30歳の誕生日を異世界で迎えたおっさん
「死んでも美しくない年齢になったな」
30歳になった最初の感想がそれだった。
僕という一人称も、自殺という言葉も、何もかもが相応ではない年齢になった。
家庭や結婚という言葉に憧れて、けれど、一歩踏み出す勇気はなくて。
漫然と過ごしてきた30年だった。
チャンスがあったようには感じないが、チャンスを掴もうともしていなかった。
状況してから出てきて6年経った。年収260万、非正規雇用の30歳になった。
友達も、彼女もいない30歳になった。
いつ死んでも構わないと思ってる。
もしも世の中の役に立って死ねるなら、死にたいと思っている。
「はー、誰も祝ってくれねぇし。神さまが誕生日プレゼントにダンジョンでもくれねぇかな。剣と魔法のファンタジー世界で夢を追って野垂れ死にしてぇよ」
はぁ、馬鹿らしい。
アホなこと言ってないでとっとと寝よ。
そうして、俺はいつも通りベッドに入った。
* * *
目覚めた瞬間、寝坊した感覚があった。
目覚ましが鳴っていない。
窓の外では太陽が昇りきっている。
「やっべ! 遅刻!」
飛び起きて携帯電話で時刻を確認しようとするが、枕元にいつも置いているスマホが見つからない。
脳みそが遅刻していることを知らせて、心臓がバクバク音を立てている。
慌てて窓の外を見て、異変に気がついた。
「あれ、これどこだ?」
窓の外が大自然になっていた。
杉っぽい樹木がたくさん生えている。
端的に言って、森が広がっていた。
よく見ると、部屋も昨日までの自分の部屋ではなかった。
木で作られたログハウス風の部屋……いや、多分これは小屋だ。
簡素な木製ベッドに、机、少し大きめ宝箱のような箱があり、壁には剣や槍がかけられている。
机の上には手紙が置いてあった。
混乱する頭のまま、手紙を手に取る。
『誕生日プレゼントで、ダンジョンを一つプレゼントしました。
玄関を出てすぐのところにダンジョンはあります。
最初なのであまり難しいダンジョンにはしていませんが、最深部のボスを倒した際に、より強力なダンジョンを出現させるか、もとの世界に戻るかを選択することが可能です。
小屋の中のものは自由に使って構いません。
ぜひ、ダンジョンを楽しんでください!
神より』
夢かな……ゲーム脳ここに極まれりって感じだな……あっ、なんか2枚目がある。
『なお、この手紙は3秒後、自動的に消滅します』
お、おう。なんかすごい光の粒子みたいになって手紙が消えてったよ。
爆発じゃなかったから、この神さまはド◯ロベエ様ではないらしいな。
とりあえずどうしよう……目の前に武器類はあるけど、着替えや食事類がないな。
夢じゃなかった場合に備えて、とりあえず所持品の確認でもするか。