スベテ・ノ・ハジマリ
事の始まりはたった1つのゲームだった。「Freedom creation the world」略して「FCTW」。自由度の高いゲームでキャラメイクも自由自在。自分の顔を再現することも可能となっている。職業も1000を超える数があり、そこから、ノーマルスキル、ユニークスキル、職業スキルといった様々なスキルを習得することが可能である。4つの世界から好きな世界を選び、世界の中心にある巨大なダンジョンを攻略していくゲームだ。
売上本数は僅か1ヶ月で1000万本。これは日本だけでの記録であり、世界でならかなりの売上本数を叩き出している。そして、ゲーム発売から3ヶ月後、大型アップデートが行われる。内容はダンジョンの階層の増加と難易度の調整、5つ目の世界の解放とかなり豪華な内容となっていた。
高校2年生の山崎 剛もこのゲームのプレイヤーだった。彼はバスケ部所属で、次期キャプテン、エースなどと呼ばれ、人気者だった。プロからも声がかかっており、将来が約束されたようなものだった。そう、あの事件が起きなければ………………。
行われた大型アップデート。このゲームはVRMMOというジャンルに入り、簡単な話、自分がゲームの世界に入るというものであった。ヘッドギアというヘルメットを着用してプレイするゲームである。そしてアップデートの日の学校の帰り道、中学からの仲である 内藤 大河と会話しながら帰り道を歩いていた。
「そう言えば、今日アプデがあったな。今日、何時からやる?明日部活無いから何時でもいいぜ」
大河が剛に向かってそう言う。剛は普通に、
「俺も無いから、夜の11時な」
「OK。じゃあ、また後でな」
大河と剛は交差点で別れる。合図として必ず別れる時は左手を挙げる。二人は左手を挙げ、それぞれの道を行く。
「ただいま〜。今日の夜ご飯は何?」
剛がドアを開けながら言う。リビングから剛の母が出てくる。家は和風の一軒家で、かなり広い。
「あら、今日は遅かったね。部活が長引いたのかい?今日はから揚げだよ」
「ラッキー! じゃあ、風呂に入るわ」
剛は靴を脱ぐと自分の部屋にかばんを置いて、浴室に行く。その後は夜ご飯を食べ、両親と妹と会話し、宿題し、そうして時間が過ぎていく。
剛がゲームを始めようと思い、大河にメールを送る。大河からメールの返信が来る。それを確認して、ヘッドギアを着けようと思ったその時だった。誰かがドアを開ける。妹だった。両手にはしっかりとヘッドギアを持っていた。
「お兄ちゃん! 今からゲームやるでしょ? 私を入れてよ!」
「わーた、わーた。早くヘッドギア着けろ。早くしねえとログインするぞ?」
剛がヘッドギアを着けながら言う。妹もそれを聞いて慌ててヘッドギアを着ける。剛は妹がヘッドギアを着け終わるのを見ると電源を入れる。視界が徐々に青くなって行く。IDとパスワードが自動的に入力され、気付いた時にはゲームの世界にいた。
「よ〜。剛。今日は何するんだ?」
声のする方向を見ると、大河がいた。剛達のいる世界は『世紀末』。どこを見ても、廃墟ばかりである。遠くの方には都会と言える所もあるが、それでも、治安は悪く、スラム街化としている。
「妹がログイン中だから待ってろ。日が変わるまで、『セブンスヘヴン』で話さないか?」
セブンスヘヴンは、剛達が拠点にしているバーである。都会の地下にあるバーだが、路地の奥にあるため、見つけるのは困難である。更に内部はかなり複雑で見取り図があっても迷いそうである。
「りょーかい。5つ目のワールドの解放は日が変わってからだからだもんな。来たぞ」
妹のアバターが出てくる。今更だが、服装は剛が黒い紳士服を着ている。大河は黒いシャツの上に茶のロングコートを着ている。そして、妹のアバターは青のTシャツに黒のジーンズ。ハッキリ言って、剛は自分の趣味、大河はファッション雑誌を見て、妹はいつもの服装であった。武器思われる物は、今のところ誰も持っていない。
「早くセブンスヘヴンに行こ! 皆、多分待ってるよ!」
妹がそう言う。セブンスヘヴンはログインして行けば、誰かはいる。そういうところだ。三人はセブンスヘヴンに向かう。
行く道は平和で、すぐに着いた。中は狭い、汚い、薄暗いの三拍子が見事に揃っている。カウンター席には二人の男女が座っている。一人はかなり大男で更に筋肉質。服装は黒いシャツにジーンズと夏はいいが冬はきつそうな服装をしている。もう一人は黒いロングの髪の女性でかなりの美形である。服装は赤のTシャツにジーンズである。
「リーダー。今日は早いですね。仕事サボったんですか?」
「そういう事を言うんじゃねえよ。今日は休みとったんだ。昼からログインしてるぜ」
剛は大男に言い、大男は少し焦って答える。大男の名前はリーダーと表示されている。剛はタケル、大河はガオウ、妹はアイ、女性はミラと表示されている。
「私は少し前にログインしたな。ちょっと前にターゲットハントしてきたぞ。後少しで5つ目解放だな」
ミラがそう言う。アップデートの適応は日付けが変わる時で、新たなスキルや職業の為、多くのプレイヤーは日付けが変わるまで、退屈している。
「私も、もう少し早くログインしておけばよかった。後少しでユニークスキル解放なのに……」
ユニークスキルは特定の条件を満たすと解放されるスキル。どれも強力であるが、結構条件が厳しい。
「まあ、いいんじゃないか?ターゲットハントなんて、結構貼り出されるぞ?」
ターゲットハントは世紀末限定のクエストで、簡単に言えば、目標の殺害である。クエストはセブンスヘヴンといった、酒場に貼り出される物で、クリアすれば報酬が貰える。
「今からじゃ、ターゲットハントは厳しいな。適当に雑談でもしようぜ」
それから、チームで雑談をして時間を過ごした。そして午前0時。タケル達は中央広場にテレポートされる。中央広場は4つの世界の中心にあり、そこから別の世界に行ける。中央広場ではイベントの開会式や閉会式などが行われる。タケル達は、いつものイベントの開会式と思っていた。
「いつもの開会式か?しかし、こんな時間とは珍しいな」
ガオウがそう言う。
「たまには、こういうのも悪く無いだろう。始まるぞ」
ミラがそう言うと、広場の中心に巨大なローブを羽織ったアバターが出てくる。初めての演出だったため、混乱している。
「こんな演出、初めてだよね?」
「たまにはいいと思うぞ。こういう演出があっても」
アイの言葉にリーダーが反応する。タケル達は変わった演出という事で混乱はしていない。
『FCTWのプレイヤー諸君。まずはメニューを見てくれ』
タケルはメニューを開く。そして異常にすぐに気付く。
「メニュー欄からログアウトに関する項目が消えている……?」
『今見てもらった通り、メニューからログアウトに関する項目を排除した。そしてこれは不具合じゃない。仕様だ。もう一度言う、仕様だ』
多くのプレイヤーは混乱している。流石にこの事にはタケル達も混乱している。
「ログアウト出来ない? どうすればいいんだ?」
「まあ、落ち着け。平常心を忘れたら行けないぞ」
「結構余裕ですね、ミラさん」
「いや、私だって余裕は無いぞ。たがこういう予想外は仕事柄慣れているからな」
「それでも、普通に凄いですよ。流石はチームのクール担当」
ミラは落ち着いており、ミラ以外は少し混乱していたがミラのおかげで平常心を取り戻した。
『このゲームから脱出するためには、5つ目の世界に辿り着く事。そのために大型ダンジョン、カテドラルを解放する!」
上を見ると、宙に浮く巨大な螺旋状の建物。そして、その上に5つ目の世界があった。他のプレイヤーにはよく見えなかったらしいが、タケルにはしっかりと見えた。そこはまるで……
「楽園だな……………」
『カテドラルは全1000階層。カテドラルの1000階をクリアした者だけがこの世界からの脱出する権利を得る!』
あるプレイヤーが疑問を抱く。HPが0になると、どうなるか?という疑問に……
『HPが0になったら、その時は『屍人』(デッドマン)として蘇生される。儀式を行えば元通りになるが、10日以内に儀式を行わなければキャラロストする。キャラロストしたら、現実世界に戻れるが何らかの障害を持った状態で戻る事になる。最悪、死亡という事もあり得る。安全に帰りたいと思うなら5つ目の世界に辿り着く事だ!』
そう言って、ローブの男は消える。タケル達は混乱しながらも、取り敢えずセブンスヘヴンに帰る。
「今から今後の行動についての会議を行うぞ」
リーダーがそう言う。
「とるべき行動は幾つかあるが、俺たちもカテドラルの攻略に参加するか否かだな」
「既に、各世界のトップ集団は攻略隊をカテドラルに派遣しているな。だが、第1階層のボスまでは辿り着いていないな」
ガオウがそう言う。4つの世界はそれぞれ『魔法』、『現代』、『近未来』、『世紀末』と分かれていて、各世界のトップ集団は既に行動を開始している。ただ『世紀末』は実質2位の集団だが……。
「世紀末トップの私達はここからどう行動するかだよね」
アイがそう言う。タケル達は世紀末1位の集団だが表立って行動はしていない。更に………
「俺達の集団はメンバーが殆ど別の世界にいる。一度招集しないといけないかも知れないな」
タケルが言う。タケル達の集団は少数精鋭で更に、メンバーが各世界に散らばっている。
「確かにな。メンバーの招集をしないと、これからの行動を決定出来ないしな」
個々の能力はかなり高く、下手な集団より一人の方が戦闘力が高い。更に集団自体の行動を決める時は全員招集してからがルールとなっている。他にも多くのルールが存在している。
「招集はリーダーがやってくれ、俺は2日程、出かける。他の世界の対応を知りたい。許可してくれるか?」
タケルがリーダーに向かって言う。リーダーは少しの間悩み、タケルに質問をする。
「それが、集団全体として有益となれば許可しよう」
「ルールは絶対破らない。それが、集団結成時の約束だろ?」
「聞くだけ無駄だったな。許可しよう」
リーダーが安心した顔で言う。タケル達は個人よりも集団を生かす事を理念としている。例えそれが個人を殺す事になっても………。
「じゃあ、2日後。ここで会おう」
そう言って、タケルはバーから出て行く。始まったデスゲーム。それに向かって、歩みを始める。