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自作小説倶楽部 第13冊/2016年下半期(第73-78集)  作者: 自作小説倶楽部
第75集(2016年9月)/「かげろう」&「風」
19/43

05 E.Grey 著  かげろう 『源平館主人4 公設秘書・少佐』

 //粗筋//


 衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。夏のある日、空き時間で、婚約者・三輪明菜と混浴温泉デートをした。訪れた温泉宿は、源平館だ。二人が湯から上がったところで銃声がして、駆けつけてみると、宿の主人が密室になった一階書斎で、拳銃を握っているのが分かった。被害者の身内三人が容疑者として浮上した。

    04 かげろう 

.

「可哀想な義父さん、誰がこんなことを……」

 当時、170センチもあれば背が高いほうだとされていた。養子・津下明は、血しぶきがわずかに付着しているカーペットをみて号泣した……。かなり大げさに。

少し落ち着いたところで、また、駐在の真田さんが、容疑者の一人である青年にきいた。

「君のお義父さんが拳銃で亡くなったとき、いた場所は?」

「レンガ小屋にいました」

「レンガ小屋だと? 明、またあそこにいたのか!」と口を挟んできたのは実弟で旅館番頭の次郎氏だった。

 初老の巡査部長が、次郎氏に問い返した。

「レンガ小屋っていうと……」

 真田さんの話によると、温泉成分には、火薬の原料の一つであるリンがある。現在でこそ石油から精製するのだが、かつては温泉地に近いところにあったリン鉱床から得ていた。戦後まもなくリン鉱山は閉鎖されてはいたが、関連施設はまだ取り壊されずに残っていた。レンガ小屋もその一つだった。近隣の不良青少年たちは、そこに侵入してはたむろし、パーティーをやっていた。パーティーは賭博や麻薬煙草喫煙というのがもっぱらの噂である。

 ――ドラ息子。これじゃ、養父の津下吉秋氏との間もこじれていただろう。

 義理の叔父にあたる旅館番頭・次郎氏によると、吉秋氏にも次郎氏にも実子がいない。明青年は遠縁筋から養子に迎えた。故人は、養子縁組解消を模索していたとのことだ。

 煉瓦小屋で、養子・津下明とパーティーをやっていたという連中に、県警は早速ウラをとってみた。――花札賭博も麻薬煙草喫煙も違法だ。そのためか、彼の〝友人〟たちは示し合わせたかのように、全員が廃屋にはいないと証言した。実際〝友人〟たちがどう証言しようが、日頃の行いから、警察は信じなかったろうけど。

 ともかく、養子・津下明にアリバイはないわけだ。

 殺人は、被害者が、右効きなのに、左手で拳銃トリッカーを弾いたように偽装したものだ。密室での自死にみせかけているのだが、フランス窓のドアの施錠は、フック式の内鉤で、犯人がでるときに、手でつまんでおき、しめる瞬間にパッと離せば、簡単に閉まるという単純なトリックだった。しかも、窓のドアの敷居には靴の泥が付着。寸法を測れば、犯人の足のサイズまで分かってしまう。――佐伯にいわせれば、超大間抜けな犯人。

 駐在の真田さんが、殺害された旅館主人津下吉秋氏の夫人、弟・次郎、養子・明といった容疑者三名の靴を押収、サイズを測った。26センチ。身長170センチくらいの身長の人物となった。

 該当者は養子の明青年しかいない。金持ちの養父から勘当されかかったドラ息子が、養子解消を阻止せんがために、殺害したというのが動機としてはもっとも自然だ。

 真田さんが佐伯にきいた。

「それにしても、明は何でまた、遺体の拳銃の利き手でないほうに握らせたんでしょうな」

「旅館外部による者の犯行にみせかけた。捜査かく乱のための偽装ですよ」

 佐伯が、フランス窓のガラス越しに、小庭をみやった。かげろうが露に濡れた葉にとまっているのがみえた。かげろうは数日の命がついえるまでに受精と産卵をする。その儚さは、細身で、いかにも頼りなさそうな明青年の旅館での立ち位置とダブった。

「――あとは〝うち〟が取調べをするよ」

 県警本部警部さんが津下明に手錠をかけた。容疑者の青年は、半ば呆然とした感じで、パトカーで、県警本部に引っ立てられていった。

 佐伯は煙草を真田さんに一本やり、ライターで火をつけてやった。

 ――えっ、こんなんで事件解決? 佐伯、あっさりし過ぎじゃないか!

 すると、真田さんと煙草をふかしていた佐伯が、私のほうをむいて、「明菜くん、お楽しみはこれからだ」とつぶやきはにかんだ。

 そうこなくっちゃ。

 (つづく)

  //登場人物//


【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。


【事件関係者】

●津下吉秋……源平館主人。被害者。

●津下夫人……吉秋夫人、源平館の女将。容疑者。

●津下次郎……吉秋の弟、番頭。容疑者。

●津下明……吉秋夫妻の養子。容疑者。

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