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最後の挑発

翌日、事態は動いた。竜崎が危惧しつつも阻止出来なかったスク水窃盗が再び起こってしまったのである。被害者は豊郷愛(トヨサト アイ)。内気で可憐な少女であった、、、


手口は先の西宮の件に同じく、そして今回もまた幾重に重ねたジップロックに密封されたトランクスが東の手から竜崎に手渡された。例の如く、その無地のトランクスには犯人からのメッセージが几帳面な文字で書かれていた。


ーー竜崎、オ前ニ俺ハ、止メラレナイ、、、


確実に同一犯による犯行だ。ゴム地の部分にまたヤスの名前が書いてあったのだ。


「もう、ヤスでいいんじゃないのか?」


竜崎が呆れている。


「そうね、彼、アキバ系とか好きそうだしね。」


東も危うく彼を犯人にしかけている。ああ、したたかに否定して、ヤスの肩を持つ人はいないのか。


そして、その会話を遠目に見ていた一人が水を差す。


「、、、何でひとり増えているんだ、竜崎?」


合唱部部長の歌川友尚は奥歯を歯ぎしりさせている。なぜ、東がそこにいるのかというと、要するに彼女は水泳部の部長でもあるのだ。部の危機にあたり、探偵好きな竜崎に助けを求める構図となったのだが、それ以上に、彼女も差し当たり、この手のミステリーが嫌いではないのだ。


とりあえず対策を練らなくてはならない。明日の部活で竜崎を交え、部会を開くこととした。


その翌日の部会にて。新入生の大垣陽奈(オオガキ ヒナ)が泣き出した。彼女は3人目の被害者であるのだ。そして今回は彼女ひとりではない。犯人の悪しきパトスは留まることを知らず、彼女に加え、中津川夢乃(ナカツガワ ユノ)、更に塩尻ひなた(シオジリ ヒナタ)の計3人が被害に遭ったのだ。そして今回は流石に間に合わなかったのか、1枚のトランクスを3つに裂いて、それぞれの水泳カバンに入れられていた。


部長である東は部会を始めた。


「みんな、事件のことは十分に知っていると思います。一人目の西宮さん、それに続いて豊郷さん、更に昨日にも犯行が繰り返され、大垣さん、中津川さん、塩尻さんを加えた、現時点では5人の学生が被害に遭っています。」


東は慣れた手つきで黒板に名前を書いていく。


「ここで気になるのは、被害にあったみんなの苗字です。」


そう言うと、いつからそこにいたのか、ヤスこと、秋葉康夫が丸めた大きなポスターを持って前に歩いて行った。


「これ、本州の鉄道路線のポスターなんですけど、僕、小さい頃から鉄道が好きで、、」


彼はそう言うと、たどたどしくポスターを黒板に貼り付けた。

東が続ける。


「この路線に注目して下さい。まず、山陽本線。ここ、尾道が私たちの学校がある場所です。」


ヤスはJR尾道駅の場所に、赤いプラスチックのマグネットを付けた。


「そして、一人目の被害者が西宮さん。二人目が豊郷さん。」


ヤスがそれに続ける。


「西宮は、尾道の東、兵庫県にある都市です。そして豊郷は琵琶湖畔の町。共に、某アニメーションの舞台モデルとなっていて、、、」


東が彼の脱線しつつある話の続きを制しつつ、西宮駅と豊郷駅の位置に赤いマグネットを付けた。


「ここまで言えば分かるわね。3人目の大垣さん、4人目の中津川さん、続いて塩尻さん。みんな、JRの山陽本線と中央本線にある駅名と同じ名前の生徒が選ばれ、それに従って目標が決められています。」


東はそれまでと同じく、マグネットをそれら3つの駅に付け加えた。


「つまり、ここ尾道に始まり、JRの路線に即して東に向かってターゲットが決められていると。」


竜崎がそう言うと、部の何人かがはっと目を見開いた。


「そしてこの部には中央線の駅名と同じ苗字を持つ学生がまだいる。」


竜崎は水泳部員の名簿に目を落とした。


「次はおそらく、高尾文月(タカオ フヅキ)さん。」


高尾も勘付いてはいたのだろう。割に冷静な素振りでうなづいた。ただ、どうすれば良いのか分からない。


「そこで、、、」


東が口を開いた。


「明日から部の全員が、部活のある日は水着着用で登校してもらいます。水着の上に制服を着て来るのです。」


竜崎の鼓動がやや荒ぶり、彼は「コラボレーション!」との意味不明な一言を発しつつ、スカイツリーの高みよろしく起立せんとする衝動を抑えるのに必死であったのだが、その代わりに起立したのは担任の瀬川であった。そして大声で「否!!」と叫ぶ。勢いに負けたパイプ椅子が畳まれつつ倒れる音が響いた。


竜崎は小声で東に聞いた。


「何で担任の瀬川がここに?」


東が答える。


「瀬川、女子水泳部の顧問なのよ。」


瀬川は牛乳瓶の底のような眼鏡をズラしたまま、必死に抵抗する。


「そ、それは許されるに及ばざるこ、ことであります、許されない。」


明らかに動揺して続ける。


「第一、部活を終えた後はどうするんだ。」


確かに、と東は閉口し、丸め込まれてしまった。

それを見た瀬川は、勝利を過信したかのように矢継ぎ早にまくし立てる。


「ほら見ろ、水着を着たまま登校なんて、無理、無理であろう?」


息が荒い。


「今日の部会は終わりだ、終わり。顧問の命令だ。」


瀬川はドヤ顔で教壇の位置から竜崎を見下していた。竜崎も狂気の瀬川に返す言葉がない。


この瀬川という人物、いかにも怪しい。そう思う竜崎や東の疑念に気にもかけず、犯人の犯行が止まることはなかった。

予想通りに高尾文月のスク水が盗まれた。そして水泳部の部長である東京、すなわちJR中央本線の一端をなすJR東京駅へと、悪の魔列車は淡々と駒を進めるのであった。


ーー覚悟セヨ、東京(THE LAST ST. OF THE TRAIN)


油性マジックの筆跡と、無地のトランクスを残して。

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