ケッセン・ノ・ゼンヤ
紅蓮騎士団本拠地地下。スーツを着たサングラスの男が階段を降りている。光源は壁についている松明だけでその松明も少ないため、かなり暗い。そんな状況にも関わらず男はサングラスを外そうとはしない。そして、その階段も終わりを告げる。目の前には巨大な扉。男は扉を開ける。中はかなり暗く、光源も中央にある松明だけである。
「よく、来た。アレン………」
部屋の奥に座っている男が言う。中にいる人はその男しかいない。
「久しぶりだな。アナザー」
アレンが椅子に座る。
「それで、俺たちに気付いた人間がいるな。どうするんだ?」
「どうもしない。攻略で奴らは決着をつけようとする。私はそれに応じる。彼がこのプログラムを持つべき男なのかどうかを見極める」
アナザーがメニューを操作して出したのは赤と黒の立方体。立方体にはJokerと書かれている。
「ジョーカープログラム。お前が作り上げたプログラム。貴様が何を考えて作ったのかは俺でも知らない。一体貴様は何を考えているんだ?」
アレンの言葉にアナザーが答える。
「私は夢の世界。かつての理想郷があるのかを知りたいのだよ。そのプログラムは理想郷の為の鍵。人々の真実をそこに入れた。彼が真実をどう受け止めるかを知りたい」
「そんな理由があったとは。まあ俺は見させて貰う。貴様と彼の道を………」
アレンはそう言って席を立つ。そして部屋を出て行く。アナザーは1人で呟く。
「全ての決着をつけよう。龍現…………」
第100層、レギオンの店。
レギオンの店に対アナザーのメンバーが揃った。
「結局、フェリスはどうだった?」
タケルがクレイルに言う。クレイルはその言葉に答える。
「メッセージは送っとた。けど返信が無いな。それに団長がどう動いているのかも分からない………」
「連絡手段が無いからな。まあ、必要になれば向こうから来るだろう」
タケルがそう言う。
自己紹介はある程度し終了している。レギオンが話を始める。
「ここに集まったのは、まあ、顔合わせみたいな物だ。先程、自己紹介の時に職業やスキルを紹介したはずだ。それを元にどう動くか決めてくれ」
「いつもの事だけど、締まらないわね。レギオン」
アインがレギオンに向かって言う。
「こういうの初めてだならよく分んねえだよ」
そうして、レギオンの店で対アナザーへの作戦会議が始まった。
その頃。現代の世界のどこか。
すっかりと夜になり、街灯も幾つかついている時に高層ビルの屋上に2人はいた。
「久しぶりだなリーダー。いや、ゼノン」
「その言葉を返すぜ。アレン」
陽炎軍団のリーダーであるゼノンとアレンはそこにいた。2人共、途轍もない殺気を放っている。
「ここに来たことは俺を排除するためか?」
「その通りだ。今日ここで、貴様を殺す」
ゼノンの右手にはいつの間にか本が握られていた。本には血らしきものがところどころについている。
「『大魔神の古文書』。このゲームのあらゆるスキルが書かれた本」
ゼノンがそう言う。アレンはフッと笑う。
「貴様がそれを出すとは本気だな。ならば俺もこれを使おう」
アレンはポケットから注射器を出す。注射器の中には紫色に光る液体が入っている。それを首に刺す。
「『デビルウィルス』。悪魔の卵。それを完成させていたとはな………」
「あの時は未完だったが、これは完成品だ。量産した兵士とは全てが違う」
そう言ってアレンは走り出す。速度はかなり早い。ゼノンも本を開く。
「ふん!!」
アレンの正拳突きはゼノンの体に当たるが、ゼノンはビクともしない。
「お返しだ。受け取れ」
ゼノンの拳にオーラが集まる。ゼノンは拳をアレンに叩きつける。床にひびがはいる。
「『ガトリングナックル』!!」
ゼノンは片手で恐ろしい速さで殴る。それも連続で。姿はクレイルの『マシンガンナックル』に似ているが、速さが段違いである。
「どこに向かって攻撃をしている!」
アレンはゼノンの後ろにいた。ガトリングナックルで殴ったところは藁人形が置かれている。
「『傀儡人形』。めんどくさいスキルだな!」
「そう言うな。ここからならとったぞ!」
ゼノンの背中に向かって正拳突き。だが、その攻撃がゼノンに届くことはなかった。
「『天雷』!」
ゼノンは体に電気を纏っていた。そしてアレンの周辺に大量の雷が落ちる。
「まだまだ! 『雷刃旋風』(らいじんせんぷう)!!」
アレンの周辺に落ちた雷が竜巻を作る。アレンのあらゆるところに切り傷が出来る。
「この痛み。それこそが俺を強くする! 『道化師の鏡』(マジックミラー)!!」
アレンの周りの竜巻が消える。アレンの後ろにピエロの人形が装飾された巨大な鏡が現れる。
「結構なダメージを与えたつもりだったけど、それで吸収出来たか!」
「さっきの攻撃はよかった。だが、俺を倒すためにはもっと威力がいるぞ!」
「だったら…………!!」
ゼノンはポケットからヨーヨーを取り出す。普通のヨーヨーでは無く、本体に刃がついており、その刃が回転している。
「そのヨーヨー。小型のチェーンソーみたいな物か………。それを食らったら確実に肉を抉り取られるな」
「そこまで分かってんだったら1度食らってみろ!」
ゼノンはヨーヨーをアレンの方へ投げる。ゼノンとアレンの距離は軽く5mはあったが、ヨーヨーはアレンを捉えている。
(5m以上も飛ぶヨーヨーか………。更に速い! これは紐じたいを切った方がいいな)
アレンは手刀でヨーヨーの紐を切ろうとするが、弾かれる。
「その紐はオリハルコン製。簡単に切れる物だと思うなよ!」
ゼノンは本をしまい、もう片方でヨーヨーを出す。出したヨーヨーは今アレンを攻撃しているヨーヨーとは違い、本体の周りに金属の塊がついている。軽い鈍器みたいな物になっている。
(2つ目は鈍器だな。あれなら、回避は簡単か…………?)
ゼノンは今飛ばしているヨーヨーを手に収める。ヨーヨーの周りの刃は閉じている。
「これが、ただの刃物と鈍器だと思ったか? それなら、お前は今までの戦闘で何も学習していない事になるな!」
アレンの腕から出血している。アレンがヨーヨーが飛んだ事を認識する前にヨーヨーはアレンの腕の肉を抉り取った。
「っ!!?」
「『音切刃』。今のヨーヨーの速度は音速だぜ。さらに刃物の方は刃が音速で回転している。次は腕そのものを持っていくぞ!」
ゼノンは鈍器の方のヨーヨーを飛ばす。2つ共、速度は常人が認識出来るレベルを超えている。それをアレンはギリギリで回避する。
(音速は厄介だが、回避は難しく無い。この『鷲の目』があるからな)
『鷲の目』。タケルが持つ『鷹の目』程強力では無いが遠距離武器の軌道が分かるスキル。幾らヨーヨーが音速を超えているとは言え、軌道が分かれば回避は容易い。
(『鷲の目』使ってんな。『鷹の目』程厄介では無いが、それでもめんどくさいな。それの弱点を突くしか無いな)
ゼノンの袖からヨーヨーが出てくる。大した装飾はされておらず見た目は普通のヨーヨーである。それを投げる。
「っ!!!?」
刃物がアレンの腕をしっかりと掴んだ。刃が高速で回転している。グチャグチャと音を立て、アレンの腕を抉って行く。
「『鷲の目』の弱点。それは、視界が極端に狭くなることと、複数には対応出来ないということだ!」
ヨーヨーはアレンの右腕を完全に持って行った。腕は床に落ちる。
「流石だな。俺の腕をもっていくとはな………。俺もそろそろ本気で戦うか…………」
右肩から、何かが出て来る。それが形を作っていく。一瞬で元の腕になる。
アレンは姿勢を低くし、右腕を前に出す。
(奴の本気。瞬間掌打が来る!)
その時ゼノンの視界からアレンが消えた。アレンはいつの間にか自分の後ろにいた。少ししてから足と腕に衝撃とゴキリという鈍い音がなる。
「その攻撃は相手が認識する前に攻撃が終わり、音と衝撃が後に来る攻撃。その速度は音速すらを超える。だがお前の体もただでは済まない」
「その通りだ………。これは諸刃の剣だ。ウィルスの再生力を持ってもこれは流石に再生し切れない」
アレンの全身から血が吹き出している。スーツも血だらけになっている。
「次は決着をつけるぞ。ゼノン。いや陽炎軍団」
「待っているぞ。アレン。陽炎ナンバー0」
そうして2人は何処かへと消えた。
第100層。大浴場の宴会室。
ここは、日々宴会並みに人々が酒を飲み、食べ物を食べるところである。その隅に2人はいた。
「とうとうだな。ジョッシュ」
ライガがジョッシュに向かって言う。ジョッシュは一口ビールを飲んで話す。
「ああ。俺は俺に出来る事をやるだけだ」
「その通りだな。ここで全ての決着をつける」
第100層の街の外れ。
タケルの目の前には巨大な滝。全長1000mは軽くあると思う滝。落ちて来る水も爆音みたいな音を立てて落ちて来る。そのせいか、周りにはタケル以外の生物は何もいない。
(これを正確に使えるか試してみるか………)
タケルは上の服を脱ぐ。体は高校2年生とは思えないくらいに筋肉がついており、胸板はかなりがっちりしていて、腹筋も8つに別れている。(このゲームは現実の自分の体を元にするため、この体は現実の物と考えていい)
タケルの体にオーラが集まっていく。腕と足の部分は特にオーラが強い。
(この滝はスペースシャトルを並行に発射しても、スペースシャトルが水によって破壊されるくらいの防御力。これで斬れればいいんだがな)
1度だけ、この滝に向かってスペースシャトルを発射した大馬鹿ものがいた。理由は至極簡単。この滝を貫けるかどうかを知りたかったらしい。
この滝は縦は1000m。横幅は500mと。あの滝に突っ込もうものなら全身が木っ端微塵になるだろう。それを貫けるかどうかという実験をしたのだが、スペースシャトルは100m地点にすら到達出来なかった。
タケルの腕にオーラが溜まる。そしてタケルは腕を1つの刀に見たてる。そしてそれを右から左へと振る。水が豪快な音を立ててあるでモーゼの十戒の如く滝の水は斬れた。
(感覚としては30%ぐらいだな。これを戦闘までに完璧に出来るか………?)
レギオンの店。タケル以外のメンバーは作戦会議の休憩として、食事をとっていた。
「あれ? タケル君はどこに行ったの?」
アリサがクレイルに聞く。
「あいつなら、技の調整に行ったぜ。1つ言っておくけど、追うなよ。最悪デッドマンだぞ」
「あいつ、そんなに危険なのか? いつもは大人しい感じなんだがな〜」
「あいつ、多分、陽炎の中で1番の危険人物ですよ。まあ、あいつがあんなんになるのは、余程の理由がある時だけですよ」
「ふ〜ん。そんなもんかね………」
そして、第100層攻略戦。
ダンジョンのボス部屋の前まで、攻略班は来ていた。普段の攻略班にイオナとアイン、レギオンやロイヤルナイツ、そして最後の人間。アナザーがそこにいる。
「これより、ボス部屋の攻略を開始する! 全員進め!!」
アナザーがボス部屋の扉を開ける。攻略班がボス部屋に入って行く。
「ボスがいない? 皆! 索敵スキルを使って!!」
アリサがメンバーに呼びかける。幾ら索敵スキルを使っても相手を見つける事が出来ない。そして後ろから誰かが叫ぶ声がする。
「アナザー!! そこから動くな!!」
その声はボス部屋の入り口から聞こえる。タケルはその声の主を見る。タケルはその顔に覚えがあった。レギオンの店で彼の写真を見た。
「おやおや、もう来てしまったか………」
アナザーがそう言う。ライガの目はまっすぐとアナザーだけを捉えていた。
「貴様がこのゲームの犯人という事はある男から聞いた! ここで全ての決着をつける!!」
もう1人、ライガの横に立つ人物、ジョッシュ。
「そこまで知っているなら仕方無い……。ロイヤルナイツ戦闘態勢! 目標! そこにいる2人だ!!」
ロイヤルナイツがライガとジョッシュの2人に襲いかかる。その時、ロイヤルナイツに向かって何かと何かが跳ぶ。1つは小型の何か。1つは人間。小型の何かはロイヤルナイツの鎧を破壊し、人間は袖から出した刀でロイヤルナイツを斬る。
「ほう、これは珍しい人間達だ。久しぶりだなゼノン、陽炎」
ライガとジョッシュの後ろから2人分の足音が聞こえる。1人は両手に大量のスーパーボールを持っており、1人は両手で計8個のヨーヨーを持っている。
「てめえのそのムカつく面をまた見れるとは思わなかったぞ。アナザー」
「そんなにカッカしないで下さい。リーダー」
2人はゼノンとガオウであった。
「これは、分が悪いな。私も助っ人を呼ぶとしよう」
その言葉を聞いた瞬間、ゼノンは走る。そしてヨーヨーを全てアナザーに向かって投げる。だがそれは何者かによって弾かれる。
「さて、昨日の決着をつけようぜ。アレン!」
「その言葉は私も言いたかったな。なら、来い! ゼノン!!」
ゼノンvsアレン。戦闘開始。
「アレンだけでは足りないな。なら私はもう1人助っ人を呼ぼうとしよう」
アナザーが指を鳴らすと、奥から足音が聞こえる。その足音は何より重かった。ボス部屋の中心にボスバトル開始というウィンドウが出る。
「ヴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
見た目はティラノサウルスだが、肉がとれ、骨だけで動いている。ボス名は『スカルザウルス』。HPゲージは10本。今まで出て来たボスよりかなり強い。
「あんなの、どうすればいいんだよ………」
攻略班の1人がそう言う。恐怖は伝染していき、攻略班のメンバーは逃げ出す。無論残っている人間もいるが
「攻略班なんて、大きな看板ぶら下げているけど、腰抜けの集まりじゃない」
「そう言ってやるな。可哀想だろ」
アインとレギオンがそう言う。その横でフェリスとクレイルが会話している。
「ドウヤラワタシタチノアイテハ、ヤツネ」
「久しぶりに退屈しなくても済みそうだな。グレイ。何時でもあれを使えるように準備しとけよ」
「分かっている。ということは俺たちの相手は奴だな」
アイン、レギオン、フェリス、クレイル、グレイvsスカルザウルス。戦闘開始。
また別のところでは堅将ダスクと剣帝アリサ、その相棒であるイオナがそこにいた。
「まさか、私の補佐官が敵になるとはね」
「私はアリサ様に従っていたのではありません。アナザー様に従っていたのです」
「そう、それなら全力で戦えるわね!」
「アリサちゃん! 私も忘れて貰っても困るよ!!」
アリサは剣を抜く。ダスクは盾を構える。イオナは盾と槍を構える。
(タケル君に渡された薬。何時でも使えるように準備しておかないと……)
アリサの手には小型の瓶があった。昨日タケルに渡された物である。
「アリサ。ちょっと来てくれるか?」
「え、どうしたの?」
タケルがアリサを呼ぶ。タケルはアリサに小型の瓶を渡す。
「この薬を飲めば少しの間、自分の限界を超えられる。だが勿論副作用がある。使い所は考えろよ」
(私はこの戦いに勝って、タケル君に現実で告白する。それまでは、誰にも負けられない!)
アリサ、イオナvsダスク。戦闘開始。
「まだくたばってはいなかったなタケル」
ガオウがタケルに向かって言う。タケルはフッと笑う。
「まだまだ死ぬ訳にはいかないさ」
「しつこい事で」
タケルとガオウにライガとジョッシュが近付く。
「お前が死神のタケルなのか?」
ジョッシュがタケルに向かって言う。
「そうだ。という事はお前がライガとジョッシュか?」
「そうだ。お前は何処に行く? どちらにしろ地獄だが」
残っているのはアナザーかロイヤルナイツ。タケルとライガはアナザーの方を向き、ガオウとジョッシュはロイヤルナイツの方を向く。
「主役はいつもお前だろ? アナザーはお前が潰せタケル」
「そういう事だ。ライガ。しっかりと総司令の仇とってこい! そして現実でこの4人で飯でも食いに行こうぜ!」
ガオウとジョッシュの言葉にタケルとライガが返す。
「そうだな。俺にはまだ、死ぬ訳に行かないんでね。しっかりと主役を勤めさせていただきますよ」
「俺もここで、総司令の決着をつけ、全てを終わらせる!」
タケル、ライガ、ガオウ、ジョッシュ、行動開始!