プロローグ
「何故だ!」
悲痛を込めて目の前の存在に問いかける。
形は酷く曖昧で、靄に覆われた存在。親友から悪魔と呼ばれていた存在である。
確かに、こんな状況を生み出したことは悪魔の所業としか言いようがない。
「何故、俺が……」
チョークで描かれた奇怪な模様。曰く、悪魔を呼び出すための魔法陣らしい。
その中に一人立ち尽くす男の周囲には幾人もの人間が倒れている。
人間というにはあまりにも歪で、ただの肉塊となったそれらの中には彼の親友を紛れている。生きていることは微塵も期待できない。
だからこそ、彼は叫ぶ。
「俺はただ死にたいだけだ。こんなこと、望んでなんかいない」
涙こそ流れていなかったが、男の声は泣いているかのようだ。
「答えろ! 何故、俺を選んだ」
酷使された喉が痛みを訴えるのも構わず、男はひたすらに悪魔へ言葉を投げかける。
ふと、ただ揺れるだけだったはずの靄が初めて動きを見せる。
〈運命を呪うのならば、貴様に力を与えよう〉
「そんなもの必要ない。今すぐ俺を殺してくれ」
足元に転がる親友だった肉塊のように。
声には出さなかったが、彼の目からはそんな思いが読み取れた。
〈使いようによってはお前も死ぬことができるだろう〉
そうして、手に入れた力は――。




