかける。
「じゃあ、あともう一つ。魔法について教えて! アリエルは氷の魔法を使っていたよね? わたしも魔法が使えるようになるかな?」
やっぱり異世界といえば剣と魔法!!
わたしは男の子みたいに目を輝かせる。
「ふむ……魔法か。よかろう。魔法というものには炎・氷・雷・風・大地の五属性十一位階が存在してだな――」
わたしはアリエルが語る魔法について、目を輝かせて聞きいった。
こういう話はやっぱりなんだかわくわくする。
なんでも魔法には『炎』『氷』『雷』『風』『大地』の五属性が存在して、その位階は『初級』『中級』『上級』『特級』『超級』と分けられているらしい。
初級から上級までは、さらに『低位』『中位』『高位』といった細かな分類があるけれど、特級と超級にはそういう細かな分類はないので、全部で十一位階となるそうだ。
「ねぇねぇアリエル! 回復魔法はないの? 聖属性とか光属性とか!」
「ん? そんなものは聞いたこともないな」
そうなんだ?
だとするとベルがペロペロ舐めて怪我を治してくれるアレは、何なんだろう?
魔法は初級から上級までは、文字通り高位になるほどその威力が増していくけれど、特級はそもそも使い手自体が希少で、使う人物の魔力に紐付いた完全オリジナルの魔法のため、威力も性質もその使い手の力量によってマチマチらしい。
「――という訳で、もしねこのいう『回復魔法』なるものがあるなら、それは特級だろうな」
「へえー、じゃあさアリエル。超級っていうのは――」
超級魔法。
すべてを超越した威力を誇るその魔法は、その存在が噂されてこそいるものの、現在大陸にはその使い手は確認されていないとのことだ。
というよりも、そもそも超級はその存在自体が疑問視されてすらいるらしい。
というわけで世間一般には実質的に、上級高位が最高位の魔法と考えられているそうだ。
「だが……だがな、超級は存在する――」
アリエルはそう断言する。
なんでも氷の超級魔法には『絶対零度』という魔法があるらしく、アリエルはその魔法をずっと追い求めているそうなのだけど、いまのところ成果は芳しくないみたい。
ちなみに魔法の適正属性は、ひとりの人間にひとつだけ。
多重属性なんていうものは聞いたことがないらしい。
属性の判別は冒険者ギルドなんかでやってくれるとか。
魔法の発動には詠唱が必要だけど、一流の使い手は詠唱破棄という技術でほぼ詠唱無しで、即魔法を発動することができる。
詠唱破棄は発動する魔法が高位階になる程どんどん難しくなって、その難度たるや初級の破棄が出来れば上々、中級の破棄が出来るのは異常、上級の破棄は事実上不可能というところらしい。
「――でだな。中級高位の詠唱破棄が出来る私は、実はとても凄いんだぞ?」
アリエルが自慢気な顔をして鼻を伸ばす。
わたしはそんなアリエルをみて、すこし愉快な気持ちになる。
「へぇ、凄いね! アリエルは!」
「ふふん……そうだろう?」
アリエルは得意げだ。
「あ、それとね。アリエルの『起死回生』ってスキルはなんなの?」
「――――ッ!?」
アリエルの雰囲気が瞬時に変わった。
鋭い視線をわたしに向ける。
そこにはもう、先ほどまでのおちゃらけた雰囲気は微塵も感じられない。
「…………ねこ。お前、なぜそれを知っている?」
「え、えっと――」
アリエルが地に置いた剣に手を掛ける。
わたしはアリエルの変化に戸惑いながらも、自分の持つスキル『鑑定』について説明した。
対象をみて念じれば、その対象のステータス情報が読み取れるのだ、と。
アリエルはその説明をきいて難しい顔をする。
「…………信じよう。私を陥れようにも、お前は無垢に過ぎる」
「陥れ? え、えっと……?」
「なに、こっちの話だ。しかし、『鑑定』……そのスキルは危険にすぎるな」
「……き、危険?」
「ああ、危険だ。そもそもステータス情報とは秘匿して然るべきものだ。普通はパーティーメンバー相手にも大まかな情報しか教えない」
アリエルは顎に手を当てて考え込む。
端正な顔のその眉間にしわが寄る。
「ねこ。鑑定のことについてはもう誰にも言うな」
「うぇ? ど、どうして?」
「約束しろ、お前の身を案じてのことだ。……いうことを聞け」
「う、うん。でも使うのは構わないんだよね?」
「まぁ、それは構わんだろう。むしろそれほどの能力だ。使わない手はない」
わたしは頷いて話しを元に戻す。
「それで『起死回生』って結局どんなスキルなの、アリエル」
「ふん、おいそれと人に教えるわけがなかろう……といってもまあ、知られたところで、どうこうなるようなスキルでもないのだがな」
「えー、だったら教えてよー。なんでも聞けって言ったじゃない、けちー!」
「グッ……コホン、なら少しだけな。ヒントだ。――『手負いのわたしは手強い』ぞ?」
アリエルはそういって獰猛に笑った。
起死回生:体力が減るごとに全パラメータ際限なく上昇
チート級の能力です。
素で圧倒的に強いのに固有スキルまでチート。
アリエルはまさに、名実ともにS級冒険者なのです。