祠と痴呆
田舎の叔母の家の畑の裏に小さな祠がたっている。
痴呆の母それを見ていた。
哀れなほどの大きな母体で、その背中は曲がり、青いロングワンピースははちきれんばかりである。
その少年は、静かに晴れ渡る田舎の大空のような面持ちでその姿を目に移していた。
面の目尻のシワも笑窪もなければ光さえもない。
母譲りの黒い髪に異質な琥珀の瞳と白い肌に何を語ろうも、母は指摘した。
「私はね、呪われたんだよ。明日の歳になったらあなたもこの祠の先に飛ぶかもしれないわね。」
また阿呆な考えをしている。仕方がないか。痴呆だと思う日には少年は蒼白な色をした。
「お前もあっちの世界の住人と間違われてしまわぬようにしなさい。歪んだ瞳をすれば来てしまうよ。」
「どういうことですか?」
母体の面は虚ろになった。
黒い艶の髪は天然げにくるくると舞い上がる。
爽快な風とは裏腹に冷たい風が一瞬背中を押す。
少年は思わず一歩前に出た。
「色のつかない奴には、妖精どもがその器を欲しがりにくる。あんたも良き物怪に合われますようねがっているよ。」
気をつけて。との一言を言って、頑として動かない場所を軽々とさっていった。
痴呆な親の子は無関心であった。