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侵入者ですか?

 外の世界と繋がるまで残り1日。

 無事モンスターの召喚も終えた高山はのんびりとした時間を過ごしていた。


 ダンジョンについての知識を付けなさいよ! とアイリに言われてモンスターの説明やポイントを消費して作成できるものなどを日々勉強をしている。


 傍にはイリアが高山の座っている椅子よりは随分と質素な椅子に座り控えている。

 始めはずっと立ったままだったのが高山に座ってくださいと言われ、断っていたのだが結局イリアは折れるのだ。

 イリア自身もわかっていたが高山にじっと目を見つめられたままお願いされると断りきれないのだ。アイリは平気で断ったりするのだが。

 せめてもの妥協点としてこの質素な椅子に座ることにしたイリア。特に用がないときはいつも高山の傍にいる。


 そのころアイリは高山の作成したダンジョンを何度も入念に見返していた。なにか問題はないか。見落としはないか。

 明日には外の世界に繋がるのだ。初めての侵入者にダンジョンコアを壊されたものも少なくない。念には念をそう考えるのだが。


(これだけポイント使えばそうそうは突破されないわね)


 高山が初めに持っていたダンジョン作成ポイントは100万。通常は1万程度なのだ。どれだけ大量かわかるだろう。

 普通ならこの地下1階層にかけれるポイントは5000と言ったところだ。しかし高山のダンジョンはおよそ15万。すでに中規模のダンジョンだ。

 だが実際にはなにが起こるかわからない。何人ものダンジョンマスターの最後を見てきたアイリにはどれだけ優れたダンジョンに見えても無敵ではないということを知っている。


(肝心のマスターはどうしてあんなに緩いのか、まったく!)


 愚痴を言いつつも、高山のために入念にチェックするのだった。




「たかやまー!?」


 いつしか呼び捨てになっていたアイリはこのダンジョンの主である高山を探していた。

 ついに今日、外の世界に繋がる。だというのに高山の姿が見当たらない。自室にも食事部屋や居間にもいない。

 まさかとは思い温泉へと続く扉を開く。


「何やってんの!? もうすぐ繋がるんだよ!?」

「いえ、これだけすばらしい温泉があるとつい朝風呂に入りたくなりましてね」

「って、急に立ち上がらないでよ! 前! 前、隠してよ!」




『外の世界に繋がりました。これからはダンジョンに侵入者がやってきます。知恵を絞りダンジョンを鍛え生き延びてください。それではダンジョンマスター様にこの世界で幸あらんことを願っています』


 高山のウィンドウに表示される文字を読み相変わらず悪趣味ねとアイリは内心で毒づく。


(なにが幸あらんことよ。召喚した側の人間の言う台詞じゃない)


「これで外の世界と繋がったんですか?」

「そうよ。いつ侵入者が来るかはわからないけど、ダンジョンに侵入したらアラームがなるから」

「そうですか。侵入者さんが来たら私は何をすればいいのでしょう?」

「黙ってウィンドウに表示されるモニターを見ているといいわ。そうすればこの先自分が何をすればいいのかわかるはずよ」


 こればかりは慣れとしか言いようがないだろう。ウィンドウの先で、このダンジョンの中で行われることをしっかり受け入れることが出来るか。

 元の世界の安全な場所で育った物たちにとってダンジョンで行われる行為は普通とはいえないだろう。

 殺し殺されの繰り返し。勝っても負けてもどちらにしても血を見ることになる世界。


 マスターのほとんどは始めはその光景に恐れを抱く。当たり前だ。人が死ぬのだ。あまりにもあっけなく。

 しかし人は慣れる動物だ。恐れを抱いていたマスターたちもいずれは日常的に行われる殺人という光景に慣れ、自分の手で殺めることさえ厭わなくなる。

 きっと高山も慣れてしまうのだろう。ただアイリは高山にはそうなって欲しくない。なぜかそう思うのだった。



 それから高山のダンジョンに侵入者が来たのは1週間ほど経ったころだった。

「よく見て起きないさいよ。ここで行われることをしっかりとその目に焼き付けなさい!」







 深い森の奥だった。

 ぽっかりと空いた洞窟を前に5人の冒険者が準備を整えていた。装備をみるからに初心者といっていいだろう彼らは、まだ攻略されていない新しいダンジョンを前に胸を高揚を抑え切れずにいた。






「未報告のダンジョンを見つけた!」

「馬鹿やろう! キース! 声がでけぇよ!」


 ダンジョンに突入する2日ほど前、町の酒場にいた新米の冒険者のラウルは隣にいた4人組のグループの話していることに耳を傾ける。


「おぉ、わりぃ、わりぃ。怒んなよ、ダン。それでダンジョンなんだけどよ。西の森の奥で狩りをしてたらよ。少し前まで何もなかったところに穴が空いていたんだよ!」

「それで俺たちは新しいダンジョンだって思ってすぐにここに戻ってきたわけだ。みんなで攻略に行こうぜ!」


 キースとダンと呼び合う男達はその仲間と思われる、男と女に声を掛けていた。


「ぎ、ギルドに報告しなくていいのかな?」

「馬鹿やろう。それじゃ報酬が減っちまうし、他のやつらに攻略されるかもしれないだろ」

「で、でもダンジョンを4人で攻略できるのかな?」

「ホント、ポルは臆病だなー。知らないのか発見されたばかりのダンジョンはまだ力が弱いんだ。力が弱い今なら俺達でも絶対大丈夫だって。そしてダンジョンコアをゲットして一躍俺達も有名人だ!」

「レ、レアナは反対だよね!?」


 ポルと呼ばれた男はそれまで黙って成り行きを見守っていた女に声を掛ける。


「おもしろそうじゃない。行ってみましょう?」


 最後の頼みの綱のレアナもキースとダンに賛同してしまいポルはがっくりと肩を落とす。


「じゃあ作戦会議だ!」



 隣で聞いていたラウルはそんな彼らを羨ましく思っていた。ダンジョンの話ではない。

 仲の良さそうな彼らの姿にだ。ラウルは新人の冒険者だが彼らのように仲間はいない。

 何度かパーティへ誘われることはあったのだが引っ込み思案な彼女はほとんど断っていた。なんどかパーティを組んだことはあったが彼らのように固定的にパーティを組むものは1人もいない。


 ラウルは思う。もし私にほんの少しの勇気があれば彼らのようになれるのだろうかと。

 もしここで勇気を出せばなにかが変わるのだろうかと。

 そして彼女はついにここで勇気を振り絞る。


「あの私をパーティに入れてください!」


 そんな彼女をキース達は喜んで受け入れる。

 それがラウルにとって幸か不幸かは別としてだ。






「じゃあ用意はいいかみんな?」


 このパーティのリーダー格であるキースは最後の確認を行いついにダンジョンへと突入する。



「さて、いきなり分かれ道なわけだが」

「キースの好きな方選びなよ。どっちがいいかわからないし、二手に分かれるわけにもいかないからな」


 じゃあ右だ! と勢いよくいうと一同は右の道へと進んでいく。

 彼らのパーティは前衛が3人、後衛が2人だ。

 キースを先頭に、その後ろをダンとレアナが左右に分かれて辺りを警戒する。さらにその後ろを弓使いのポルと魔法使いであるラウルと続く。


「でもラウルちゃんがパーティに加わってくれて本当に助かったわ」

「そうだな。パルの後衛は安心できないからな」


 レアナとダンの言葉に2人ともひどいよーと嘆くポル。




「マジかよ。これ砂漠じゃね?」


 先頭を行くキースの声に前を見ると狭い通路を抜けた先には一面、乾いた砂。ダンジョン内部がこうして変わった性質を持つのは珍しくない。

 氷で出来た場所や、マグマが吹き上がる場所さえもある。ただ出来たばかりのダンジョンとしては珍しいのだが。

 もしそのことに誰かが気付いていれば、このダンジョンのが普通でないと気付くことができ引き返すことが出来たなら、この後の彼らの運命は大きく変わっていただろう。

 しかし、まだ初心者といっていい彼らには気付くことはできなかった。



「あちぃー」

「いちいち言うなよ、キース。余計暑くなる」

「しかたねぇーだろ。まじで暑いんだから」


 本当に洞窟の中なのかと疑いたくなるほどに熱い。まるで本物の砂漠のようだ。

 乾いた砂は思うように足に踏ん張りが効かず、前に進みにくい。熱さと足場の影響で徐々に体力を奪われていく。


「ま、前からモンスターが来るよ」


 ポルが前を指差すとそこには全身骨で出来たモンスターがいた。


「ワイトか! けっ、涼しそうでなりよりだ。2体だけか。行くぜ!」


 すぐに敵を確認すると、周りに指示を出すキース。キースを先頭に一気に距離を縮める。

 腰に据えたソードを手に彼の渾身の一撃は、ワイトの体を軽々と砕く。もう1体もダンの手によりあっけなく倒されていた。


「なんだたいしたことねぇな!」

「!? キース後ろ!!!」


 レアナの言葉に振り返ろうとしたキースの胸に衝撃が走る。


「な、なんだこれは」


 彼の胸には先ほど切り倒したはずのワイトの剣が突き出ていた。


「キース!? このやろう!」


 ダンはキースに剣を突き立てるワイトを攻撃しようとするが、ふと嫌な予感がよぎり先ほど自分で倒したはずのワイトの方へ振り返る。

 そこにはなにごともなかったように佇む一体のワイト。


「どうなってんだよ! これはよぉ!」

「知らないわよ! 早くキースを助けないと、、、きゃ!」


 ふと足首に違和感を感じたレアナは下を向くとそこには包帯を巻いた手が砂から飛び出し彼女の足を掴んでいた。



「ど、どうなってるの」


 ラウルは酷く混乱していた。倒したと思ったモンスターが復活し、キースの胸に剣を突き立てている。ダンは2体のワイトに囲まれ、レアナは砂の中へ引きずり込まれている。

 なんとかなしなければ! 彼女は急ぎ魔法の詠唱を始める。


「う、うわぁぁーー! もう駄目だ!!!」


 ラウルの隣にいたポルは目の前の惨状に怯え、身を翻し来た道を引き返そうとする。


「なにやってんだポル!!」


 ダンの声が聞こえる。


(そんな! 仲間を見捨てて逃げるなんて!)


 ラウルがポルへと視線をやったとき彼の首がごとりと落ちた。

 一瞬遅れ真っ赤な血が噴き出す。

 彼の前には一体のワイトが静かに立ち尽くす。


 ラウルの詠唱は止まった。

 いや、詠唱を辞めた。


(無理だ)


 ラウルは自分がここで死ぬのだと悟った。

 ダンがワイトに切り捨てられた。レアナはすでに体の半分以上砂の中に埋まっている。彼女の悲痛な叫び声が虚しく響く。


 ラウルもいつのまにか足を掴まれ砂の中に引きずり込まれている。抵抗する力はどこにもなかった。


(どうしてこうなったのかな。やっぱり私は1人で寂しく依頼をこなしていた方が良かったのかな)


 ずるずると砂の中へ引き込まれる彼女は自分の行動を少しだけ後悔する。


(短い人生だったなぁ)



 生き埋めってつらいのかなと考えると彼女は少しだけ涙を零すのだった。

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