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絶望の中で

歩き続ける京都の街・・・・

ロマンティックに雨でも降ればひとみの涙も少しは流れたかもしれないのに

そんな気配は全く無くて、ただ繁華街の喧騒の中、行く当てもなく彷徨っていた。


喧嘩しているカップルを羨ましそうに横目で見ながら、繁華街を通り抜け

ひとみは何も考えられず、頭の中は空っぽのままただ延々と歩いていた。


どれくらい歩いたんだろう。ふと顔を上げると、明かりが見えた。

いつも行く喫茶店だった。

ひとみは知らず知らずバスで10駅分の距離を歩いていたのだった。

「疲れた・・・」ひとみはやっと意識を取り戻したかのように呟いた。


ドアを開けた。「いらっしゃいませ~!」聴きなれた声が出迎えてくれた。伊藤さんだった。

そうか、まだコーヒー飲みに来てから一日経ってないのか。

ひとみはもう何日も経ったような感覚しかなかった。

伊藤さんの顔を見て現実に引き戻された。

そして安田君とのさっきの会話も思い出した。涙が・・・《零れた》


目の前にスーッとコーヒーが置かれた。顔を上げ伊藤さんを見た。

何も言わず、黙々とコーヒーを入れていた。その沈黙が有難かった。

コーヒーを口にした。少し苦くて、とても温かかった。


1時間ほど過ぎてお客さんがいなくなったころ、ジャスミンティーの香りがした。

「サービス!」と差し出されたその瞬間に涙が止めどなく流れ出した。


「ごめんなさい・・さよならって言われちゃって」ひとみはやっとの思いで声にした。

伊藤さんは手を止めて、こちら側に顔を向けいつもと変わらない声のトーンで話し始めた。

「庇うわけじゃないけど、あいつも悩んで悩んでだした結果やと思うよ」

「知ってたんですか?」

「相談は受けてた。どういう結論を出すかは聞いてなかったけど」


悩んでいたんだ・・私、何にも気付いてなかった。毎日が楽しいばっかりで、一緒にいることが当たり前で、将来のことなんて考えてもいなかった。

彼が大学生で、人生を左右する時期にいることすら頭に無かった。


気付いてしまった自分の愚かさにひとみは呆然としていた。

「ひとみちゃんは純粋やから、色々考えて自分自身を悪くおもってしまうかもしれない、その事が心配やし辛い・・・って安田は言ってた」そういうと伊藤さんは仕事に戻った。


これからどうしたらいいんやろう・・・結論がでないまま御礼を言って店を出た。

今更寮にも帰れない。私にはもう行くところがないんだ。


何をしていいかもわからず、鴨川の辺に佇んでいた。


「ひとみーーー!!」聞き覚えのある声がした。彼じゃないことはわかっていた。

それは久しぶりに見る由宇の顔だった。

彼女は横に腰を下ろして静かに話し始めた。


「伊藤さんから大体聞いた。ひとみどうするん?」

私は答えが返せなかった。

「安田君も自分で答えを出したんやし、こんどはひとみが出す番よ。いつまでも自分の人生を人に決めさせたらアカン。今日はうちにおいで、でも今日だけやで。いつまで考えても前に戻ることは出来んのやからさ」


相変わらずスパーーんと言ってくれるわ。でも今の私には心地いいくらい丁度いい。


由宇の家に泊まって一晩寝ずに考えた。由宇は何も言わず横に座ってゲームをしていた。

外が白み始めた頃には驚くほどスッキリした自分がいた。


淹れてもらったコーヒーをのんでいたら、咥えタバコの由宇が横に座った。

「決めた?」一言だった。

「うん、決めた。」私の返事に彼女はニッコリと微笑んだ。




ひとみの恋は終わった。彼女の結論は【実家に帰る】ということだった。

後戻りのUターンじゃなく、次に進むためのものなんだと彼女は笑って京都を後にした。


自分の人生は自分で決めていく。そう決心してからひとみは少し強くなり、とても明るくなった。








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