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片想いからの数センチの距離を、私達は伝える。



ーやっぱり、信じなきゃよかった


ー絶望を、もう味わいたくないなら


ー先に切ってみればいいんだよ。



ーーー


結局。

二人の「ニセモノごっこ」はあの日で終わってしまった。


色葉の書いていたお話も途中でやめてしまって、愛用のPCの中に保存されている。

完結されないまま残されているお話はいくつかあるが、ここまでラストまで書きかけて終わっているお話は珍しかった。





今日はバレンタイン・ディ。

生チョコは結局全材料を使い切った。

朝から流れるテレビは、バレンタインの話題で持ちきりだった。




「色葉?早く食べちゃいなさい。遅れるわよ?」

「………うん。」




目の前に座る色葉の母親が、ぼんやりとテレビの画面を見つめる色葉を見かねてそう声をかけた。

声をかけられた色葉は、ぼおっとした思考上で「うん」と答えてから、あまり減っていない朝ご飯に手を付けた。









『あ、色葉~?今日は朝放送があるから先に行くね~』



そんな電話は、今朝、少し遅めに起きた色葉にかかってきた。


放送部に所属している雛乃が先に行ってしまったおかげで、色葉は今日は一人で登校することになる。



どこかぼーっとした色葉を心配そうに見送ってくれた母親に感謝を覚えながら、色葉は最寄り駅から学校へと向かう。


(契約……結局守れなかったな……)


ドア側に押しのけられた色葉は、窓の外を眺めながらそんなことをふと思った。



たった二週間ほどだった【ニセモノごっこ】は、色葉にたくさんの感情を与え、奪っていった。

憂鬱そうな色葉の胸には、色々な考えが巡り巡っていた。




「あれ、珍しいね。色葉。」




そんな色葉に声をかけたのは、玲樹と一緒の時以外はだいたいこれくらいの電車に乗っている涼だった。




「うん。ちょっとね。」

「あれ……じゃあニセモノごっこは?」

「………終わったよ。」




遠い昔の出来事のように話す色葉に、涼は言った。




「なぁ、色葉。お前、玲樹の心、ほんとに分かってるの?」

「……なんのこと?」

「……色葉は、自分の感情と、相手の気持ちを考えることを知った方がいいと思うよ。」





『まもなく〜光が丘〜光が丘です〜』




そんなアナウンスが涼の言葉を遮る。

反対側のドアが開くらしく、涼と色葉は人混みをかき分けてドアから駅のホームへ出る。


階段を降り、改札から外へ出てから、涼が口を開いた。




「傷つくのと、傷つけるのは別だから。」




そう言うと、涼は早足で学校への道を行く。

その場に取り残された色葉は、呆然と涼の後ろ姿を見つめていた。



ーーーーー


お昼休み。

無事にチョコを雛乃に渡した色葉は、玲樹を探していた。

だが。見つからない。

途中で人にぶつかってしまったりしている色葉は、色んな意味で急いでいた。



(どこ行ったんだろ……)


きょろきょろとあたりを見回しながら、三棟、二棟、一棟……と探し回っていたところで、色葉は小さなざわめきを見つけた。


それは、遠いところから通う生徒のための寮の後ろ側だった。

そして、その集まっている女子達の顔に、色葉は見覚えがあった。


(…あれ、ココミ軍団?…)


ふと嫌な予感が頭をよぎる。

気配を殺し、会話が聞こえるギリギリの声まで近づいて、色葉は息を飲んだ。




「心美、まだ告ってなかったんだ………」

「でもさぁ、心美ちゃんの美貌で玲樹くんもイチコロでしょっww」

「チョコもあるし、最高のシチュでしょっ!心美、頑張れっ!!」




心美がまだ、玲樹に告白していなかったという事実とともに、色葉はもう1つの情報を聞いてしまった。




「でも、一花のあれ、すごかったねぇっ!!」

「通りざまシュッ、だもん!!もはや神じゃんっ」

「これで、あの色葉って子の告白は大失敗!チョコがなければ、ねぇーw」


(チョコが……ない?)




そこで改めて、色葉はチョコを入れていた手提げの中を見た。入っていたのは数個の中くらいの石だった。


猛烈な怒りに襲われ、色葉は今すぐにでも殴りかかりかけたが、ぐっと堪えて物音を建てないように移動する。



二人が見える位置まで来た時には、チョコは玲樹の手元にあった。

見覚えのないメッセージカードは、心美が付けたものだろう。でも、ラッピングは完全に色葉のものだった。




「……ありがとうっ、玲樹くんっ♡」



いつもよりも高い猫撫で声に、色葉は思わず身震いをする。




「ううん、大丈夫だよ?じゃ、早く教室にもどろ?」

「うんっ!!」




人の気配が消えたのを感じ取ってから、色葉は物陰から姿を現した。

大きな溜息をつきながら、寮の裏庭から出ていく……はずだった。




「にゃっ?!?!」




腕を大きく引っ張られ、裏庭に逆戻り。


(こんなこと、前にもあったようなっ……?!)


予想通り、というか。

倒れ込んだのは温かく、自分の体より大きな人の腕の中。




「……やっぱり、色葉か。」




ギュッと抱きしめられると、ほんわりと石鹸の香りがしてくる。それだけでも、色葉は泣いてしまいそうになっていた。




「なんで………」

「なにが?」

「なんで、優しくするの……?」




バクバクと、大きく高鳴る心臓を、色葉は一生懸命に押さえつける。

曇っていた空が、ゆっくりと晴れていく。




「心美ちゃんと……付き合うんでしょ……?」

「はあ?付き合わないけど。」

「……………へ?!?!?!」




裏庭に、色葉の素頓狂な声が響く。

上を見上げれば、玲樹の小さな笑顔があった。




「で、でも……ちょ、チョコ……貰ってたじゃん……?」

「ああ、あれ?あれはさ………」




衣服を挟んでいても伝わってくる玲樹の鼓動。

同じスピードで振動するそれは、生きていることの証。









「色葉のだったから。」











「あんなにシンプルな包装、あいつがしてくるわけないだろ?」



















「色葉が、好きだから。」
















本当に、時間って止まるんだな。

色葉は何もなく、そう思った。


嬉しい。


なんの意図もなく、純粋無垢な感情で、色葉はそう感じた。







やっぱり、好きって、すごい。







久しぶりに、色葉は純粋に笑った。




「私も。レイくんのこと、大好き……!」




季節外れの向日葵は、裏庭でひっそりと開花した。

水を自ら拒否し、蕾のまま生きてきたその花は、今、ようやく花開いた。




「チョコ、食べていい?」

「校則違反しちゃダメだよ?」

「ふうん………じゃあ、」




重なるふたつの影。


滑らかな口溶けの生チョコがもたらすのは恋の甘い味?

それともビターな苦い大人の味?




片思いまでの距離を、歩き、伝えた二人。

人を信じる?

そんなの、


信じてみてから、考えて。







ーーーーー



「そーいえば。一昨日も同じようなこと言ってたね?」

「あ……うん。」

「もしかして、それってヤキモ………」


「違うもん。」


「いや、多分そうだね。」

「違うもん。」

「ヤキモチかぁ………」

「違うから。」

「いや、俺としては嬉しい。」


「だから、違うんだってぇ!!」

出来ました!!!

取り敢えず、寝ますチ───(´-ω-`)───ン

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