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自作小説倶楽部 第13冊/2016年下半期(第73-78集)  作者: 自作小説倶楽部
第76集(2016年10月)/「米」&「笛」
27/43

06 らてぃあ 著  新米 『失踪』

「お邪魔しまーす」

 呑気な刑事の声に彼は内心舌打ちした。どうして家まで来るんだ。

「スリッパ借りていいですか」

 玄関内のスリッパラックを指さして聞く。相手の顔に張り付いたような笑顔が気に障る。

「どうぞ」

 彼は無理に笑顔を作りかけてやめた。俺は悲嘆にくれる夫じゃないか。

 彼の複雑な思考に気が付かず刑事は黒いスーツに似合わないピンク色のスリッパを取って履く。

「奥さんの書置きがあったのはどこですか? 」

「ええと。居間のテーブルの上です」

 刑事は今は何もないテーブルの上を一瞥すると。居間を見回して壁に目を止める。壁には額に入れた結婚式の写真が飾られている。白いウェディングドレスに身を包み彼女が幸福そうに微笑んでいる。あの幸福な彼女の隣に並ぶのは自分であるべきだ。という思いが今更ながらこみ上げて来た。

「結婚されたのは今年の6月ですね。どうして奥さんは家出なんてされたんでしょう」

「それはさっき交番で説明したとおりです。浮気相手がいた。天国から一転、地獄に落とされた気分ですよ」

「楽しそうですね。この写真」

 刑事が指さした写真には彼女が着飾った女友達に囲まれて笑っている。やっぱり彼女が一番綺麗だ。

「右端に写ってるこの男の人は誰ですか」

「確か、彼女の従兄です」

 本当はわからなかったが、彼は適当に答えた。まさか親戚に聴取に行ったりしないだろう。夫が捜索願いを出しているんだから。

「それでは、奥さんの部屋を見せてくれますか」

 期待は裏切られて刑事はさらに家探しをするつもりらしい。

「それは勘弁してください。彼女は自分の部屋に他人が入るのを極端に嫌がるんです。帰って来た時に人を入れたことを知ったら彼女が怒ります」

「そうですか。それでは、もう一度交番に来てくれるかな」

「何故?! 」

「とりあえず鍵の窃盗、不法侵入と虚偽申告かな」

 彼は刑事の眼が笑っていないことに気が付いた。


「よかったですね。被害者が軽症で」

 若い刑事は珈琲を入れて交番の手伝いから帰ってきた相方を労った。

「うん。監禁されていたショックはあるけど、ほとんど気絶させられていたからよく覚えていないらしい。海外出張中の本物の旦那さんは急きょ帰国するらしい」

「よく、家出人捜索願いを出しに来たのが本物じゃなくて。ストーカーだとわかりましたね」

「そりゃね。家出がわかって。すぐに警察に届け出するなんて人滅多にいないよ。大抵友人知人に電話したり、自分で探し回る。その上、家に行って僕が奥さんのものらしいスリッパを履くのも止めなかったし、結婚式の写真には花婿が写っていなかった。招待客の男が写ってる写真はあったのにね。花婿の写真だけ念入りに破り捨ててその他は目に入らなかったんだ」

「それにしても、どうして夫を装って届け出なんてしたんでしょう」

「交番の巡査は新米だったから容易く騙せると思ってたのかもしれないけど、彼女の失踪を隠す大した時間稼ぎにはならなかったろうね。どうしても彼女の夫を演じたかったのか。ストーカー行為だけじゃなくあらゆる点で妄想と行動が暴走する男だったんだろう」

 騒がしい夜勤明けに、何事もなく日が昇ろうとしていた。

     了

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