モノガタリ・ト・モノガタリ
タケルとクレイルはダンジョンの門の前まで来たのだが、警備がかなり厳しい。門には4人の警備がいる。タケルとクレイルは目線で話す。とった作戦が正面突破だった。それも堂々と歩く。プレイヤー達は、タケルとクレイルに目線が行く。そして門の前に立つと警備に話しかけられる。
「お前、攻略班か? ダンジョン攻略までは時間があるぞ?」
タケルとクレイルは無視して門を通ろうとする。警備に行く手を阻まれる。
「おい! 何か言え! 仕方無い……少しついて来てもらうぞ!!」
タケルの腕を掴まれる。タケルは警備を睨む。冷たい空気というところの話では無い。タケルから圧倒的なプレッシャーが放たれている。何人かは震えて行動が出来ない。タケルの腕を掴んだ奴に限っては顔面が恐怖に支配されている。タケルは警備を腕を離し、門を通る。
「あれが王者の圧力か? 随分と凄いユニークスキルだな」
ダンジョンの最初の地点でクレイルが言う。
「ぶっつけ本番だったんだけどな。早く行かないとめんどくさいぞ」
「分かっている。それじゃあ行くか」
タケルとクレイルが走る。ほぼ一本道なため、迷いが無い。タケルは若干嫌な予感がしたけど…………。
その頃、攻略班の基地では門の事についてで大騒ぎである。
「私の部下が門を通すとはな。奴らは再び鍛え直さないといけないな」
門の警備をしていたのは王龍騎士団のプレイヤーであった。堅将の部下であり、腕は確かである。
「早く向かった方がいいですね。今動けるプレイヤーを連れて、ダンジョンの向かいます」
「了解しました。アリサ様。猛将にも声をかけます。準備に取り掛かります」
堅将が準備をし始めた。それを見て、剣帝も装備などを整え始める。
ダンジョン内部では、タケルとクレイルがモンスターを討伐している。タケルの嫌な予感は見事に的中した。モンスターハウスという、大量のモンスターが湧き出す罠にかかった。これは流石にタケル達も苦戦する。第60層の敵は意外と強い。もう既に100体ぐらい倒している。
「クレイル! お前の不幸属性のせいで、めんどくさい罠にかかったじゃねえか!!」
「んな事を俺に言うな! 口を動かす前に手を動かせ!!」
「少しは運にもステータス振れ! ダンジョン行くたんびにこれはヤバイぞ!!」
「運に振るぐらいなら肉体に振るね! 最終的には己の肉体が最強なんだよ!」
この2人は会話しながら、全方向から来るモンスターを倒しているから、化け物である。クレイルはステータスを肉体や敏捷、回避と言った戦闘に関わる物しか上げていない。戦闘では頼りになるが、それ以外は全く出来ない。その辺はタケルやフェリスに任せていたが……
「ガトリングナックル!! 吹き飛べやあ!!」
固まっていた敵は吹き飛ぶ。ガトリングナックルは両手で高速パンチを繰り出す技である。
「俺はあんな派手な技持っていないんだよな。適当に吹き飛べ!!」
タケルが取り出したのは、ソードオフショットガンの二丁持ち。ゲーム上の性能では余り拡散しないが、ばら撒けばそれなりに使える。
「次は、これだ!!」
スコーピオンの二丁持ち。全方向に向かってばら撒く。モンスターはどんどん穴だらけになっていく。
「ダイナマイトナックル!!」
クレイルの手がオーラに纏う。地面に拳を叩きつけると轟音と共に爆発する。タケルも危うく巻き込まれそうになる。
「クレイル! お前、周りの被害も考えろ! 危うく巻き込まれるところだったじゃねえか!!」
「回避したから、いいだろう。けどこれで一掃出来たぞ」
群がっていたモンスターがいなくなっている。タケル達が進もうとすると、足音が聞こえる。
「ちっ……。思ったより早かったな。どうする?」
「逃げ切る。行けるな?」
「俺もお前と同じ神速持ちだぜ。すぐに振り切るさ」
タケルの問いにクレイルが答える。2人は姿勢を低くして走る。ボスの部屋まで止まらないつもりでいる。
「数は少ないな。10人ぐらいか……。攻略より、俺達の確保だろうな」
「このまま一気に攻略するぞ! 準備しとけよ!!」
「分かってるよ。 先制はお前が行け。お前なら先制攻撃で確実に大ダメージを与えられる」
タケルの能力は先制攻撃でかなりダメージを叩き出せる。だがそれ以降は余り多くのダメージを出せない。先制はタケルに任せ、そこからはクレイルが戦闘、タケルがサポートという形になる。クレイルは格闘戦特化でどんな時でも安定したダメージが出せる。
タケルとクレイルはボス部屋の前まで辿り着き、躊躇無く扉を蹴破る。
「ここがボス部屋だな。結構広いな」
「準備しろ、タケル。来るぞ!」
青い炎が展開される。中心に巨大な紫色のガイコツ。手には大剣をもっている。背中には大太刀がある。タケルは今までに見たことの無い敵である。
「一応言うが、警戒しろよ。見たことの無い敵だ」
タケルがクレイルに言う。クレイルは頷き、手に巻いている包帯を外す。
視界の中心にウィンドウが表示される。ボスの名前は『スケルトンエンペラー』というらしい。聞いたことの無い名前だと思う。
「まずは、先制!!」
タケルはドラグノフで狙撃する。弾丸は大剣によって防がれる。スケルトンエンペラーは、タケルに向かって攻撃を開始する。
(今までのボスと違う! 確実に上位AI。行動に無駄が無い!)
スケルトンエンペラーはタケルに向かって攻撃するが、ただ剣を振り回すだけでは無く、反撃をされないように攻撃し、タケルが回避して、着地地点を攻撃する。常に最短距離での攻撃なので、回避にも結構苦労する。それだけでは無い。タケルは何と無くだが、スケルトンエンペラーはクレイルにも警戒している。全く持って油断ならない相手である。タケルはクレイルの近くに行く。
「作戦変更だ。クレイル。俺が奴を引き付ける。敵を動きが止まったら俺ごとやれ。しかも全力で。いいな」
「分かった。行くぞ!」
タケルはスケルトンエンペラーに向かう。両手にはナイフを持っている。タケルの連撃が続く。タケルは攻撃しながらだが、スケルトンエンペラーの防御に無駄が無い事に気付く。
(下手したら、反撃食らうな。攻撃をやめたらいけない。このまま一気に行く!!)
タケルの攻撃は終わらない。スケルトンエンペラーは防御だけでは無く、回避もするため中々動きが止まらない。
(貰った!!)
回避した時、一瞬だけ隙が出来た。タケルは、スケルトンエンペラーの足に針を突き刺し動きを止める。
「クレイル! 行けえ!!!」
後ろからクレイルが両手にオーラを纏いながら、タケルもろとも攻撃する。
「ビックバンナックル!!!!」
クレイルの攻撃はスケルトンエンペラーに当たり、タケルを巻き込む。爆発が起き、ボス部屋の中じゃなく、ダンジョン全体に衝撃と轟音が走る。
攻略班は数は10人くらいで謎のプレイヤーを追跡していた。その途中で轟音と衝撃が走り、天井が崩れる。
「『千本剣』(サウザンドソード)!!」
崩れる天井を剣帝の剣術によってバラバラになる。
「なんだ、これは!! くそ! 『業火の太刀』!!」
和風の鎧を着る男が太刀に炎を纏って落ちてくる天井を破壊する。更に炎が攻略班全員の盾となって落ちてくる天井を塞ぐ。
「アリサ様! 猛将様! どうやらボス部屋からです!! 急ぎましょう!!」
剣帝、猛将、堅将はボス部屋に行く。ボス部屋の扉は開いており、中心には巨大なクレーターが出来ていた。
「クレイル。確かに巻き込めと言ったけどあれはねえだろ」
「正直、やり過ぎたと思っている。けど、倒せたぜ」
巨大なクレーターの中心には2人の男が寝転がっていた。ボス部屋の中心にはボスを倒したというウィンドウが表示されている。誰かが来る。数は3人、タケルはどうするか考えていた。
ちなみにクレイルが放った技は『ビックバンナックル』。クレイルの最強クラスの技で決まれば殆どの敵は一撃である。
「さて、見つかったがどうする?」
「逃げる気力も無いし、捕まっとくか………」
タケルが聞き、クレイルが答える。ボス部屋に入ってきたのは3人で相当な実力者とみる。3人がこちらに向かって来る。
「アリサ様、待って下さい。相手が何者か分からない以上、接触は避けて下さい!」
西洋風の鎧を装備している男が紅蓮騎士団の制服を着た女性を止めている。女性は歩みを止めない。
「あんたが、有名な剣帝様か?」
タケルが女性に向かって聞く。女性は落ち着いた声で答える。
「はい。私が剣帝アリサです。ここのボスを2人で倒したのですか?」
アリサの言葉にクレイルが答える。
「そうだぜ。少なくともお前らより強い自信はあるぜ」
クレイルが3人向かって言う。堅将らしき男が前に出ようとするが、アリサが手で止める。もう1人の男はクレイルの言葉通りだと感じて何も言わなかった。
「確かに私達では貴方達には勝てません。だから頼みがあります。攻略班でその力を使ってみませんか? こちらとしても戦力は欲しいです」
アリサの言葉に2人は悩む。2人が攻略班に頼らなかったのは、足手まといが出来るのを嫌ったからである。普通なら断ればいいんだが、悩んでいる理由は頼んでいる人が可愛い女の子だからである。タケルとしてはクレイルの年齢を知らないが(キャラメイクが現実とかなり近い設定のため、顔や身長からある程度の年齢を予想出来るが………)見たところ年齢に大した違いが無い。男子校に通っている男子が自分と同じくらいの可愛い女の子から頼み事をされたら答えは1つ。
「いいぜ。可愛い女の子からの頼みなら断る理由が無いからな」
「まあ、タケルが言うなら俺もそれでいい。よろしくな」
「ありがとうございます……………」
タケルは気付かなかったがアリサはかなり赤面していた。自分と同じくらいの年齢の男の子に可愛いと言われたからである。
「あの、さっき何て言いました?」
アリサがタケルに向かって、小さめの声で聞く。
「ん? 可愛い女の子からの頼みなら断る理由が無いって言ったけど………………ゴブァ!!?」
タケルの腹にアリサの拳があった。そして、タケルの意識が飛んでいる。タケルには見えなかったがアリサの顔はかなり赤面している。もしかしたら、ここからがタケルの不幸な物語と本当の物語の始まりかも知れない…………。